百六十八話 女神の思い出⑦
約束を交わしてから、私は国に戻りました。
国までは結構距離があったので、黒龍様が送ってくれました。
私がどうやって帰ろうかと困っていたら、抱っこしてくれました。
凄く恥ずかしかったですが、とても嬉しかったですね。
とは言え、一応敵なので、近くまででしたけどね。
「さて、この辺りにしておくか」
「あ、有難うございます」
「ふむ。我が運んでやった人間は、片手の指の数程度しかいない。光栄に思うが良い」
「は、はい」
「まあ、我には目的がある。個人的な物は女神とやらに会う事。もう一つは戦争を止める事だな」
「そうなんですか」
「正確には、王国に反撃をする事だが、そこまでする義理は無い」
「え?では、王国と戦う理由は?」
「竜聖国の外交の為だな。帝国は愚者しか居らぬ」
聞いて良いのか判らない情報を、話すイヴェトラ様。
意外でしたが、会話が好きな方なのです。
私が与えられた役目は、黒龍様の為にもなると知ってから、舞い上がってしまいました。
もう既に、私は王国の事なんてそっち退けでした。
女神失格ですね。
でも、仕方ないと思います。
なんとしてでも、イヴェトラ様を知りたかったんです。
隣に立ちたかったんです。
憧れましたから。
イヴェトラ様とお別れをしてから、終戦させる方法を練りました。
正直、方法はすぐに閃きました。
私が国に帰った時に、心配されました。
あ、私がでは無いです。
女神が死んだかどうかが心配だったみたいですよ。
錬金術師の彼や、街の民の方達は喜んでくれましたね。
まあ、もうそんな事どうでも良くて、考えていたのは1つだけですけどね。
さて、それはそれとして、どうやって戦争を止めたかですよね?
まず私は、黒龍の恐ろしさについて説きました。
私は、女神という権力を駆使して、大変丁寧に説明して行ったのです。
勿論、嘘は吐いていませんよ?
中には誇張だと言う者もおりましたが、私はとても信頼されていました。
ああ、他の貴族には疎まれていましたかね?
それでも、私の話を信じる者は多く、まず、第一段階は問題無く乗り切りました。
さて、黒龍の恐ろしさを触れ回ったら、次の段階に進みます。
私は恐怖を抱いていながらも、国の為に尽力する風な、雰囲気を見せながら、一騎討ちを提案しました。
黒龍と女神が戦い、その結果で、戦争の命運を決めてはどうかと言ったのです。
勝てる自信はあるのかと問われましたが、そこは嘘を吐きました。
いや、勝てる筈が無いでしょう?
当たり前ですよね?
魔法を使う前に制圧されて終わりですよ。
私は偽物の女神なのですから。
そもそも誰が言い出したんですか?
私は1度たりとも自称した事はありません。
なのに、勝手に女神にされて、私の所為で民達は亡くなったのです。
一騎討ちをする作戦ですが、1つだけ穴があります。
イヴェトラ様が、ちゃんと演じてくれるかどうかです。
もし、私が討ち取られたら?
そもそも、イヴェトラ様が協力してくれる保証はありませんでした。
随分とお花畑ですよね。
もう既に、協力して貰えるつもりでした。
勢いのまま、戦場へ。
「いや、何故我が手伝わねばならぬ?」
「え!?」
まあ、こうなります。
「で、でも。もう、王様には啖呵を切ったんですよ!?」
「自業自得では無いか?」
「それはそうですけど。ですけどぉ」
「それに勘違いしている。考えるとは言ったが、約束した覚えは無い」
「ふぇ?あ、え?」
「な、何故泣く!?」
終いには泣きました。
結果的には効果があって、なし崩し的に婚約したんですけど、今思えば、卑怯だなあと。
「ああ!全く。わかったから。その代わり、手助けはこれだけだぞ!?」
「側に置いて下さるのですか?」
「ぐぬぅ。そうは言っとらん」
「でも、約束」
「してないぞ!?」
「黒龍様ともあろう者が、約束を違えるなんて」
「ぬうぅ。わかった。我も龍だ。二言は無い」
「ほ、本当ですか!絶対ですよ!?」
もうほんと。ゴリ押しですね。
私。ナイス。実はイヴェトラ様は押しに弱いのです。
「はあ。何故こうなったのだ。いや、しかし国に帰れば巫女が。身を固める時が来てしまったのか。遅かれ早かれか」
「あの?」
「もう、こうなったら自棄だ。トコトンまで付き合ってやろう。文句は言わせぬ。良いのか?」
「は、はい」
「何故そこで頬を赤らめるのだ。反応に困る」
あー、良いですね。
強引な所も、時々優しい所も全部好きです。
私は嬉しすぎて舞い上がってましたね。
天にも昇る様な?と言うやつです。
しかし、なんとか保存出来ませんか?
へえ?かめら?成る程。
え!?本当ですか?是非。
あ、イヴェトラ様は無理。そうですか。
いえ、それでも嬉しいです。
え?続き?
あ!はい。えーと?
ああ、あの後に名前を教えて貰いました。
それからは、まあ特に不都合無く。
式は行わなかったですが、それでも嬉しかったです。
イヴェトラ様の顔が知れ渡っていないとは言え、流石に大っぴらには行えませんよね。
竜聖国で結婚式をする約束したんですよね。
はあ。死にたくなかったなあ。
グスッ。
もう一度、会いたいです。イヴェトラ様。