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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
七章 継承者
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百六十七話 女神の思い出⑥

王国と帝国の戦争が始まりました。


当時、国力の落ちている帝国との戦いは、かなり有利な戦況でした。

私の役目は、怪我人の治療と前線の維持でした。


私は、人々の為に魔法を練習しました。

いつ頃だったか、透明な壁の魔法を習得しました。

そして、この魔法が非常に強かったんです。

壁内部からの攻撃は透過して、外部からは弾くと言う、意味の分からない魔法でした。


此方は無傷。相手方の攻撃は無駄。

私自身、攻撃魔法の才能は無かったですが、味方が安心して攻撃出来ると言うのは、戦争の行方を左右するには充分でした。


帝国側から、停戦協定の申し立てが来たのは早かったですね。

私としては、ここで終戦して欲しいと思っていました。

人を殺す為に、魔法の練習をしたのではないんですよ。

ただ、護りたいと願ったんです。恩を返す為に。


だからこそです。

元々、義父様には王都に行くのは反対されました。

ですが、私は反抗しました。

今思えば、本当に私の為だったんだと思います。

それを理解したのは、停戦明け間近の時。

もう、戻る事はできませんでした。



あーそう言えば、停戦期間中にある人と出会いましたね。


彼は所謂、錬金術師と言うやつでした。


一応、私は功労者として、色々な方とお話しをする機会が出来ました。

その時に彼と会話をしたのですが、なんとなく気が合ったんですよ。

それで、どうにも話を聞く内に、彼も戦争を止めたかったらしいのです。

それから、度々論議を交わすようになりました。


これは、その時の会話ですね。



「女神様!戦争をどうにか止められませんか」

「そうですね」

「私は、人を殺す為に錬金術を研究したのでは無いのです。皆が豊かに、幸せになれる様に努力をしたんです」

「はい」


彼はお酒が入ってて、自棄になってましたね。

私の3つ上の方なのに、私に様を付けて呼んでいました。

少し変な所はありましたが、彼には不満が溜まっていたのです。

ほぼ、毎日聞いてあげてました。


どうにもならない事は、彼も私も知っていました。

だから、無意に日々を過ごしました。




そして、第二回目の戦争です。


当初は消化試合だと、皆は思っていた筈です。

まあ、それは私もですが。


どんどん前線を押し上げ、私達に弛緩した空気が流れていた時です。


伝説の黒龍が現れました。


あぁ、イヴェトラ様。

龍の姿でも美しいですね。

あ、いえ。続けます。


流石に、兵士達も気を引き締めました。

でも、なんとなくですが、油断はしていましたね。

大方、女神の力があるから大丈夫なんて思っていたのでしょう。

まあ、私もですけどね。

だって、私の魔法は、帝国兵の魔法すらも通さなかったんですよ?


ですが、たったの一薙です。

私を避けて、薙いだ尻尾の一撃は、私の周りに居た兵士を吹き飛ばしました。

魔法の盾で護っていたのにですよ。


目を疑いました。

何故助かったのかも理解出来ません。

一瞬で兵士達は逃げて、私と黒龍様だけになりました。

死んだと思いましたよ?


私が死を悟っていたら、イヴェトラ様が龍の姿を解除したんです。

驚きました。

10年なんて、あっという間に感じるくらいの衝撃でした。

黙ってしまった私に対して、イヴェトラ様は話し掛けてくれました。



「女神だと聞いたが、ふむ?久しいな。娘よ」

「あ、貴方は」

「どうだ?生き延びた感想は?」

「色々ありました。敵、なのですよね?」

「戦場だからな。望むなら相手をしてやろう」



何故か。無性に腹が立ってしまったんです。

偉そうに感じて。

ううぅ。心配してくれてるのに。私の馬鹿。



「伝説の黒龍だとは思いませんでした。助けて頂いた恩はありますが、倒させて貰います」

「そうか?攻撃手段も無いのにか?」


イヴェトラ様に見透かされて焦りました。


そうなんですよ。

私個人なら、戦闘力は皆無なんですよね。

まあ、所謂ハッタリを吹かすのですが、逃げる訳にはいきませんでしたから。


「時間は稼げます。援軍が来るのを待てば良いのですから。逆に、貴方の攻撃は防いで見せます」

「良い自信だな。ならば、構えよ」


勘を頼りに、魔法の盾を全力で展開しました。

ここで、余力を残す選択肢は有りませんでしたから。

まあ、無駄だったんですけどね。



パリンッ


「あ、え?」


動揺した私の目の前に、イヴェトラ様の拳が止まっていました。

攻撃すら見えず、魔法の盾すら一瞬で壊されました。

理解しましたよ?流石に。勝てないって。


瞬きとか、それ以前の問題でした。

イヴェトラ様が、拳を振り抜いていたら、跡形も無く吹き飛んでいたのですから。



「確かに良い魔法だ。我以外には、効果があるだろうな」

「そ、そんな」

「魔法か。龍の前で魔法など価値は無い。残念だがな」

「こ、殺すのですか?」

「そのつもりは無い。わざわざ、敵意の無い者の命を奪う程、我は野蛮では無い」

「な、何故?」

「んむ?ああ。女神とやらに興味が湧いたからだ。残念な事に偽物だったがな」

「に、偽物!?」

「我は神に会った事がある。だから違うと断言出来る」


ええ。ただ、担ぎ上げられてただけです。

治療が使えるだけの、偽物女神。


まあ、その言葉で目が覚めました。

期待に応えようとして、無理をしていたのだと。

もう、全てがどうでも良くなったんです。


だって、気付いてしまったんですよ。

戦争って私の所為だって。

勝てるから、勝ててしまうから戦う。

国の為などでは無く、誰かの欲の為。


そして、察しました。

私が死ねば終わると。

だから、頼みました。今度こそ、私の意志で。


「黒龍様。私を殺してくれませんか?」

「何故だ?」


イヴェトラ様は眉を顰め、鋭い瞳で私に問いました。

なので、理由を説明したんですが、簡単に跳ね返されました。


「成る程な。死ぬのは勝手だ。だが、それは自分自身の手でやるべきだ」

「介錯してくれないんですか?」

「己の死すら自分で出来ぬのか?」

「それは」

「本当に死にたいのなら、自分で実行する筈だ。しかし、自分でやらないのなら、ただの意気地無しだ」



アッサリ言い負かされました。

もう、コテンパンですよね。

私は弱くて、人任せなんです。1人だと何も出来ない。

ただただ不甲斐無くて、ボロボロ泣きました。

そんな私に、イヴェトラ様は教えてくれました。


「死とは、あらゆる答えの1つにしか過ぎん。大概はそこに至るが、死ぬ間際の者ほど後悔を残す。だから、至る前に後悔は無くすべきなのだ。己自身の手によってな」


「それは、どう言う?」


「死ぬ以外の答えを探せ。答えとは幸せ。不幸も答えの1つだが、誰も望まないだろう?」


笑いながら、そう言ったイヴェトラ様に、私は憧れました。

幸せとは何かを考えた私は、その時に思い出したんです。

約10年の月日を経た想いが甦り、心臓から全身を焦がす感覚。


初恋でした。


確信を得た心は、止まる事なく喋ってしまいました。

いつだって、私は真っ直ぐにしか進めないんです。



「黒龍様。10年前からお慕いしておりました。どうか、私を貰ってくれませんか?」



珍しく動揺するイヴェトラ様。

押し合いが始まります。

ですが、何故かこの時の私は負ける気がしませんでした。


「待て、何故そうなる!?」

「仕方ないでは無いですか!好きなんです」

「ぬ、ぬぐ」

「断ったら、今度こそ自殺します」

「ひ、卑怯である!」

「さあ!選んで下さい。私を貰うか、私を殺すかです」

「な、ならば条件を出す!それを達成したら考えよう」

「ええ!なんでもやって見せます」


私は自棄になってましたね。

今更ですが、無鉄砲もいいとこです。

ちなみに条件ですが、「戦争を止める事」でした。

いやはや、絶望しましたよ?

悩んで悩んで、方法が見つからなくて、戦争に至ったのですからね。

ですから、抗議したのです。


「ひ、卑怯です!不可能です」

「ほ、ほう?つまりは、その程度だと言う事だな?」



火がつきましたよ。あんな感じで煽られて、黙ってられる筈は無いですよ。

悔しくて悔しくて、燃え上がりました。


ですが、嬉しかったですね。

この時、私は無敵になったんです。



ふふ。さあ、どうなったんでしょうね。

答えは内緒です。


えへへ。

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