百六十五話 女神の思い出④
黒龍様は山賊達に触れました。
その時に一言告げました。
当時の私には聞こえませんでした。だからこれは、私が後から知った事です。
神の力を使って調べた事ですね。
「冥府の力よ」
一言の後には、私以外は灰になりました。
何が起きたかよく分かりませんでしたね。
手品と言うやつですかね?
現実味が無くて、不思議と怒りが湧かなかったんですよね。
父と母が消されたのに。
でも、死者を冒涜する、それではありませんでした。
まあ、何にせよ、逆らう事は出来ませんから。
心のどこかで諦めがあったんです。
でも、それのお陰で、後ろを見なくて済みましたよね。
ああ、それから街に向かって歩いていたんです。
やはり、倒れてしまいました。
予想。当たってましたね。
「ぬう。折角助けたが、流石に無理か。一応書庫を覗いて‥‥‥やはり。道を知らないのか。連れて行ってやろう。はあ、面倒な事をした」
黒龍様は、面倒くさがりながらも私を抱えて、街へと行ってくれました。
道はやはり間違えていた様です。
ああ、ローザさんだ。懐かしいなあ。
お世話になったのに、何も出来なかったな。
「お、お嬢様!?」
「倒れておってな。ここの娘だと聞いた。我は忙しい故、失礼する」
「あ、あの!」
黒龍様は去ってしまいました。
それから少し眠って、あ、目が覚めたみたいです。
「ここは?」
「ああ!良かった。お嬢様」
「夢?」
「旦那様や奥様が、お戻り頂けておりませんが、お嬢様が倒れていたと聞きました」
「お父様。お母様」
私は安心と同時に、曖昧ながらも現実だと理解していました。
お母様の、あの感触が偽物の筈はありませんから。
当然、私は泣きじゃくって、ローザさんに一杯励まされました。
「お嬢様。何があったのですか?」
「ううん。なんでも、ないの」
ほぼ一日中泣きました。
今でも、ローザさんは疑っていません。
それなのに、父と母を殺した容疑が、ローザさんになってしまいました。
納得いきませんでした。
当然です。ローザさんがそんな事する筈がありません。
当家が取り壊されたのはどうでも良いです。
父も母も居ない家に、未練などありませんから。
結局、無知な私は何も出来ませんでした。
頼る人もいない。信じられる人もいません。
まあ、10の娘が何か出来る方が変かもですよね。
ただ、王様に1つだけ願いを叶えると言われました。
私を放り出す代わりと言うやつですね。
何を頼むか。決まってます。
牢屋越しに、最後にローザさんと会話をしたんですよね。
「ローザさん」
「申し訳ありません。お嬢様」
「私。信じてる。お父様を、お母様を殺したのは、ローザさんでは無いですよね?」
「はい。ですが、私にはもう」
「どうして、死ななくちゃいけなかったの?」
「それは」
「悪い事してないのに」
「お嬢様生きてください。私が言えた言葉ではありませんが、お嬢様の幸せを願っています」
2人して泣いちゃったんです。
手を握ったら嘘じゃないって、子供ながらに。いえ、子供だったからこそ、信じられたのかもしれません。
だから、私の願いは「ローザさんを解放して下さい」でした。
それでも、追放は免れませんでした。
その後すぐに我が家は取り壊されました。
思い出が崩れる様な錯覚を抱きました。
お父様やお母様。ローザさん達との日々は、消えていきました。
儚いものです。
でも、頑張るって決めたんです。
悲しくなんてないんです。
そう、ほんの少しだけ。最後の涙です。
もう。泣きません。何があっても。
結局。家は無いのに、そこから離れられませんでした。
戻って来る筈もないのに。
「お母様。お父様。私。守って見せます。いつでも待ってますから」
2日位経ってから、ある人が来ました。
「リユーラ子爵の娘か?」
「誰?」
「私はエルノア・フォン・スルファンと言う」
「そうなんですか」
「そなたの境遇は聞いた。良ければ当家に来ないか?」
「いえ。父と母を待たねばなりませんから」
「それは、噂で耳に入れた。本当に申し訳ない事をした。あの時。当家に来ようとしなければ」
「もう、いいんです」
「頼む。何としてでもそなたを連れ帰らねばならぬ」
深々と頭を下げる伯爵様。
強情になってたんです。私。
頑張るって、後ろは振り返らないって、決めてたのに。
でも、痛そうだったから。心とか、手とか。
だから、ついて行く事にしました。
本当は理解してて、その上で、どうしたら良いのか迷っていたのです。
こうして、10年くらいですかね。
王都から離れて、伯爵領で過ごす事になりました。
王都は、本当に色々ありました。
離れて良かったんだと思いますね。
あのまま残ってたら、未練がましく居座ってたら、のたれ死んでいました。
そして、私は養子として、伯爵様の末席に加えて頂きました。
時間はかかりましたが、ゆっくりと馴染んでいきました。
正確には、皆さん優しくて、私が遠ざけてたんです。
今までの思い出が消えていくみたいで、拒絶してしまいましたね。
考え過ぎでした。
特に、義兄様には随分と助けて頂きました。
け、結構強引でしたが、塞ぎ込んでた私を、無理矢理にでも連れ出してくれました。
義兄様なりの優しさです。
本当に時間がかかりましたけどね。
それでも、第二の故郷です。私の半生を過ごした場所ですから。
今でも。義兄様には感謝しています。
生前は、女神なんて言われてましたが、義兄様の為に頑張ったからです。
せめて、伯爵家に恩を返したくて、必死に頑張ったんです。
今なら。無駄では無かったと信じています。
でも、失敗は結構ありました。
まあ、気にしないです。今更過去は変えられませんから。
私は、私の役目を果たすだけですよね。
ね?イヴェトラ様?