表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
七章 継承者
165/292

百六十四話 女神の思い出③

黒龍様と目が合ってから片時。

私は喋れずにいた。

まさにポカンとして見つめていたら、黒龍様が話し始めた。


「運が良かったな小娘。命拾いした様だぞ」


黒龍様はそう言いました。

しかし、私は助けられたのにも関わらず泣いてしまった。

目の前で父と母が亡くなってしまった。

その事を思い出したから。そして、憤ってしまった。


「運が良かった?父と母が死んだのに?」

「む?それは残念だったな」

「残念?なんで、私だけ助けたんですか!?」

「偶々だな。面白そうだから来ただけだな」

「お、面白い!?」

「ふむ」


私は混乱してしまい、黒龍様の言葉に逐一反応してしまっていた。

その時の私は、怒っていないと悲しくて、無理矢理虚勢を張っていた。

息は荒げ、半泣きだった。

勿論。私が何を言いたいのか理解していたのでしょう。

黒龍様が告げました。


「失ったのが辛いのは理解するが、今は自分が生き長らえたことを喜ぶべきだと思うがな」


当然。そんな言葉では冷静になれませんでした。


「喜ぶなんて出来る訳無いでしょう!?」


感情が爆発して、怒鳴ってしまいました。

今でも。何故殺されなかったのか、不思議ですね。


「では、死ぬか?」


黒龍様がそう言って、両の瞳が私を睨みました。

私は涙が溢れ、酷く恐怖を感じました。

でも、恐らく嘘でした。今ならそう思います。

私は死にたいと思ったのに、その時は生きたいと願っていました。

どうして、抗えたのでしょうか。

心が折れていてもおかしく無かったのに。


「まさか、睨み返されるとはな。珍しい事もある」

「殺せるものなら、殺してみてください」

「いや、気が変わったな。死に急ぐ者の目の色では無い」


何故か、黒龍様は笑っていました。

その表情の変化で、私の心臓が早鐘を鳴らしました。

確か、その時からです。いえ?もっと前かもしれませんね。

まあ、どちらでも良いです。

少なくとも、その時に死にたく無いと、願っていたのは間違いありませんから。

それから、えっと。結構無茶を言いましたね。

それも、突拍子も無いような言葉。


「私を拐ってくれませんか?」

「何?」

「もう、帰る場所もありません。私を貰ってくれませんか?」


あの時の私は本気でした。

いえ、子供心にしては、です。

でも、全てを捨てた気でいたのです。命すらも。

だからでしょう。断られました。

不思議でした。この瞬間の方が、心にダメージが入りました。

家族を失った事よりもですよ?


「要らんな」

「あ、そんな」

「貴様を拾ってどうなる?得は無い」

「そ、それは」

「自分を見失っているだけだ。その様な者ならば要らん」


完全に拒絶されました。

悲しい反面、悔しかった。

確かに、価値は無かったです。

ですけど、あんまりですよね。

まあ、もうどうにでもなれって、思っていたのを見透かされたんですよね?


「まあ、試しに生きてみよ。折角助けたのに、死ぬなどと簡単に言うべきでは無い」

「でも、私は」

「人間は寿命が短い。願わなくともすぐ死ぬ。だが、だからこそ後悔を選ばぬ努力をするべきだ」

「努力?」

「何をするのも自由だ。少なくとも長生きしたいと言った者の方が多かった。まあ、我は死からも努力からも縁遠い。だから、我の話を聞きたく無いなら、止めはせん」


黒龍様はそう言って握り拳を作る。

多分。頼めば、痛みを感じる間も無くやってくれたと思います。

本当は殺すつもりなんて無かった癖に。

それを知ったのはかなり後の事です。

私の代わりに罪を被ってくれようとした。

でも、もう大丈夫。頑張ろうって思いましたから。

多分。この時私は正解を選べました。


「分かりました。生きてみようと思います」

「うむ。良い目だ。これならば心配は要らんな」

「あの?お名前は」

「ん?名、か」


私が問えば黒龍様が黙ってしまった。

そして待っていると


「内緒だ」

「え?」

「次会った時に教えよう。こうすれば生きる理由の1つ位にはなるだろう?」

「では、必ず聞きに行きます」


私の決意を聞いた黒龍様は、転がっていた人達の所へ行きました。

よく聞き取れませんでしたが、何かを言って灰が舞いました。

まるで、そこには何も無かったかの様に。


そして、此方を一瞥して、黒龍様は天高く跳んでしまいました。

あっという間に見えなくなって、少しだけ途方に暮れました。

でも、約束しましたから。生きるって。


私は歩き始め、元来た街へと向かいました。


「生きるんだ。お母様やお父様の為に」


唯、それだけを考えていました。

子供ながら無謀でしたね。

フラフラと歩いて、意識をその内失った筈です。

記憶が曖昧ですけどね。


それから、少し飛んで目が覚めたのは、私の家のベッドの中でした。

なんとか辿り着いたのでしょうかね?


そう。私の家です。

短い間でしたけど、私の家です。

結局。色々ありましたが、家からも出ざるを得なくなりましたね。


この辺は随分と曖昧ですね。

だって、黒龍様にお会いした事が鮮明に刻まれてしまったので、他の事はよく覚えていませんから。

でも、私は救われたんです。

お陰様で、この事より辛い出来事は他に有りませんでした。


あれ?今更、1つ疑問が。

帰ろうとした方向と、私の住んでた街は方向が違います。

あぁ、そういう事ですか。

理解しました。全く。優しい方ですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ