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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
七章 継承者
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百六十二話 女神の思い出①

上下左右に揺れる馬車。

そこに乗っているのは1つの家族。

父、母、娘の3人が居て、仲の良い様が見て取れる。

さて、その家族達はとある王国の貴族で、和やかに会話をしているのだが、そこに忍び寄る複数の影がある。

これは悲劇の前触れ。幸せが絶望へと変わる瞬間。





少し時は遡る。



銀の髪を下げた少女が居た。

姿見を眺めており、メイドに服を合わせて貰っている最中である。


「ううん。何を着て行けば良いのでしょう?」

「こちらなんて、どうでしょうか?」


メイドの提案は水色のドレス。

少女は悩んでいた。

何故悩んでいるのか。それは


「そもそもどこに行くのでしょうか」

「あれ?聞いていませんか。なんでも、ある伯爵様へのご挨拶と聞きましたよ」

「え!?」

「何を着ても似合いますが、私は水色が良いと思うんです。瞳の色に映えるかなーって」

「は、伯爵様に会いに行くのであれば、白以外ダメなのでは?」

「えー?髪に重なってしまいますよ?」


少女は水色を否定したが、あれよあれよと着せられて行く。

大体、自分の美的センスよりもメイドの方が優れているので、身を任せているが、どうしても似合わなければ却下しようと考えて、姿見を見ると確かに似合っていた。

少女は、自分で言うのもなんだと思ったが、メイドが選んでくれた服に納得する。

今までメイドの衣装合わせに間違いは無かった。そして、今回も。


少女はくるりと回ってよく眺める。

メイドはニマニマと笑い、喋る。


「流石はお嬢様。大変お似合いです。お陰様で服選びがとても楽しいです」

「そ、そう?ありがとう」


お世辞だと理解しているが、少女は照れる。

そして、その場に人が訪れる。

扉が開き、1人の女性が入って来た。

セミロングの茶髪で、お淑やかな大人の女性。


「アリー?」

「あ!お母様?」

「お着替えは、よく似合っていますね」


そう言って褒めるのは少女の母君。

朗らかに笑い、全身をじっくりと眺めている。


「ありがとうございます。ローザさんが選んでくれましたから」


ローザと呼ばれたメイドは、笑いながら少女の言葉に否定を入れる。


「いえいえ。お嬢様に似合わないドレスを用意する方が不可能ですから」

「そ、そんな」

「そうねえ。綺麗な髪に負けないドレスを用意する方が大変ですね」

「お、お母様まで!?」

「本当の事ですよ。ねえ?ローザ」

「はい!奥様」

「ううぅ」


少女が褒め殺しを受けて、頬を朱に染めてしまった。

そんな感じの、ほんわかとした空気の中で、準備を整え終えてから、用意されていた馬車へと乗り込む。


そして、出立してからすぐ、少女達は会話をする。


「今更なのですが、私だけ何故、髪色が違うのでしょうか?」


少女は長年の疑問を訴えかけた。

そう。父も母も髪は茶色。しかし、娘だけは違う。

それは何故なのか。

少女は不安を思い浮かべながら、恐る恐る問い掛ける。

そして帰って来た返答は


「そうね。昔はアリーも茶色だったのよ?」

「うむ。そうだな」

「え?で、では何故?」

「もう5年になるか。実はアリシアが迷子になってな」

「5年と言うと5つの頃ですね」

「当時、メイドの目を盗んで抜け出してな。完全に油断していた」

「そうですね。わんぱくでしたからね」


母君が茶化す様に言う。

少女は申し訳無さそうに喋る。


「ゔっ、それが、覚えがなくて」

「それで、3日後に戻って来て、なんと言ったと思う?」

「えっと、なんと?」


少女が問えば、1つ咳払いをしてから、父君が似合わないモノマネを始める。


「うむ。ゴホン。妖精しゃんをみたの!」

「‥‥‥似てませんね。もっと可愛いかったです」

「む、むう。だが、開口一番がそれでな」

「あれ?それでしたら、髪色は?」

「その時既に真っ白で、最初は別の子かと思ったのだが、話を聞けば本人だと判ったのだ」

「え?では、肝心な所は分からず終いですか」

「ま、まあうむ。屋敷の事も把握しておったからな。疑う余地は無かった」

「違うでしょう、あなた?本当は無垢な表情で、とと様?なんて言われたのが決め手でしょう?」

「疑える筈がなかろう!?あんな顔で迫られたら」

「本当に親バカですね」

「あはは」


少女は苦笑いをしながら誤魔化す。

元はと言えば抜け出したのが悪く、少なくとも少女にとっては、その話を疑い様が無い。

目の前の人達が本当の家族なのだから。


一応?1つの疑問は晴れ、次の質問に移る。


「それなら、これから向かう場所はどこになるのですか?」

「うん?言ってなかったかな。我が家がお世話になった方の所に行くのだ」

「伯爵様だと聞きましたが?」

「うむ。古き付き合いでな。何を隠そう、我が妻を紹介してくれたのもそのお方なのだ。毎年伺っているのだが、今回はそなたの紹介をしておこうと思ってな」

「確かに、私を置いて出掛けてますね」


少女は少しだけ、恨みがましく棘を刺す。


「街を出るから危険でな。幼いそなたを連れて行くのもと思い、敬遠していたのだ」

「そうでしたか」


少女は不満を隠しながら、出来る限り平静を装って答えた。

しかし、母君はまたしても茶化す。


「ええ。決して、アリーに嫌がらせをしていたのでは無いのですからね」

「わ、分かっています!」

「そう?ローザから聞きましたが、いつも泣いて大変だったと」


少女は慌てて話を遮る。

そうしないと、恥ずかしくて逃げ出さないといけなくなるから。


「嘘です!その様な事はありません!」


羞恥に頬を染めて、耳を両の手で塞ぐ。

その様子を眺めた夫婦は笑う。


とても幸せな空間。馬車の中。

笑い声が響くのだった。

これから暫く思い出編です。

何話になるかは分かりませんが、本編から少し離れてしまいます。


え?今更だろうって?


‥‥‥確かに。いえ、その、なんですか?

どうぞ、お付き合い下さい。


これが終わったら、竜聖国に帰ります。

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