百六十一話 心
少女は乙女と共に馬車に乗せられて、東へと向かっていた。
つまりは帰還中であり、これからおよそ2週間程度で国に着く。
少女と乙女だけならば、帰るのに1日も必要無い。
だが、少女は一応指揮官なので残っている。
正確には、少女がその方法に思い至っていないだけであるが。
馬車の中では2人は向かい合って座り、気不味そうに見つめあっている。
少女は甘えたくて、見つめているが、自制心を強く保ち、耐えている状態。
だが、誘われたら仕方ないかと言い訳を、いつでも言える様に準備している。
乙女は、少女が甘えてこないかと待ち構えている状態。
甘やかしたいのは山々だが、拒絶されたら耐えられないのと、自分から甘えておいでと言うのは恥ずかしいので、声をかけられるのを待っている。
そんななんとも言えない空気だが、耐えかねたのか、2人が同時に声を出す。
「「あ」」
ハモってしまったので、互いに遠慮してしまう。そして、お互いに話すのを待ってしまったが、先に乙女が問い掛ける。
「あの?」
「は、はい」
「えっと」
特に何かが言いたい訳ではなかった。
甘えて欲しいだなんて言えず、咄嗟に質問を探す。そして捻り出して言葉にする。
「あのさ?どうして敬語なの?」
問われた少女は考える。
ほんの少しだけ、落ち込みながら。
あ、誘ってくれなかった。
べ、別に甘えるつもりなんて無かったけどね!
それより何故って言われても。
それは、まあ。畏れ多いから、かな?
いくら部下だって言われても、そんなに簡単には変えられない。
まあ、無意識に遠慮してるのかな。
「遠慮してるの?」
少女が考えたとほぼ同時に、乙女が口に出す。その声音は寂しげで、ほんの少しだけの小さな怒りもある。
言い当てられた少女は、焦って言葉をなくしてしまう。
「あ、あの」
「だと思った。相変わらずだよね」
「ごめんなさい」
「怒ってないよ。みーちゃん」
乙女が大切な人の名前を呼ぶ。
しかし、そのせいなのか、少女は申し訳ない気持ちで一杯になる。
「あの、嘘をついて、ごめんなさい」
「嘘?」
「私。みーちゃんさんではないんです。その、勘違いで」
「ああ、うん。そうだね」
「よく似てるんですか?」
「うん。本人だよ。記憶が無いんだろうけどね」
「な、何故それを!?」
「多分そうなんだろうなあって。それよりも敬語禁止」
「は、はい。わかり、った」
「うん。良し」
わかりましたと言おうとして、慌てて訂正をした。
冗談の様に聞こえるが、黒龍様の命令らしいので、気を抜くわけにはいかない。
それよりも、私が記憶を失っている事を知っているらしい。
ならば、失う前を知っているかもしれない。
「何故記憶を?」
「あーまあ、色々と、かな?」
「それなら、私の記憶を失う前を知っているんですか?あ、いえ。知ってるの?」
「うーん。イエスでありノーでもあるかな?」
「そう、ですか」
どうやら、あまり情報は無いかもしれない。
それでも何か判るかもしれない。
諦めるのはまだ早い。そう思い、フユさんに。いや、フユに質問する。
「知ってる範囲で良いので教えてくれる?」
「うん。良いよ。でも、期待してた答えにはならないかもね」
乙女はそう言って話し始める。
時折情報を隠しながら、伝えたのはかつての少女の情報。
どんな人だったのかなど。優しい人だったとか。
そして、大事な話を告げた。
「次に、イヴ。あなたは女神の娘だよ」
「え?え!?」
「あとは、黒龍のむす、いや?保護された子ども。えっと養子、かな」
「え??その、黒龍様の娘?」
「うん。まあ、一応」
「だからですか?」
「何が?」
「フユが助けてくれたのは」
「そうだね」
なんて事だろう。私は女神様の娘で、黒龍様の養子。それなら、白龍様が守ってくれるのは理解出来る。それが私でなければね。
あれ!?じゃあ、娘って思ったのはあながち間違いじゃない。
自意識過剰だと思ったけど、そんな事ない。
あれ?王様は知ってたのかな?多分知ってたと思う。
でも、黒龍様に会った事が無い。
一応の娘なのに。それって変だよね?
「フユ?」
「ん?」
「私。黒龍様に会った事がありませんよ。それって、一応娘なら、変だと思うけど」
少女が疑問に思った事を乙女に問えば、乙女が慌て始める。
「え!?あ、えっと。それはその」
「何故ですか?」
ただ単純に疑問。
疑っているのでなく、素朴に気になる。
「色々あってね!?うん!だから私が頼まれたの。その、面倒を」
「成る程」
「そう!色々ね!」
強い口調で押し切る乙女。
手がバタバタと動き、必死に説明をしている。
しかし、少女は追撃をする。独り言のつもりだが、それは乙女への攻撃になる。
「何故、王様は教えてくれないのでしょうか」
「うん!?それはね?内緒にしないといけなくてね!?」
「そうだったんだ。命令なら仕方ないか」
まるで自分にまで言い聞かせる様に、少女に説明を続ける。
そして、乙女も1人溢す。
「くぅ、鋭い。相変わらず。ああ、もう取り消せない。でも、これもみーちゃんの為」
乙女は唇を噛み締めて下を向く。
目の前の人と顔を合わせられず、落ち込む。
この道が、孤独だと乙女は理解している。頼らない為に仮面を被る。
ただ、目の前の人の為に。全てと戦う為に。
乙女も悪よのう。
ダークヒーロー的な?乙女。
優しき乙女の全てを賭けた戦い。記憶を取り戻すまではこんな感じです。
さて、予定は未定ですが、女神様ことアリシア様の話に脱線します。
勿論そこには黒龍父も出てきますので。
作者としては、外伝に書こうか迷いましたが、長くなりそうなので辞めました。
ですので、タイトル詐欺!と怒らないで欲しいです。
m(*_ _)m