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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
七章 継承者
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百六十話 魂の繋がり

次の日の朝。


少女が目を覚ますと、そこには綺麗な女性が寝ていた。


「あれ!?」


つまり、隣で乙女が寝ているのだが、事態の把握をするのに手間取り一瞬固まってしまう。

よくよく考えてみれば、少女が半ば強引にベッドに引き入れたのだ。少女はそれを急速に思い出す。



うぅ恥ずかしい。寝惚けちゃってた。

みんなの前で虚勢を張った意味が無いよ。

折角フユさんに負けない様に格好つけたのに。

でも、仕方ないじゃん!今まで1人で寝る事なんて無かったんだよ!?

大体、フユさんが断らないのが悪いんだよね!?

はあ、どんな顔して話し掛けたら良いんだろう。



少女の表情は七変化している。

言い訳を述べたり、責任転嫁をしたりと、実に忙しい。

すると、少女の声で目が覚めたのか、のそりと乙女が起き上がる。

少女は目が合わせられず下を向く。そして、遠慮して上目遣いで乙女を覗き込む。

実にあざとい行動なのだが、勿論乙女への効果はばつぐんだ。


「朝からツライ!」


乙女は意味不明な事を叫びながら、少女を抱きしめる。

乙女は欲望に忠実で、本能に身を任せる。

少女は抱きつかれるのを察知した。

そして、今度は抗おうとした。が、抗える筈もなく。

手を引き剥がそうとしても、力が入らない不思議。



あれ?なんで?抵抗出来ない。

ああ、無理。落ち着く。

力が抜けて、ふわふわする。懐かしい感覚。

暖かい。ぽかぽかする。



遂に少女は溶けてしまった。

溶けるとは言っても、それは言葉の綾で、半目でまどろんでいる。

少女はすこぶる弱いのだ。抱きしめられるのに。

これは唯一と言って良い程の弱点である。

どれだけ凄んでも、それをされると子猫の様に大人しくなる。

しかし、少女はまだ幼く、愛情に弱いのは仕方が無い事かもしれない。


寝て起きたは良いものの、結局このままでは再度寝てしまう。

そう思われたが、軍団長がやって来た。

時刻は早朝だが、移動を開始しないといけないので、起こしに来たのだ。


「おはようございます。お二人も起きていましたか」

「おはよーれーえんさん」


間延びした返事をする少女。

残念な事に、スイッチは切り替わらない様だ。

その様子に、軍団長は呆気に取られてしまった。


「あ、えっと」

「まあ、気にしないで」

「は、はあ」

「どーしたのー?」

「い、いえ。こちらも片付けなければなりませんから」

「うーん。わかったー」


少女が返事して、ごく自然に乙女が抱っこしてから、天幕を出て行く。

勿論。お姫様のアレだ。


いつになく少女は無垢な姿で、軍団長は困惑する。どちらが本当の姿なのかが判らず、思考が定まらない。

だが、1つ気付いた事がある。

いつでも暗殺するチャンスがあったのにやらなかったと言う事。

結果的に証明出来たが、本来試す様なものでも無い。試した結果、少女の命が奪われたら元も子もないのだから。


さらに、困惑した事は他にもある。

まるで、熟年の上下関係。それ程までに自然体だった。

信頼しあっているのがよく分かる。

先日聞いた乙女の話は本当なのかもしれない。そう、レイエンは考える。

なんとなく聞いた感じでは嘘には思えなかった。だがしかし、今の流れを見て、より一層理解する。乙女は信用に足る人物だと。

軍団長は頷きながら、天幕を片付けて行く。


さて、少女はと言うと、完全に思考が停止していた。

本来ならば、起きてすぐに電源を入れようとするのだが、その行程は省かれてしまって今もなお寝ている。

結局寝床が、ベッドから乙女の腕の中に変わっただけ。


疲れが溜まっていたのかもしれない。

乙女との激戦を繰り広げた。さらに、それからも常に仕事をしていた。

出来てしまうからこなしていたが、本来であれば、少女はまだ家族と共に幸せを噛み締めている頃なのだ。


日々を乗り越える為に、温もりを忘れてしまっていた。

そんな時。乙女と言う存在が現れた。

乙女は乙女で、愛娘の如く可愛がり、少女は温もりを求めていた。

互いに想い合い、信頼よりも強い絆が紡がれる。


少女は漸く、心安らぐ場所を見つけた。

故に抗えず、抱き付かれると力が抜けてしまう。

当然だが、誰でも良い訳ではない。

少女は特に、愛情には敏感である。沢山の人からそれを分け与えられ、愛情とは何かをよく理解している。

だからこそ、乙女のそれを一切疑わない。

乙女のそれは紛う事無き親愛で、少女はそれを信じ切っている。


魂が繋がりを覚えていて、現在がどうあれ、互いが互いを求める。

形が変わっても、見た目が変わろうとも、再び繋がる為に引き合う。運命の下に。


本当は単純な事。

お互いは、よく知っていたのだから。





天幕を出たものの、手伝いようが無いので、乙女は騎士達を眺めていた。

どうにも眺められている様な視線を感じるが、原因はわかっているので、乙女は無視をする。

と言うよりかは、乙女はある事を考えていた。



可愛い。やばい。我慢が出来なくなりそう。

ああ、でもダメ。

無邪気過ぎるよ。子どもの可愛さって半端無いね。

母性ってやつかな?

このまま心臓刺されても抵抗出来ないかも。それだけヤバい。

なんとしても護らないとね。この笑顔。


はあ、それよりも記憶か。どうしたら良いんだろう?

それ以前に、いつ言い出そう。黒龍は許してくれるって言ってたけど。

勢いで嘘ついちゃったし。本当に許してくれるかな?いや、私なら許せないもんね。

あー嫌だー。嫌われたくないよ。



深い愛情と同じ位の後悔が滲み出る。

それは乙女に根強く残る。

仮に許されても、自分が許せない。だからこそ、深く沈む乙女。

追いかけられ続ける。ひたすらに。見えない物に。無い物に。

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