百五十八話 交錯する意思
朝早くに起きた少女は、軍団長達を集めて会議を行っていた。
「では、これからの方針を決めます」
少女がそう言えば、この場の全員が黙って頷く。それらの反応を見届けて、少女は告げる。
「まずは、そうですね。一度帰りましょうか?」
「な!何故ですか!?」
軍団長がわからないと言った様子で、少女に訊ねる。
何故その結論なのかわからないレイエンさん。私も逆の立場なら、疑問を感じていたと思う。
負けた訳でも無いのに、撤退は良くない。
下手すれば罪に問われる位には。
今回の戦争で、フユさんと合流した。
ならば、このまま戦えば良いとは思うけれど、気になった事が1つある。
王様はフユさんを知っているかどうか。
事前に知っていたのなら、戦争前に同行させておけば良い筈。
一応黒龍様が黙ってやったと言う可能性もある。
それなら、問答無用で進軍すべきとは思ったけど、今一度確認しておきたい。王様と黒龍様の考えを、私は知らないからね。
待てよ?フユさんに訊けば良いのか。
そうだよ。代理者だよね。立場的に。指令を受けてるかも。
「撤退すべきではないかもしれませんが、フユさんの意見を聞きたいです」
「あ、敬語。うん。あ、いや。はい」
「宜しいですか?フユさん。あなたは黒龍様の代理であり、私達はあなたの考えを知りたいのです」
「えっと。戦うか、帰るかって事だよね?」
「はい。そうです」
「うん。イヴは撤退を考えてるんだよね?」
「情報が無いですから。黒龍様の代理のフユさんが、戦うべきだと言うなら進軍します」
少女の言葉を聞いた乙女は、焦って思わず独り言を言っているが、他者には聴こえない。飛び飛びの単語が口から出ては、消えて行く。
頭の中を整理する事で精一杯の乙女。
唯一つの目的の為に、どうすべきかを悩んでいた。
私の意見が大事って事?
そんなのわかんないよ。好き勝手にやってほしい。
今はそんなことよりも大事な事がある。
イヴは黒龍。それは間違い無い。
なのに、それを知る者が居ない?
それは、イヴ自身含めて。いや、イヴだけなのかな。
知っておきたい。誰が知ってて、誰が知らないのか。
それらを知らずに適当は出来ない。
他に、イヴに真実を伝えて良いものなのか。
本物の黒龍。あの子はイヴの為に、私を龍にした。それは間違い無い。
妹想いのあの黒龍が、あえて記憶を伏せているのには訳がある筈。
言ってはならない理由がある。
例えば、誰かから護っていたのかも。
それなら、黒龍が「頼む」と言ったのも解る。
騙されているとか?
それで、お人好しのイヴを護りたかったが、どうにも出来なくなって、仕方なく。
間接的な元親友の私を頼って今の状況。
じゃあ、この戦争も陰謀?
それなら、王様達から護る為なのかな。
その為に私は龍になった?
例えば、陰謀渦巻く世界から護る為。
戦うか、帰るか。それとも、イヴを抱えて逃げるか。
いや、勝っても負けても帰らないといけないから、逃げるか逃げないかのみ。
でも、黒龍なら国を捨てる選択も出来たと思う。
私は、結果的にだけど、そうしたんだから。
つまりそれすらも、選べなかったと考えるべき。
時間が無いと言っていた。そう言う事なのか。
じゃあ、逃げるのも駄目。国に戻って護るのが正解かな。
なら、やるしかないか。
無垢な親友を護らないと。元、親友として。
そうと決まれば、さっさと帰還してから確認したい。
戦うのはどうだろう。戦死は無いと思うけど、リスクは負いたくない。負けるつもりは無いけどね。
だから、撤退の方が無難。
問題があるとしたら、戦果無しだと怒られるかも。まあそこは、私が護る。或いは脅す。
私が頼まれたのは、この子を護る事だけ。
それ以外は、イヴに従うのみ。
乙女は覚悟を決めて、ぽつりぽつりと溢す。
「撤退かな。私も確認しないといけない事があるから」
「成る程」
少女は顎に手を当てて聞き入れる。
そこに、遠回しに待ったをかける軍団長。
「し、しかし。物資が損耗しているのでなく撤退したとあらば、どうなるか」
「そこは私の判断でと言っておきます」
「ですが」
軍団長は納得がいかないのか、少女に物申す。しかし、少女の中で答えは決定したのか、意見をはね返す。
「くどいです。フユさんは立場上、私の下に居ますが、それらの確認をする為にも帰ろうと思っています。そもそもですが、あなたはフユさんに逆らえるのですか?」
「そ、それは。そうですね」
「それとも何か、気になる事でもありますか?」
「い、いえ」
恐らく、フユさんの意見が通ったから、納得いかないのだと思う。
だって、責任は私が取るんだよ?
つまり誰も損しないのに、嫌がるのはそう言う事でしょう?
まあ私が思うに、フユさんと私が、撤退すべしと判断したならば怒られないと思うんだよね。
うーん。わからないなあ。
わからない事だらけだよ。こんな状態で戦争なんかしたらパンクしちゃうよ。
あれ?パンクって何?‥‥‥まあいい。
と言うかだよ?
黒龍様の配下の、それもただ者じゃない白龍様を、預けてくれた理由も謎。
私って大切にされてるのかな。
まるで‥‥‥娘みたいに。
ん?待てよ。娘?いや?まさかね。
流石に自意識過剰かも。
あれ?でも。確認してみよっか?
一応カマをかけて質問しよう。
違ってたら恥ずかしいし、合ってても嘘つかれるかもだから。
少女が何かを閃いて、乙女の方を向く。
手招きをして、乙女を近寄らせてから耳元で、ある事を囁く。
「あの?黒龍様に娘様はおられるのですか?」
「え?いや。居ない。流石に娘が居たら、色々と困る」
「あ、そうなんですか?困るとは?」
「な、なんでも無いよ!?」
フユさんが何故か慌ててしまった。
ひょっとして?好きなのかもね。だから、逆らえないのかも?
しかし、かなりあっさりと、娘の存在は否定された。嘘では無さそうかな。動揺が見られなかったから。
多分慌てたのは好いてたのがバレそうだったから。丸わかりだよね。
それよりも、どうやら私の予想は外れたね。
まあ、私が娘な筈無いよね。
なら、ただの親切とかなのかな。
期待されてるなら頑張らないと。
少女は決意を胸に、軍の方針を決定する。
様々な思惑を載せた騎士達は、国へと向かって動き出す。
そんな大仰なものではなく、ただ帰るだけなのだが。
出会う前からすれ違い、今も尚続く。
かつての親友同士は、歪な関係で結ばれている。
正されるまでには遠く、ソレはいつの日か、取り戻せると信じて突き進む。
相反する2人が再び混じるまで。
少女視点から見れば、白龍は崇める存在です。
しかし、乙女自身が従うと言っているので、やむなく演じています。
それはもう心労凄まじく。
今は少女がハイになってますから、その描写を書いていません。
そんな事より2日ぶりだって?
‥‥‥スミマセン。ちょっとこう、色々その、はい。
m(*_ _)m
お詫びに情報④を投稿してます。
‥‥‥よかったら見てね。