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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
七章 継承者
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百五十六話 芽吹いたもの

少女達が合流した直後。

簡易司令所を作って会議を行っていた。

その、静まった空間に一石を投じる軍団長。


「まずは指揮系統の返還ですな」


レイエンがそう言えば、少女がそれを聞いて答える。


「うん。でもさ、ほぼレイエンさんがやってるよね?」

「む、そうですね。ですが、イヴ様の命令が一番重要ですからね」

「うーん。変わらずやってくれていいよ?」

「いえ!私は基本補佐です。それに、問題はそれだけではありません」

「え?何が?」


少女が問い掛ければ、レイエンが乙女の方を見る。乙女は目を細めて、顔を顰めている。


「フユ様の扱いですね。黒龍様の使いとの事ですが、本当かどうか。さらに、本当ならば、指揮権はフユ様に預けるべきかです」


乙女にも、少女にも言い聞かせる。

少女は悩むが、乙女は即座に答える。


「私はイヴに従う。それが黒龍からの命令だから」

「左様ですか」


バチバチと音が聴こえそうな、視線の争い。

そんな事態であるが、少女はどこ吹く風で、考え事をしている。



うーん。本物だよね。フユさん。

翼があったし、嘘には思えない。

それに、気付かれたらマズい嘘を、しかも騙ったら国で最も重い、黒龍様についての嘘を言うとは考え難い。

まあ一応、フユさんを使い様だと証明する方法考えないと。

あとは指揮権か。どうしよう。

レイエンさんも、フユさんも、やる気無いらしい。

私かあ。自信ないんだけどなあ。



「フユさんは本物です。それは私が証明します。あと、指揮権は任せたいんだけど?」

「駄目です!」

「駄目だよ!」



2人揃って否定された。

何よもう!意地悪。

やってくれたっていいのに。



プンスカ怒る少女。

少女の言葉を聞いたレイエンは、嫌々と言った様子で聞き入れる。


「イヴ様が仰るならば信用致します」

「いや、別に信じなくてもいいけど?」

「うーん。気が重いなあ」



会議と言えない会議は、ただ時間を浪費して行く。

大人気無い2人。プラス子供が1人。収拾がつかない。

そんな折。軍団長の部下である騎士が、注意をする。



「いい加減にして下さい!」


叱咤によって、各々は黙る。

そして、続け様に怒る。


「軍団長!フユ様が、本物かどうか判らないのは仕方がありません。ですが、あからさまに疑うのは失礼です!」

「し、しかし」

「考え過ぎです。本当に敵ならば、僕達は死んでいます」


レイエンの部下が説得すれば、乙女は煽る。


「そうそう。簡単だよ?イヴ以外なら」

「フユ様も!」

「え!?私も!?」


飛び火は乙女にも行く。

煽らなければ、いや、どちらにせよ怒られたであろう。


「あなたは新参者です。裏切らない保証は無いですよね?ですから、おとなしくして下さい!」

「えあ、う」

「そもそも、拘束したい位です。それ程疑うべきなんですから」

「あう。はい。ごめんなさい」


あまりの剣幕に、思わず謝る乙女。

少女はと言うと、オロオロと慌てている。


「イヴ様。部下を叱って下さい。それが、イブ様の御役目ですので」

「はい。ごめんなさい」


叱られて落ち込む少女。

少女自身が、人の上に立つべきでないと思っている。自分に自信が無いから、出来るだけの努力はするものの、決断力が欠けている。

誰しも最初は、経験が無いので仕方がないのだが、軍の場では言い訳は使えない。


叱責された少女は、注意を聞いて1つの答えを出す。

それは、覚悟。少女から他者への意思。それを宣言する。

それはスイッチ。

眠っていた記憶の欠片を呼び起こす。かつて、分けてもらった心。覇者の風格。


「フユ!私の命令は絶対服従!良い!?」

「え!あ、はい!!」

「次!レイエンさん、じゃない。軍団長!」

「は、はい!」

「私をサポートする事!わかった!?」

「しょ、承知致しました!」


2人揃って姿勢を正す。

初めて見る少女の凛々しい姿。

思わず従ってしまう。それ程の迫力。


「最後に。貴方の名前は?」

「はい!先の無礼に重ね、名を名乗らさせて頂きます。ラグレンと言います。大変失礼致しました!」


ラグレンと名乗った軍団長の部下は、深々と頭を下げて卓に叩きつける。

それは正に、ゴンッ!と言った感じ。


「そうですか。覚えておきます。あと、ありがとう。まだまだですが、私を支えて下さいね」


少女は告げる。

まるで、別人が少女に宿った様な雰囲気。

無垢な姿から一転、真に公爵だと納得出来る。

猫を被っていたのかと、疑いたくなる様な姿。

完全に、空気が変わってしまった。

思わず、乙女は本人かどうかが判らなくなってしまい、親友に訊ねる。


「あ、い、イヴ?」

「フユ。皆に証明して下さい。貴女の真の姿を見せれば、騎士達も納得する筈です」

「あ、えっと」

「返事は?」


それは、乙女が凍りつく程の冷たい声音。

身をもって知る事になった、黒龍への恐怖が呼び起こされる。

それは、服従以外の選択肢を無くす。


「は、はひ」


遂に乙女は半泣きになる。

乙女にしか見えないが、少女の右眼が輝く。

その輝きは、恐怖の鎖。

怖いけど、嬉しい。そんな歪な光。

命を貰った代わりに、全てを捧げると誓った。

文字通り、命を懸けて護らねばならない。少女を。約束を。


乙女は誓う。覚悟と共に。

乙女自身の大切な者へ。

かつて、アイちゃんと魂を半分こしました。


美冬の魂は、優しさが飛び抜けていますが、アイちゃんの魂と混ざり、色々な変化が起こっています。

また、本質はどうあれ、成長の過程で心が変化します。

優しい人が、優しいままとは限らない。と言う事ですね。


そこを、乙女は少しだけ見誤りました。

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