百五十五話 合流
ふわふわと、上空を浮かぶ様に飛んでいる。
現在私は空に浮かんでいた。
「どう?凄いでしょ?」
そう言って、少女に自慢する乙女。
私は抱き抱えられてフユさんに密着している。
フユさんはとても綺麗な人で、そんな人が目の前に居るのでとても緊張している。いや、正確には今の状態が恥ずかしいのかも。
お姫様抱っこ。
安全の為と力説されたので、仕方なく受け入れている。
緊張しているのには他の理由もある。
フユさんが空を飛ぶ為に、使っているある物。
そう。翼。
背中から生えてる真っ白な綺麗な翼。
とても大きく、見るからにふわふわな羽毛。
それのお陰で、おんぶは却下。邪魔になっちゃうから仕方ない。
抱っこ。それなら‥‥‥と現在に至る。
黒龍様の眷属ならば、翼が有っても不思議は無い。寧ろ、あーやっぱりって感じ。
偉大な方の配下なら、同様に偉大。推し量る事は無礼。知る事すらも。
空を飛ぶと言う事は凄い事だ。
私達人間は地上を歩くしかない。
少女が様々な事を考えていると、不安そうに乙女が喋る。
「イヴ?」
「あ!」
思考に耽っていたので、問い掛けられた事を忘れていた。
それに気付き、慌てて答える。
「す、すいません!その、凄いです!」
「えへへ。そう?」
「はい」
「いつでも頼ってね。私、なんでもするから」
「わ、わかりました」
心底嬉しそうなフユさん。
照れてる顔がとても美しい。頬が上気している。
「ちょ、そんな目で見ないで。恥ずかしい」
「ご、ごめんなさい」
見惚れてた。あまりの綺麗さに。
照れた表情も様になってる。
でも、ジーと見られるのは嫌だよね。怒られちゃった。
「ま、まあ。いいけどさ」
怒ってはいないらしい。許してくれた。
とても寛大なフユさん。優しいお姉ちゃんだ。
少女達は雑談を交わしながら、空を泳いで行く。
兵士達と離れてから、1日近く経っている。
とは言え、歩行に追い着くのに、それ程時間は掛からなかった。
少女が集団を見つけて、乙女に伝える。
「あ、いましたね。追いつけました」
「うん。みたいだね。じゃあ、その。話してた通りにお願い」
「はい!お安い御用です」
「ふっ。そんなこと言うキャラだっけ?」
フユさんが吹き出している。
何に対して笑ったのだろうか?
わかんないや。まあ、気にしても仕方ない。
「と、取り敢えず行きましょう」
「あ、そうね。了解」
乙女は翼を畳んで、ゆっくりと地上に落下する。地面に近付けば、着地の瞬間止まってから、地に足を着ける。
当然目立っていて、囲まれるものの、すぐには斬り込んでこない。
乙女はしゃがみ、少女を降ろしてあげている。
事態の理解に追い付けない騎士達は、少女達を眺めて沈黙する者も居れば、ざわざわと話す者も居る。
そして、この事態に割り込む者が居た。
それは、面白おじさんこと、レイエン軍団長である。
「イヴ様!」
大きな声で少女を呼びながら駆け寄る。
マイペースな少女は、面白おじさんに挨拶をする。無邪気な笑顔で。
「ただいま」
「お、おお?おかえりなさいませ!」
一瞬戸惑いかけたが、流石の軍人。
疑問あれども、挨拶を欠かせる訳にはいかないらしい。
「ご無事で何よりです!ですが、これは?」
疑問があるのだろう。少女を見た後、乙女に視線を走らせる。
少女も、おじさんの疑問には理解しているので答える。
「友達になった」
「成る程!?」
説明されたが全くもって理解出来ない。
当たり前である。
敵同士だった筈だ。それなのに、2人で帰って来た。
未だ完成してない情報。少女は補足する。
「フユさんは偉い人。でも、私の部下」
説明下手な少女。呆れる乙女。
事態は混沌に呑まれかけていたが、乙女が代わりに説明を始める。
「私は黒龍様の使いのフユ。命あって、この娘に従う事になった。なので敵じゃないです」
「そ、そう。レイエンさん、わかった?」
「な、成る程。心得ました」
少女が命令に近い指示を下す。
要は、乙女に手を出すなと言う事。
少女の言う様に、黒龍様の使いならば少女ですら手が出せない相手。
簡単に言ってくれるが、気を揉む相手が増えたと言う事。
そもそも信用は出来ない。
本当の事を言っているのかもしれないが、少女が洗脳されている可能性もある。
凡そ、乙女は人の域を超えているので、嘘でも真でも変わりは無い。逆らう事が不可能だから。
しかし、少女が人質に取られているのであれば、逆らう云々の前の話である。
勝てるかどうかでは無く、勝負に挑む事すら出来ない。
レイエンは悩む。考え過ぎて、今まで苦労し続けて来た。
悩みの種が増えてしまった。乙女という名の種。
レイエンは、少女をとても優秀な人だと思っている。将来を想い、なんとしてでも守らねばと思う程に。
だからこそ、苦労が絶えない。程々と言う言葉を知らないから。
それは必然かもしれない。
レイエンに与えられた上司は、見るからに無邪気な子供。しかして、優秀。考えていない様で、全てを理解している。そんな少女。
レイエンは振り返る。貴族とは何かを。
貴族と言うものは、ガサツで理不尽な人ばかり。少なくともそう思っていた。
レイエンも貴族であるが、貴族の前に、軍人である事が誉れに感じている。
だからこそ、他の貴族からは影で罵られている。知っているが気にはしない。
棲む世界が違うから。
ところがどうだろう。目の前に居る公爵は、殆ど戦争に縁の無さそうな少女。
陛下の命令には逆らえないので、嫌々来たものだと思っていた。
幼い公爵に、箔をつける為の戦争。
軍議の席で見た印象は、可愛らしい令嬢。
その印象が逆に、子守を押し付ける貧乏くじだと思ってしまった。
騎士達に興味が無いだろうと思っていた。
なのに、急に訪ねたいと言われ、騎士の宿舎を案内した。
一切の偏見を持たず、それどころか労う事すら厭わない。
この方ならば、ついて行きたい。そんな、理想の上司を得た。
騎士達を嫌う貴族は多い。
国を護る同胞なのに。
陛下から与えられた役職。とても光栄だと当時は思った。
まだ、捨てたものでは無いかもしれない。
レイエンは少し笑う。
そして、少女の命令を飲み込むのだった。
竜聖国の中でも、レイエンさんは軍事関係では優秀な方ですね。
なので軍事に関しての実務は、ほぼ一任されてます。
王様としては、まあ、任せればいいでしょ。的な感じでイヴを預けてます。
それのせいで、過去に不信感が溜まったのですけどね。