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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
六章 運命の邂逅
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百五十二話 龍と神の戦い【後編】

気持ち長めです。

無機質な瞳の少女は起き上がる。

少女は少し固まって、不意に、乙女の方に振り返る。

少女と目が合い、なんとも言えない恐怖が沸き起こる。背筋が固まり、無意識に喉を鳴らしてしまう。


「ここは?」


そう言った少女は立ち上がり、胸に手を当てている。首を傾げ、手が赤く光ったと思えば、傷は跡形も無く消えていた。


「寝ているのか?勘違いをしたとか?傷は元人間としての錯覚?それなら、記憶が消えた弊害か」


少女は、ブツブツと独り言を喋り、右目に手を被せる。


「うぐっ、無理か。記憶すらも。これは間違い無く怒っているな。仕方ない」


少女は諦め口調で、もう一度乙女の方に向き直る。


「おい、そこの人間。訊ねたいことがある」


有無を言わさぬ脅し口調で、戦う前の少女とは思えない声音で、乙女に問いかける。


「あ、な、何?」

「私の大切な妹。ああ、いや。私を殺そうとした奴を知りたい」

「あ、それ、は」



私だ。私がやったのを知らないらしい。だから知りたいんだ。誰がやったのかを。

白状したらどうなるんだろう?

殺、されるかな。



「知らないのか?」

「えっと、もし、答えたら?」

「そいつを殺す。当然だろう?」



それもそうだよね。殺されそうになったんだもの。反撃をするのは当たり前。



「あ、その。はい」

「それは肯定か?否定なのか?」

「知ら、ないです」

「ふむ?」



バレてない。黙っとかないと。本当に殺される。

あの子とは違う。明確な殺意。



「疑わしきは、か」

「え!?」

「本当に知らないのか?まあ、知らなくても仕方ないか?」

「こ、殺すの?」

「返答が怪しいからな。知っていたなら、生かしてやっても良かったが」



う、嘘。どうしたら。

あ!

みーちゃんかどうか、確認しないと。

そして、せめて死ぬ前に謝ろう。

悔いが、残らない様に。



「ねえ?あなたは、みーちゃんなの?」


少女は眉を顰め、口が開く。

そして、ゆっくりと、乙女の質問に答える。


「私はみーちゃんではない」

「あ、そう。なんだ」


アッサリと否定をされ、完全に未練が断ち消えてしまった。

次の一言を聞くまでは。


「その名に聞き覚えがある。私の妹。妹の名前が高里美冬と言う。確か、そのあだ名で呼ぶ者がいた筈だ」

「うぐ、あ」


衝撃の事実を聞かされ、乙女は苦悶する。

後悔の波が、乙女に打ち付ける。

悔やみ、自然と懺悔する。


「また、私は殺そうとした。馬鹿。私の大馬鹿。私の所為で」

「また?どう言う意味だ?」

「え?あ、違」


乙女は否定しようとした。

が、それより早く、少女が乙女の首を掴む。

地面に叩き伏せられ、首が絞まる。


「う、ぐ」

「お前だったのか?」

「あ、違」


否定をしようにも、声が出せない。

息が苦しく、何も考えられない程に頭が混乱する。

憎悪の光に晒され、抵抗する気も無くなってしまった。

後悔の涙は左右に触れて、流れていく。


「知ら、なかったの。私。あなたに謝りたかった」

「謝れば済むと思っているのか?」

「違う。だから、伝えて」


せめて、未練を絶っておこう。

そう思ったら、少女の握力は緩む。なぜ緩んだのかは、乙女にはわからない。しかし、少女はほんの少しだけ、怒りの気配が和らぐ。


「お前を殺してやろうと思ったが、ヤメだ。だから、選ばせてやろう。妹の親友に対する情けだ」

「何、を?」

「妹を狙った者を赦す訳にはいかない。だから、今ここで死ぬか、私の血を飲むか、選べ」

「血?」

「ああ。飲めばお前は龍と成り、妹の眷属になる。それは、一生逆らえない事を意味する」

「私、は」



眷属。奴隷?みたいな物かな。

でも、もう嫌。

私。何をしていたんだろう?

自分の意志で生きる事も出来ずに、挙句には親友を、今度こそ自らの手で。

生きるのも嫌。あの子の側に居たら、一生引き摺らないといけない。



「もう、いや」


乙女がそう言えば、少女の手に力が入る。

抵抗する気は無い。それを理解したのか、少女がある一言を告げる。


「残念だ。美冬と会ったら、お前のやった事を包み隠さず説明してやる。そして、逃げた負け犬として、あの子が死んだお前を罵倒する様に、洗脳して見せようか」


少女が嗤い、乙女の心を抉る。


「そ、それは」

「ならば、生きてみせよ。本当に死にたいのか?」

「だって、なんて言ったら良いのか。わかんないよ」


乙女は涙を流し、少女に縋る。


「会って、自分で謝れ。そのチャンスを与えてやった。掴むのはお前だ」

「無理、だよ」

「そうか。美冬はお前の事を親友と思っていたのにか?なら、あの子が起きたら、美冬の所為で自殺したと伝えるとしよう。きっと泣くぞ?‥‥‥自殺するかもな」

「やめて!」


乙女は咄嗟に乞う。



また、私の所為で死ぬの?

それ、だけは嫌。

あは、は、は。

一生あの子の為に生きるしか無い。

そうする事でしか、償えない。

もう逃げる事すらも出来ない。



「わかった。なんでもする。だから、お願い」

「最初からそう言っていれば良い」


少女はそう言って、左手に傷を入れて血液の球を作り上げる。

液体を魔力で包み、ふわふわと浮かんでいる。不気味に赤黒いソレは、見るからに危険な物。

乙女はソレを受け取る。

受け取ったのを確認した少女は、ソレを飲む様に促す。


「早く飲め。私には時間がない」

「あ、えっと」

「あと、伝えておきたい事がある。二つ程な」

「何?」

「美冬は、お前を恨んでいない。だからきっと許してくれる。今回は知らん」

「え?それって」

「次!人如きが龍に成るのだ。精神を強く持っておけ。並大抵の苦痛ではない。死ねば良かったと後悔する程のな。だから、覚悟をしておけ」

「‥‥‥わかった」

「妹を頼む。私の大切な妹なのだ」

「あ、」


少女は返事を聞かずに、そっぽを向いて寝転ぶ。まるで、照れているかの様な素振り。

呆気に取られた乙女は、固まってしまうが、決意を胸にソレを呑む。


何も起こらない。そう思った矢先。

体が、全てを拒む様な、嫌悪感に包まれる。

それは痛み。あるいは、苦しみ。

何かに刺される様な。何かが体から離れようとする様な。



痛い。痛い。痛い。

苦しい。辛い。

駄目。耐えられない。

あ、ごめんなさい。みーちゃん。

無理、かも。

助けて。みーちゃん。







ふわふわと浮かぶ少女。

どこからとも無く、声が響いて聴こえる。


《クロ、起きて》

『‥‥‥誰?』

《貴女の親友ですよ》

『アイ、ちゃん?』

《‥‥‥いいえ。違います。ですが、貴女に助けを求めている者が居ます》

『そう、なんだ』

《ええ。貴女は親友を見殺しにするのですか?早く起きないと、手遅れになりますよ》

『え!?じゃあ、起きる』

《そうですよね?》

『うん!あ、それよりあなたは?』

《‥‥‥内緒です。それより急いで》

『あ、うん。また、会える?』

《‥‥‥頑張って下さい》


少女は勢い良く目を覚ます。

何か夢を見ていた気がする。思い出せない。

少女が体を起こすと、声が聞こえてくる。


「ごめんなさい。みーちゃん、ごめんなさい」

「あ、」



助け?を求められた。筈。

血が、飛び散ってる。この人のかな?

みーちゃんって誰だろうか。わかんない。

でも、この人は苦しんでる。

苦しんでる人を助けるのは当たり前。だっけ?あれ?

まあ、いっか。助けよう。



少女は乙女を顔から抱きしめ、お腹に埋める。

そして、安心させる様に言い聞かせる。

誰かの名前を借りながら。


「みーちゃんが助けに来たよ。だから、大丈夫」

「あ、みー、ちゃん?」

「そうだよ。だから、ゆっくり。落ち着いて」

「あ、あり、が、とう」


安心したのか、乙女は寝息を立て始める。

戦いは収束した。少女の奇跡の力によって。

結構これでも、マイルドに書いたつもりです。

さて、これにて六章終わりですね。


これからは、少女主観になります。時折バトンが変わるかも?


久しぶりにアイちゃんが出て来ましたね。

割と冷酷なのですが、妹が絡むと本当に。全く。

アイちゃんの再登場は、当面無しですね。


次章は、二人の擦り合わせからですね。

とっととそれを済ませて、進みたい。

という作者の願望です。

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