百四十九話 サービス
現在、乙女は湯船に浸かっている。
私は、随分とリラックスしている。
なにせ、顔だけ浮かべて、全身を湯の中に浸からせている。
行儀は悪いかもだけど、仕方ない。それだけ気持ち良いんだもん。
受付のお姉さんに、背中を流して貰って、私の長い髪まで洗ってくれた。
流石に、前は恥ずかしかったので、お断りしたけれど、他人に洗って貰うのは、気持ちが良かった。
ほんの少しだけ、前も頼めばよかったかなと後悔している。
誰かに洗って貰ったのは、幼い頃以来で、煩わしかった様な記憶がある。
自分でやると、適当になりがちなので、誰かにやって貰うのは良いかもと思い始めている。
これなら、値段が高いのも納得だなあと思いながらぼんやりしていると、受付のお姉さんが部屋に入って来た。
私は、慌てて身を縮めて座り込む。
あのままだと、上から覗かれたら、フルサービスでお見せする所だった。
今は足を畳んで、手で包んでいるので、見えない筈。
所謂、三角座りである。
そして案の定、私に用事があったみたいで、シャワーカーテン越しに、お姉さんの声が聴こえる。
「お嬢様。お食事の用意が出来ましたが、どちらでお召し上がりになりますか?」
「え!?あ、たべ、食べます」
「お持ちすれば宜しいですか?」
「は、はい。お願いします」
「承知致しました。勝手ながら、替えの服などを用意しています。着ていた衣類は、此方で洗っておきますので、どうぞごゆっくり」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。必要でしたら着替えも手伝いますので、遠慮無く呼んで下さい」
そう言って、お姉さんの気配が消える。
イヤイヤ、着替えを手伝って貰うってどういう事よ?
それって、全身を隈なく見られるって事でしょ?流石にそれは、ちょっとね。
熱くなって来たし、もう上がろう。
着替えを貸してくれるんだっけ?
えっと、着替えは‥‥‥は!?
乙女は、貸してくれるらしい服を見た瞬間、慌ててソレを凝視する。疑る様な、信じない様な目付きである。
そして、服の肩の部分を摘んで広げて、ソレに対して、頭の中で愚痴を言っている。
なに!?この薄いの!?
え?嘘、透けそう。いや、でも。え!?
あ、一応パンツはあるんだ。まあ、穿かないと見えちゃうからね。いやいやいや。
それって結局パンツは見えちゃうよね!?
あと、胸は!?絶対透けるでしょ!?
乙女は一人で、ボケとツッコミを担当している。残念ながら、ボケのセンスは無い。
そして困った事に、既に乙女の服は洗濯中なので、ソレを着る他無い。
或いは、大昔の伝統に身を委ねるかだが、それは選択肢に入る筈が無い。
乙女は諦めて、その、大胆な衣装を身に纏う。
う、うう。恥ずかしい。
あ、でも、触り心地は凄くいいかなぁ。
唯一、それが救いだよ。
乙女が絶望の表情で、姿見を眺めていると、受付のお姉さんが、食事を持って入って来る。
乙女は咄嗟に、持っていたバスタオルで、自身の身体を覆い隠す。
その行動が、お姉さんにとって不可解だったのか、首を傾げて質問してくる。
「どうか致しましたか?」
「え?あー、いや。なんでもないです」
「大変綺麗な御身体ですので、隠さなくても良いと思いますよ?」
「恥ずかしいよ」
「そう、ですかね?」
「いや、でも、流石に」
「気にされているのであれば、無理にとは言いませんが。それより、食事をお持ちしましたので、えっと、置いておきますね」
私が両手でタオルを支えているので、受け取れないと判断して、お姉さんが、気を利かせてご飯を置いて行ってくれた。
私は、お姉さんが、部屋から出て行ったのを確認してから、食事を行う。
そして、食べたご飯はとても美味しく、流石は高級ホテルだと思いながら、全部を食べ切る。
そして、ベッドも高級そうで、見るからにお姫様が使う様な立派な物で、ふわふわもこもこだと、ベットが言っている気がする。
私は、勢いのままに、そのベッドに飛び込む。
すると、私はすぐさまダメにされた。もう、このベッドからは出られないかもしれない。
そんな事を考えてしまう程気持ち良く、ふと理性が働いて、ベッドの値段とかを気にしてしまう。
そんな感じのしょうもない事を考えて、萎えてしまったが、愛しのベッドは、私を暖かく包んでくれる。
そして、私は気付かぬ内に寝てしまっていた。
次の日の朝。
目が覚めてから、ベッドから出る。
意外な事に、すんなりと起きれた。ベッドから出れないのかと思えば、そんな事も無く、容易にベッドは、私を離してくれた。
嫌われているのでは無く、まるで、頑張れと言って送り出してくれた様な、とてもスッキリとした朝。
体も軽くて、眠気は残っていない。
本当に、よく休めたのだと判る。
そして、機を見計らったかの様に、お姉さんが食事を持って来てくれた。
私が朝ごはんを受け取ると、お姉さんが挨拶代わりの、一撃をプレゼントしてくれた。
「やはり、良くお似合いですよ。お嬢様」
「え?‥‥‥あ゛!!」
そう。隠す物は無いのだから。当然。
つまり、乙女は恥ずかしい思いをした。
「隠さなくても良いと思います。お嬢様は大変美しいのですから」
「あ、あ、ありがとう」
乙女は、顔を真っ赤に染め上げ、震えている。今すぐにでも、逃げ出したいくらいに羞恥心を感じている。
一応、透けてはいない。乙女は気にしいなので、この姿が耐えられない。
何にせよ、隠す事は不可能に近かったので、あの努力は無駄とも言えるが、実に乙女らしいミスで、見られてしまうのだった。
この物語の、お色気担当は乙女ちゃんです。
攻めは得意ですが、守りは弱いです。
少し抜けてて、ポンコツに見えるかもしれませんが、乙女の良さは愛嬌です。
是非、可愛がって見てやって下さい。
作者も出来るだけいぢ、ゴホン。可愛がりますので。
GW終わりましたね。嗚呼、悲しい。
重ね重ね、頑張ります。可能な限り。