百四十六話 女神の過去
乙女が本を適当に読み込んだ後、色々な物資を買い込み、それらの積み込みを手伝い終えた所である。
仕入れついでに、軽く観光しても良いと言われて、乙女は1人で町を歩いていた。
「うーん。田舎って感じかな?」
乙女の言葉通り、この町は所謂地方であり、ここに来る前の街と比べれば寂れている。
近くに森林などがある為、資源が潤沢にある。
しかし最近では、この町から出て行く若者が多いので、限界集落とまではならないが、年齢の平均がかなり高めの町である。
町の主要道を通っても、あまり子供は見かけない。
長閑と言えば言葉は良いが、かなり静かで、少し気味が悪いぐらい。
住むには良さそうだが、不便なのは間違い無い。
乙女は、言われた通りに町の中を歩いて回ってみたが、特に何かめぼしいものは見つからない。
退屈凌ぎで、近くの雑貨屋らしき物を目に収めたので、なんとなく入ってみる事にする。
色々な小物が置いてあり、生活雑貨や携帯食料等がある。そして、本があったので眺めると、そこには「女神様の伝説」と書いてあった。
乙女は、その本に吸い込まれる様に読み始める。
貴族の娘として生まれた女神様。
子爵家の長女であり、他の兄弟姉妹は居なかったとされる。貴族として生まれ、貴族として亡くなるだろう事が、決定していた。
しかしある時、女神様の一家を乗せた馬車が盗賊に襲われてしまった。
幼い頃に家族を失って、唯一人生き残った女神様は、御家の存続すら危ぶまれていた。
結果的に、女神様の貴族位は取り壊しとなった。
噂では、女神様の御家と対立していた貴族の陰謀とも言われていた。
幼いながら身寄りを失い、家までも。
しかし女神様は、なんとか働き口を探し出して、仲の良かった貴族家の家臣として働く事になる。
家臣として働き始めた女神様は、メキメキと頭角を表し始め、その御家の、筆頭後継者の病気を治療した事で、当時の王様に推挙されることとなった。
その頃から、女神様は少しずつ知れ渡り、女神様として認識されつつあった。
それから約一年後に、疫病がアルティア帝国から伝わってしまう。
疫病の影響で、アルティア帝国も女神様の居た国にも、被害が出始めてしまう。
先に疫病が収束したのはアルティア帝国であったが、全土に蔓延した為、人口や経済力が低下した。
帝国でありながら、規模の縮小を余儀無くされており、その後の戦争も大変な事になった。
逆に女神様のいた国は、疫病が取り返しのつかなくなる一歩手前で、食い止める事に成功した。
それも女神様の尽力であり、女神様の最大の功績とされている。
その後、国を立て直した際に、この被害は誰が悪いのか調べる事になった。結論は、帝国が悪いと決定した。それがまた、言い掛かりとも言えず、戦争が発生することとなる。
帝国側は劣勢で、普通に行けば女神様率いる王国が勝つと、誰しもが信じて疑わなかった。
ある黒龍が参戦しなければ。
黒龍が参戦した事により、戦争は大敗を喫する事となり、最後には王都ごと女神様は亡くなってしまった。
帝国は今なお健在で、戦争前と比べれば国土が拡がっている。疫病の影響で、それ程拡大していないが、黒龍が味方をしている以上、どの国も戦争を仕掛ける事は無い。
現在、戦争を起こしている国は無いが、もうすぐにでも、竜聖国が西方に攻め込むと噂をされている。
乙女は本を閉じて、情報を整理する。
取り敢えずの目的は、黒龍討伐と親友探しの二本柱かな。即実行可能なのが黒龍殺しかな。でも、私より強かったらどうしよう。女神様を殺しているのなら、私よりも強い可能性は高いよね。
情報収集の為に一度会いに行ってみようか?
倒せそうなら倒して、無理そうなら先延ばしにするとか。
まあ、強いのは間違い無いから、先手必勝。隙を突く事に集中しよう。最悪逃げる事も想定しておこう。
さて、こんな所かな?
出来ることをやってから、色々やりたい事を探そう。まあ、竜王と黒龍はどっちが強いのかわからないけど、油断を誘えば勝てると思うし。
乙女は雑貨屋を後にして、店主の元へと戻る。そして、乙女達を乗せた馬車は、街へと帰って行く。
帰って来てから荷卸しを済ませて、一晩休んで次の朝。
早朝早速、乙女に話し掛ける店主。
「さてと。また仕入れに行きたいんだが、フユさんはどうする?」
「え?どう、とは?」
「あー、いや?連日は辛いだろうから、留守番でも良いかなと思ったんだよ」
辛くはないんだけどね。私は別に構わない。
あ、でも買い物とかしたいかな?
結局、あの町で欲しい物はなかったからね。
でも、レルクさんは働いてるのに私が働かないのはどうなのかな。
乙女が悩んでいると、店主が説得するかの様に言い放つ。
「まあ、ここのところ働き詰めだったからさ?ゆっくりしてると良いよ」
「そうですかね?」
「ああ」
あまり疲れた様な気はしないけれど、親切心で休めと言われたので、頷いておこう。
気になったんだけど、売り上げとか盗まれないか、とかそう言うのは考えないのかな?
まあ、そんな事はしないけどさ
乙女は黙って頷く。
そして、それを見届けてから、店主は馬車に乗って、次の仕入れへと行ってしまう。
この会話が、乙女との別れの会話だと、店主は知らずに。
また次の章にでも、女神様と黒龍様の馴れ初めを書きたいですね。
[女神様の過去〜主人公が産まれる迄]
の内容を細かく説明したいのですが、取り敢えず今章は軽く触れておくと言う事で。
乙女は空を飛ぶ事が出来る様になりましたが、やっぱり神と言ったら仰々しく、ゆっくり降りてくるイメージなので、どうしても習得させたかったですね。
ええ、作者の趣味です。