百四十二話 初めての仲間
厳しい寒さは終わり、少しずつ過ごしやすくなってきた頃。
乙女は、現在男性と共に街を歩いていた。
この街は、前居た町よりも大きく、かなり栄えている。例えるならば、田舎から都会へと上京した様なもの。
なので、乙女は人目も憚らずに、辺りをキョロキョロと見渡している。
何故、乙女が街を歩いているのかと言えば、散策も兼ねているが、乙女が働く商店の顧客への紹介が今回の目的だ。
商店の主な取引は、他の商会への売買であったりと、業者向けが大きな割合を占めている。
住民に物を売ることもあるが、それ程大きな儲けは無く、どちらかと言えばイメージアップを目的にしている。
商売ではあるが、危険な行商をこなしているので、どちらかと言うと物流と言う方が正しい。
少なくとも、重要な一手を担っているので、食いっ逸れる事はない。
他にも同じ様な仕事をする者はいるが、危険もあるのでこの仕事を選ぶ者は少ない。
まあ、この仕事を選ぶ者は、選べなかった者と言われているのだが。
一応、大事な仕事なのは間違い無いので、他の商売人から見下される事はあっても、嫌われる事はほぼ無い。
縁の下にいる者は、どうしても低く見られがちなのだ。
だが、危険がある代わりに、大きなリターンがある事もある。
そう。例えば、何かトラブルがあって、町が封鎖されたとする。
すると、物を届ける事で、感謝されて評価が上がる。
さらに、物価を跳ね上げても、文句も言われずに儲けることが出来る。
あくまで、例えの話であるが、それだけリターンが大きいかもしれないと言う事だ。
そんな感じの内容の話を、男性は熱く語りながら、乙女を連れて歩く。
そして、辿り着いたのは一際大きな建物で、店主の男性曰く、この街の最大の商会らしい。
男性は、受付の人に話し掛けてから、どうやら取り次ぎをして貰っているらしい。
伝令?的な人が、誰かを呼びに行ってしまった。
私達は指示により、待たされている。
少し時間が経ってから、中年の、いかにも豪快で巨漢な男性が歩いて来た。
そして、発する声は姿に合った声だった。
まさに、雷鳴轟く大声。
「ガッハッハ!久しいな兄弟!」
「お久しぶりです、バートンさん。先日戻りましたが、用があって来ました」
「相変わらず堅苦しいな!その子娘か?」
大声も相まって、怒っているのかわからない。
そんな感じなのに、ジロリと睨まれる様に見られてしまって私の体がすくむ。
「失礼しました。先日雇った見込みのある者です」
「レルクとの仲だ、気にはせんがな!しかし、見込みか?」
「はい。教育を受けているみたいで、商人としての計算は、恐らく私より優れています」
「ほう!?それは素晴らしいな。それでわざわざ、来たのか」
「そうですね」
「成る程な!よし。娘よ!名はなんと言う?」
唐突に、巨漢に問いかけられて慌ててしまう。
だが、紹介だと事前に聞いては居たので、一応答える事は出来た。
「は、はい!フユって言います」
すると、私の反応を見た巨漢の人は、少し声を小さくしながら、出来る限りの優しさを出して、私に話しかけてくれた。
「おっと?すまん。怖がらせたか?」
「あ、いえ!」
見透かされてしまったが、私は否定をしておく。
すると、レルク?さんが、フォロー?してくれる。
「師匠は声が大きいですからね」
「なにい!?全く。いつからこんなに生意気になったんだか」
「師匠のお陰ですかね?」
仲悪く見えるが、お互いが笑いながら、冗談を言い合っている。
少なくとも、レルクさんは巨漢の人を尊敬している。そんな感じの眼差し。
巨漢の人はと言うと、馬鹿にする様な目では無く、対等に扱おうとする感じ。
間違いなくどちらとも優しいのがわかる。
あぁ、師弟だなって思った。
よく似た2人で、まるで親子。信頼の形。
羨ましく思う。
そう。私に無かった、誰か、もしくは何かへの信頼。無くしてしまった。
乙女は思考に耽っていた。
音は拾い忘れていたが、ハッとして意識を取り戻すと、声が聞こえてきた。
「‥‥‥と思っていたんです。しかし、フユさんは、Cランクの冒険者らしいのです」
「なに?それは、ん?銀髪!?」
「師匠?どうかしましたか」
「いや?隣の町でな?銀嶺と呼ばれた冒険者の噂が、凄い事になっているらしいんだが」
「そ、そうなんですか?」
「たった1人で、町に攻め寄せた魔物の群れを、殲滅したとかって聞いたぞ?」
その言葉を聞いて、私は思わず身体が強張ってしまう。
この街でも噂になっているらしい。
いや、まだ私とは限らない。
乙女は希望に縋るも、次の一言で敢えなく崩れ去る。
「銀髪碧眼だから間違い無さそうだな。噂通りだ」
「フユさん。そうだったんですか」
レルクさんに問い詰められ、誤魔化しきれなくなってしまった。
助けてくれた人に、嘘を吐く訳にはいかない。
心臓が煩い。拒絶されるのが怖い。
でも、また逃げるの?
‥‥‥それは嫌。次こそは頑張るんだ。
そして、掠れ掠れの小声で乙女は答える。
「多分」
「そうだったのか」
無機質な音が耳に届く。
乙女の識別能力が、エラーを起こしてしまい、感情を読み取る事が出来なかった故である。
だが、続く声は乙女の機械を動かす言葉だった。
「凄い人なんだね。でも、俺は気にしないさ。少なくとも、特別扱いはしない。対等な仲間だからね」
初めて、乙女は対等扱いをされる。
かつての世界では劣等感を。
今生では、羨望という名の腫れ物扱い。
持てど、持たざれど、どちらにしても後悔は絶えない。
普通の傲慢な人ならば、少し思う事があるだろう。
だが、乙女にとっての対等は、他の何にも代え難い大切なもの。
親友も仲間も同じ物。
乙女は今生で、初めての仲間を得る事になる。
ただ、乙女は対等な人が欲しかったのだ。
昔の記憶と向き合う為に。
申し訳ありません。m(*_ _)m
更新頻度が落ちてしまっています。
出来る限り頑張っているのですが、あまり時間が取れず。
読んでくれている皆様の為にも、時間を見つけては書いているのですが、本当に申し訳ないです。
あとは、過去の話とかも修正したいんですが、中々難しいですね。
‥‥‥身を粉にして頑張ります。