百四十話 才能??
男女は建物の中で会話をしていた。
そして男性は、乙女を心配して話し掛ける。
「大丈夫か?」
「ごめんなさい。その、恥ずかしい所を」
「あ、ああ。俺もそんなつもりじゃ無くてな。まさか泣くとは」
「うぅ。私の早とちりで」
「まあ、さっきも言ったが、護衛は雇おうかと、考えてはいたんだ」
どうやら、私は早とちりをした様だ。
私の所為で迷惑を掛けたと思った。
結果、大衆の面前で、思わず泣いてしまった。
この歳で泣いてしまうとは。あぁ、恥ずかしい。
まあ、勘違いだったみたいだけど、それは単にこの人が優しいからなのでは?
誤魔化してくれただけだと思う。
うーん。それならなんとかして役に立ちたい。
護衛か。
私はCランクだけど、私じゃ駄目なのかな?
試しにギルド証を見せて、説得してみようかな。
「あの、これ」
乙女はギルド証を差し出す。
そして男性は、それを見ながら喋る。
「ん?これは、ギルドしょ、ん!?」
男性が、ギルド証と言おうとして、少し間抜けな感じになってしまう。
男性は驚いた表情で、ギルド証をじっくりと眺めてしまう。
その様子は、乙女に不安を抱かせる。
やっぱり、駄目だったのかな。
と言うかそもそも、こんな物を見せた所で、何になるのかって話よね。
信じてもらえるかわからない上に、そもそもCランク自体、役に立たないかもしれない。
他にもよく考えてみたら
「護衛なんて要らない!私がいれば充分でしょ!?」
て、言ってるみたいだし。
私がいるから、他は雇うな的な。
そう考えたら、私って我儘お嬢様みたいじゃん。
あー、また、やってしまった。
乙女は悩む。しかし、男性の反応は違った。
「Cランクだと!?まさか?お嬢さんが?」
「えっと、まあ、一応」
「そ、そうなのか」
「信用できない?かな」
「いや。本物だな。そうか、護衛は要らないのか?」
「私はなんとも言えない、です。でも、一応伝えとこうかなって」
「取り敢えず護衛は後で考えるか?しかし、Cランク。これはひょっとしなくても?いや、喜ぶのは良くないな」
不安そうな乙女を他所に、男性は考える。
乙女は、要らない子扱いをされたくなかった。だから、ギルド証を提示した。
答えを待っている乙女は、下唇を噛み、視線は足元の方を向いている。
どうか、クビにされませんようにと、祈りながら待っていると、男性は思い出したかの様に、乙女に言葉を告げる。
「まさかお嬢さんがCランクだとは。よく教えてくれた。色々知りたいが良かったら、また教えてくれるか?」
「あ、その。クビにはならないですか?」
「ん?」
男性は首を傾げ、呆気に取られた表情になる。
乙女も首を傾げて、不思議な空気に包まれる。
乙女の言った言葉の意味が理解出来ない。
男性に、そんなつもりは一切無いのだから。
「いや、何故だ?」
「その、迷惑かなって、思って。助けてもらった上に、面倒まで見てもらうなんて」
その言葉を、乙女が言った瞬間。男性は、即座にそれを否定する。
言葉と共に男性は、正面から乙女の両肩に手を置いて、強い口調で言う。
「そんな事は無い!」
「あ、」
「困った人を助けるのは当たり前だ。だから、何も気にするな」
それを言ったその後で、男性は馴れ馴れしかったことに気付き、咄嗟に手を外す。
乙女は乙女で、照れて真っ赤になってしまう。
あ、励ましてくれたのかな。
急だったから、焦っちゃった。
でもまあ、嫌じゃないかも。優しい人だし。
うっ、顔が熱い。
仕方ないじゃん。男の人は苦手なんだもん。
気不味い空気が流れ、どちらともなく話し始める。
「その、すまん」
「い、いえ」
会話は続かなかったが、乙女はどうしても、答えが気になったので男性に訊ねた。
「その、本当に雇ってくれるんですか?」
「あ、ああ。約束だからな。よろしく頼むよ。折角だから、早速やってみるか?」
「は、はい!」
こうして、仕事は始まる。
と言っても、それ程大した仕事は与えられない。
簡単な計算であったりと、商人の基本を試される事になる。
具体的には、小学生低学年のレベルである。
乙女は前世の記憶を使って、能力を披露した。当然ながら簡単過ぎて、乙女は苦戦せずやって退けた。
それは、商人にとっては恐るべき才能だが、元学生の乙女に苦は無い。
逆に、レベルが低過ぎて、引っ掛け問題か何かなのかと思い、警戒してしまった。
故に、乙女は自信なさげに答える。
「えっと、こんな感じかな?」
「教育を受けていたのか!?」
「あーうん。そんなところなのかな」
「うーむ。これは。槍でも降って来るのか?」
男性はまたもや、ブツブツと何かを呟いている。
乙女はと言うと、首を傾げている。
そんなに驚く事かな?
教育を受けていないのは当たり前って事かな。
そう言えば、かなり遅れてるもんね。この世界って。
だから、導いて欲しい、だったのかな?
それよりも驚きなんだけど、槍が降って来る世界なの?恐るべし、異世界。
槍が降るとか、文明の進んでいた故郷ですらありえないから。
相も変わらず可笑しな事を考える乙女。
どことなく抜けていて、お茶目なのが、乙女の特徴だ。
何はともあれ、乙女は新たなホームを手に入れる。
ほんの少しの間だが、安息の地を踏み締めるのだった。