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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
六章 運命の邂逅
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百三十七話 旅立ち

町の防衛に成功した日の夜。

老婆に詰め寄るムキムキな男性。

それはさながら、強盗の様に見えるだろう。

男性が、悪い事をしている訳では無いので、実際には違うのだが、老婆は申し訳なさそうに答えている。


「すまないね。戻って来て、すぐに何処かへ行ってしまったんだよ」

「あの子が、こんなに遅く戻る事は、今まで無かったんだぞ!」

「うちの馬鹿どもの所為だね。素直な良い子だってのは知ってる。本当に申し訳ない」


老婆は謝るものの、男性の怒りは収まらない。

老婆から受けた、説明に対して愚痴を溢している。


「最近様子がおかしいと思っていたんだ。化け物だと?助けて貰って、礼を言わないお前らの方が、よっぽど異常だよ」


男性は、そう言ってギルドを飛び出す。

捨て台詞を吐いて、1人だけでもと思い、捜索を開始する。





同時刻の乙女はと言うと、ゆっくり歩いていた。

そして、動かしていた足を止め、後ろを振り返る。

そこには、遠目から見た町が映っていた。

町の周辺は少し荒れていて、まるで、山賊にでも略奪されたかの様な、ボロボロ。


乙女は、唇を噛み締めてから前を向く。

再度足を動かして、一定の速度で歩き始める。

辺りは暗く、とても静かな夜である。

寂しげな乙女は、1人脳内で思考を動かす。



鳥になりたい。

何も考えず、大空を自由に飛びたい。

あるいは、猫。

自由気ままに、生きたい。



乙女は、現実逃避をしていた。

考える事が嫌で、全てが嫌いになった。

だから、人間以外に憧れを抱く。それ自体に、意味がない事は、乙女自身も理解している。

しかし、現実を忘れる努力をしなければ、乙女の全てが死んでしまいそうで、一種の防衛本能が働く。

そして、誰とも出会うこと無く、勢いのまま旅に出る。


疲れている足はただ、決まった動きのみをとり続ける。

飲まず食わずで、ひたすら歩く。

足が止まるのを恐れ、己のリミッターを外す。

どこが限界なのか、わからない。それでも歩く。親友を探して、延々と。



遂に乙女は、倒れてしまう。

意識も曖昧に、脳内で独り言を繰り返す。


まだ。私は、会ってない。あの子に。

歩かないと。止まりたくない。

置いてけぼりは嫌だ。私を、連れてって。


乙女の意識は途切れ、夢を見る。




少しうるさいけど、心地よい環境で、机に向き合う2人の女の子。

蝉の鳴き声が聴こえ、その音と共に喋りながら、私は後ろに倒れ込む。


「あー、もう嫌だー」

「ダメだよ。早くやらないと」


私が怠けていたら、親友が叱ってくれる。


「ほら、折角手伝ってるんだから。宿題やらないと」

「えー?ミーちゃん終わってるんでしょ?答え見せてよー」

「それは駄目。意味が無い」

「ずるいよ。私を置いてくなんて」

「一緒にやってたのに、サボるからだよ」

「いや、だってさあ」

「夏休みも明日までだよ」

「あー、嫌だー」




とても暖かい思い出。

乙女は、幻を見ながら目標を定める。

己を取り戻す為の、目標。


黒龍を倒す。その後、あの子を探す。

黒龍を超える。女神様を倒した敵。

黒龍は踏み台だ。私が強くなる為の。

私は竜王を倒したんだ。黒龍も倒せる筈。

手当たり次第に、なんでもやろう。

私は、あの子に追いつくんだ。




夢現に決意を固める。

しかし、乙女は眠ってしまう。

疲労は蓄積しており、いかに女神と言えども、限界はあるのだ。



乙女が倒れていた時に、1つの馬車が通りかかった。

その者は、行商人で、あの町から出立したばかりである。

時刻は、およそ昼頃。乙女が気絶してから、丸一日以上。


「ん!?女性?が倒れているのか?」


行商人の男性は、馬を止めてから乙女に近寄る。

うつ伏せで眠っており、揺すって起こそうとして触った所、非常に体温が高く、客観的に見て、間違い無く遭難している。

取り敢えず、仰向けにしてから、身体を揺らしてあげると、意識を取り戻した様だ。


「あ、ここ、は?」

「大丈夫か?」

「私、そうか。倒れたんだ」


少しおぼつかない様子の美少女。

その子は、何かを恐れる様な表情で、男性を見た後に、お礼を言う。


「助けてくれてありがとう。では、私はこれで」


乙女は、そう言って立ち上がる。

恐らく、立ち去ろうとしているのだろう。

身体を反転させる。

その時、反転したと同時だろうか?


可愛いお腹の鳴き声が聴こえた。

遭難していたのだから、至極当然である。


そして、それが恥ずかしかったのだろう。

乙女は固まった。

少し震えており、今にも逃げそうだ。

しかし、行商人は乙女に優しい言葉を掛ける。


「飯、食うか?」

「い、いえ。その、別に」


行商人は、聴かなかった事にしつつ、食事に誘った。

だが、変に疑り深い乙女は、それを断る。


「丁度なあ、飯が余ってしまいそうでなあ。誰か、食べてくれたらなあ」


なんとも、わざとらしい行商人。

確かに、長距離を移動するならば、食料は多めに積むのは間違い無い。

しかし、人に分けてやる余裕はない筈だ。

その事は、乙女も理解している。

だが、あまり断るのも悪い。

後は、一応お腹が空いているから。

乙女は納得する事にした。


「じゃ、じゃあ、うん。仕方無くだもんね。うん。仕方ない」


完全に乙女の思考は、食欲に乗っ取られてしまった。

行商人は、笑いながら火を起こし始める。

すると、あっという間にご飯を作り上げてしまう。


一応乙女は、遠慮しながら頂く。

しかし残念ながら、遠慮したのは一口までで、凄い勢いで、乙女は食事をするのだった。

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