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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
六章 運命の邂逅
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百三十五話 銀の死神

魔物の群れが、町に接近する目標の時間から数刻前。

ほぼ全ての、戦える人は配置についていた。

乙女はその時、ギルド内に居た。

指示を与えられていた訳では無く、時間を潰しがてら、ギルドマスターと、椅子に座って会話をしている。


「ねえ?なんで私は、自由なの?」

「うん?指示が欲しいのかい?」


そう問われた乙女は、自問自答する。

やる事が無く、特に何も思わず質問した。

私は、働きたかったのだろうか?

いや、命令されるのは好きじゃない。

だけど、協力した方が良いのかなとも思う。


質問に質問で返され、やや納得がいかない乙女。

それに対して、説明のつもりなのか、老婆が話す。


「まあ、私たちは、適当なのさ」

「良いの?そんなので」

「逃げたかったら逃げても良いさ。戦いたくないのに、無理をしたって仕方ないからね」

「優しさのつもりなの?」

「いや、そんな気はないさ。ただ、無理矢理だと、アンタは逃げるだろう?」


確かにその通りかも。

まあ、有難いと言えば、その通りだ。


「何よりも自分の命だ。冒険者とはそう言うものなのさ。まあ、アタシは老い先短いし、この町が好きだからね」


優しい瞳で、何かに耽る老婆。

この人は、そんなに悪い人じゃないのかも。

結局、私は自由にやるだけ。

そんな私の、気持ちを肯定してくれる様に、ギルドマスターは言う。


「戦いたいならそれで良い。嫌なら無視すれば良い。でも、ここに居ると言う事は、協力してくれるんだろう?」

「‥‥‥アテにはしないで」

「ヒッヒッヒ。素直じゃないね」

「うるさい。でもまあ、あの子なら、きっと」


乙女は、口から出かけた言葉を途中で切って、黙ってしまう。

老婆が、それに突っ込むことは無い。

その代わり、老婆はある言葉を、乙女に伝える。


「ありがとね。この町の為に」

「この町の為じゃ無い。‥‥‥私の為」

「だとしてもだよ。うちの馬鹿供は、どうしようも無いけど、まあ、素直じゃないんだ」


その言葉を聞いて、乙女は自嘲する様に言う。


「そう?むしろ、素直に嫌われてるけど」

「良い子なんだけどね」

「うるさい」


思わず、否定する。悪口では無いのに。

心が見透かされているみたいで、なんだか気持ち悪い。

でも、懐かしい様な何か。


頼られるのは嫌じゃない。

でも、利用されるのは嫌い。

助けるのは面倒くさい。

でも、お礼を言われるのは、多分嬉しい。求めてはないけど。


自分でもわかってる。面倒くさい女だって事は。

でも、これが私なんだ。


乙女は、悩みを断ち切って立ち上がる。

やると決めたからには、その仕事を全うする為に。

乙女は、ギルドを出てから外郭へと向かう。

人の壁を越えて、先を見据えれば、確かに遠目に何かが近付いて来ている。

それらは人では無く、四足歩行のものや、飛行しているものもいる。

間違い無く、魔物の群れである。


私以外もそれを認識したのか、雄叫びと共に群れに突っ込んで行く周囲の人達。

まるで戦争。統率の欠片も無い、両軍。


大切な物を守る為。あるいは、己の欲の為。

多種多様な人達が集まり、群れを成す。

魔物も人も、変わりないのかもしれない。

ただ一つ言える事は、お互いが敵同士だと言う事。


乙女は、周囲の人に任せ、少し下がる。

そもそも、大規模な魔法を使っては、一応の仲間に当たってしまう。

本当は、面倒だからであるが。


戦況は拮抗状態。

数は、大体同数。押し合いが続く。

しかし、次第に押され始めている。

個の強さでは、魔物の方が強い為、当たり前かもしれない。

少しずつ怪我人は増えている。魔物も怪我を負うが、身体の頑丈さにより、人間よりも、怪我に強い。

故に、拮抗は崩れかけていた。そんな時である。


「グハハ!我こそは竜王!矮小なる人間どもよ、大人しくひれ伏すがよい!」


人型の魔物が、大声で宣言している。

恐らく、この群れのリーダーだろう。

随分と傲慢に見えるが、とても強く、人間勢は歯が立たない。

たった1人?の魔物に、好き勝手されている。

複数人で、その魔物を攻撃するものの、たったの一薙ぎで、跳ね返されてしまっている。

そして、それによって、勢いを増す魔物達。


放って置いては、総崩れになると思い、乙女は前に出る。

その頃には、人々は逃げ、魔物に挑む者は居なくなってしまった。

乙女が、前に出たのが嬉しいのか、竜王は笑い、言葉を発する。


「ほお?勇敢だな。人間の小娘よ」

「もう、私しか居ないみたいだから」

「逃げても良いぞ?」


竜王は、侮蔑を含めた言葉で、乙女に言う。

その言葉を聞いた乙女は、鼻で笑ってから、鈴を転がす様な声音に変化して、問い掛ける。


「見逃してくれるんですか?」

「いいや?人間は邪魔だから、念入りに踏み潰しておくさ」

「そう、ですか」


心底残念そうに、乙女は呟く。

そして、言葉を繋げる。


「残念です」


言葉と同時に、魔法で氷の槍を作ってから、竜王に放つ。

油断した竜王は、成す術もなく、頭があった場所が、砕け散る。

血が舞って、遅れて体が倒れる竜王。


両陣営は黙ってしまい、まるで時が止まったかの様。

その空間で動けるのは、乙女のみ。

手当たり次第の、目に付く魔物から倒していく。

乙女は、何かに取り憑かれた様に、命の花を折っている。

容赦が無く、念入りに。


さっきまで魔物を恐れていた人達は、乙女の行動に、恐怖を抱く。

普通なら、形勢を変えてくれた者には、感謝をするべきだ。

だが、たった1人の神は、全ての流れを変えてしまう。


結果、人々は恐れてしまう。

魔物から女神へと、恐怖の対象が変わっただけ。

乙女は、ただ必死に、仕事を遂行するのだった。

乙女は、真面目すぎるのです。

そして、ただ、感謝が欲しかっただけなのです。


感謝って、難しいですよね。

求める物では無いのですが、やっぱり褒められたくて頑張る訳ですので。

未熟な子供ほど、より、褒められたいものですから。

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