百三十三話 伝説の前
乙女が、呼び出しを受ける少し前。
とある男性が、ギルドに飛び込んで来た。
全身鎧のあちらこちらが、とても傷つき、ボロボロの格好である。
大きな怪我は無いが、酷く疲労している様にも見える。
その人は、建物に飛び込むや否や、大声で叫ぶ。
「大変だ!魔物の大群が、この町目指して進行しているぞ!」
その言葉で、ギルドに居た全員が慌て始める。
人々は、口々にざわつき、思いの限りを喋っている。
その言葉とは、
「た、大変だ!」
「どうせ、ガセだろ」
「でも、あの傷は」
「どうしよう!?」
「どうでも良い」
等々を言っており、とても騒がしい。
受付達も慌ててしまってから、収拾がつかない。
不安の波紋が広がり、辺りは怒声が飛び交い、緊張が走る。
ここに居る冒険者達の大概が、動揺を払拭する為に、虚勢を張る者ばかりである。
だがそこに、空気を変える為の声が響く。
「鎮まれ!馬鹿共が!」
その声が、建物の隅々まで届けば、辺りは静かになる。
何を隠そう。声の主人こそが、このギルドの、ギルドマスターである。
そして、静まり返ったタイミングで、言葉を続ける。
「まずは真偽の確認からだよ。それから、それが真実なら、ギルドが総員で対処する。分かったかい?」
命令とも言える、その言葉を聞いた者の1人が、不安そうに意見を告げる。
「で、ですが。もし本当なら、不味いのでは?」
受付の人が、そう言ってしまえば、その言葉に対して、ギルドマスターは即答する。
「ああ、そうだね。でも、やるしか無いだろう?」
さも当然かの様に、言ってのけるギルドマスター。
それに対して、不安そうな周囲の面々。
その表情を見たギルドマスターは、不安を取り払う為に、ある昔話を始める。
それはかつて、ある国に、存在したと言う、女神様の伝説。
有名になったのは、1つの事件からである。
ある国は、大規模な飢饉が発生した。
元の原因は疫病からで、その病は不治の病として恐れられ、数年間もの間、国を苦しめ続けていた。
人口が急激に減り、国としての生産力が大きく落ち込んでいた。
他国も、病気を恐れて戦争は発生しなかったが、最早、放置しても滅びるとさえ言われていた。
しかし、それを食い止めたのが、かの女神様である。
当初、女神様が病や、飢饉を予言していた。
だが、国の民達は、誰1人として聞く耳を持たなかった。
しかし、病で人々が亡くなれば、信じざるを得ない。
人々は手のひらを返して、その女神様を頼った。
なんと、図々しい事かと、皆は嘆いたが、女神様は、怒る事も無く、手を差し伸べた。
結果として、女神様の魔法で、病を取り払える事が判った。
それに伴って、国力は少しずつ回復した。
時間を掛けて、国土を広げ、信仰によって国はとても安定した。
そして、その国は、非常に栄えたと言って良い。
その後、ある事情で滅びてしまったが、女神様が居た時は、間違い無く、世界一の大国だった。
この事から、女神様は、人々の苦難の時に現れ、人々を導く為に生まれると言い伝えられた。
それが、まさに今、その時だと言う事。
非常に、勝手の良い解釈だが、ギルドマスターは、言い切る。
そして、確認する様に皆に問い掛ける。
「最近の話しさ。ここに来た人がいるだろう?かの、言い伝えの通りの、銀髪碧眼の女の子が」
「そ、それは!」
「そう、あの子さね。フユちゃん」
「し、しかし、女神様は亡くなったって」
「いいかい?伝説の存在なんだ。そう、例えば、生まれ変わりとかかね?」
辺りの人達は、その言葉を聞いてから、黙ってしまう。
反論が出来ず、なんとか否定を考えるも、浮かばずと言った感じだ。
しかし、反論は浮かばずとも、乙女の事を快く思わない者が、無理矢理、否定を述べる。
そして、そうなる事を理解していたギルドマスターは、ある魔道具を取り出す。
姿は老婆なのだが、まるでその姿は、無邪気な子供の様に、嬉しそうな説明口調で、その道具を説明する。
「コレはね、ワタシが若い頃使っていたやつでね。まあ、省くけど、要は、正体を見破ってくれる道具さね」
しかし、説明を聞いていた受付が、気になったのか、ギルドマスターに質問をする。
「あ、あの?マスター。解析の水晶とは何が違うのですか?」
「ヒッヒッヒ。アレじゃ見れない物が、見れるのさ。例えばこいつは、条件を指定すれば、その否かも調べられる訳だね」
「え!?と言うことは、女神ですか?と聞けば、その道具で調べる事が可能なんですか!?」
「ああ、そうだね。だからあの子を、コレで調べて協力を頼もうと思う。異論は無いね?」
ギルドマスターの命令ならば、従う以外はない。
中には容認する事が、出来ない者もいる。
しかし、命令は絶対であり、組織に与する以上、反論は不可能である。
渋々と頷く者や、諦めている者。稼ぎ時だと判断する者達や、女神を信じる者など、様々である。
確かに伝説通りならば、女神様の能力は、人々を癒し、護り、予見でもって、危機を回避したらしい。
乙女の、感情は無視されているが、そもそもここにいる者達は、自分勝手なのだ。
逆に言えば、そんな人達が、集まる組織だからこそ、冒険者だと言える。
個人を尊重する者はいない。
その違いが、乙女に変化をもたらしてしまう。
かつての女神様と、乙女は違う。
確かに、乙女は自分本意である。
だが、この世界の流れが、もう少しだけでも、乙女にとって優しければ、良かったのかもしれない。
乙女は、この後の事件がきっかけで、人々に恐れられる。見方が変われば、憧れ。
印象が変われば、悪にも善にも映る。
ただ、全ての間が悪かっただけなのだ。
乙女は孤独です。
内面はとても、真っ直ぐで寂しがり屋です。
早く、少女と出会えると良いですね。
またもう少ししたら、情報紹介を投稿しますね。