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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
六章 運命の邂逅
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百三十一話 追憶④

乙女が、当番の接客をしていた時である。


凄い勢いで、偉そうな人が入って来た。

数人の護衛?を引き連れて、来店したのだ。

大雑把に店の扉を開き、私を、睨みつけるその男。

私を、目で捉えてから、不快な笑顔を浮かべる。

そして、開口一番のセリフがこれだ。


「おい、そこの娘。俺の妻にしてやろう」


なんと、随分と斜め上な、求婚である。


わーい。嬉しい。モテ期だね。



って、んな訳あるか。殺すぞ、アホ面。

大体、何よ。

「してやる」だって?

百歩譲って、お願いするならば、まだ理解出来る。

何?その、上から目線。

何様のつもりよ?

呆れて、言葉も出ないよ。



私が、黙っていると、部下らしき人が、私に向かって怒鳴る。


「貴様!エンレス様の御言葉を、無視するのか!?返事はどうした!」


呆れの余り、放心してた。

答え?そんなの決まってるでしょ。



「え?無理です。その、無理」

「何!貴様!」


眉を動かしながら、口を動かす、エンなんとかさん。

少し、器用だと感心した。


「よく聞こえなかったのかな。もう一度言う。よく聞けよ?俺のつ」

「いや、無理です。ちょっとキツイかな」

「貴様」


震えながら、私を睨む、エンなんとかさん。

護衛の人達も、私を睨んでる。

随分と、人気者らしいね。私は。

そんな事を考えていると、私の腕が、唐突に掴まれる。


「いいから来るんだ!」


急に掴まれて、引っ張られる。

私は、思わず声が出てしまう。


「キャッ!」


そして、防衛本能なのか、氷魔法が発動してしまい、エンなんとかさんを冷やしてしまった。

明確な敵意が、あった訳では無いので、威力は弱い。

そう、まさに、静電気が流れ、思わず離れてしまった。その程度。


「な!魔法!?」


だが、やはり魔法を使ったのは、気付かれてしまった。

ドカドカと、外にいた護衛も入って来る。

大勢に囲まれ、絶体絶命の大ピンチ。


「エンレス様に楯突いたのだ!ひっ捕らえろ!」

「ちょ、やめて」


私は、掴んでくる手に反応して、次々と魔法を発動する。

最初は、なんとか会話で、穏便に済ませられないかと思い、防衛に徹した。

弱目の魔法に抑え、手を振り払うだけだった。

しかし、相手は剣を抜いて、斬りかかって来た。

ここまで来ると、流石に、無理だと判断して、相手を、戦闘不能に出来る程度には、魔力を込めた。


何人倒したかは、覚えていない。

でも多分。全員を倒した。

敵は居なくなって、立っていたのは私だけ。

一番偉そうな人は、逃げたので、お眠りさん達は、店内から放り出した。

正直、あのエンなんとかさんには、気の毒だと思った。

でも、私は悪くない。

だから、気にしない事にした。

でも、お店には、多大な迷惑を掛けてしまった。

私は、クビだ。


乙女は、今更になって、後悔をしている。

考えない様にしようと思っても、乙女は、そんな事は出来ない。


乙女は、楽天家である。

しかし、一つ影が忍び寄れば、簡単に染まってしまう。

良くも悪くも、単純。

人前では、明るく映る。しかし、内面は少し脆い。



あぁ、私ってバカ。

もうちょっと、考えて行動しようと思っても、肝心な時に出来ない。

学習しない。深く考えられない。こんな姿、あの子に見せられない。

あぁ、私は、何も出来ない。


酷く自分を責める乙女。

毎秒毎に、暗く沈んで行く乙女。

そこに、肉屋の店主が、話し掛ける。


「その、無事か?」

「うん。ごめんなさい」

「いや、俺の方こそ、済まん」

「なんで、謝るの?」

「助けられなかったからな」

「良いよ。仕方ないもん」

「そうか。フユも気にするなよ」

「気にしてない」


乙女は言い切る。

だが、内心ズタボロで、言葉もあまり聞こえていない。

連日、陰口を叩かれ、トラブル続き。

乙女は、達観している様に見えるだろうが、まだ子供なのだ。

心は軋み、苦しいのかどうかはもう、イマイチわからない。

悩みを吐ける相手もいない。

だからこそ、声が漏れる。


「クビ、だよね」

「ん?」

「店主さんごめんなさい。私、邪魔ですよね」

「何を言っている?」


心が折れかけていて、つい、愚痴をこぼす乙女。

しかし、乙女の言葉に対して、珍しく不機嫌な店主。

怒るのとは違う。店主は、諭す様に口を開く。


「まさか、迷惑をかけたと思っているのか?」

「うん、私なんて」

「嫌になったら辞めても良い。嫌だったか?」

「え?」


嫌?違う。そんな訳無い。

困ってた私を、助けてくれた。

でも、私が居たら、迷惑を掛けてしまう。


「仕事が嫌なら構わない。だが、フユはここに居て良い。ここは、フユの家だからな」


店主は、乙女に言う。不器用なセリフを。

女性が苦手の癖に、なんとか励まそうとしている。


「大体な。あの貴族はクズだ。この町の領主の息子だが、好き放題している。妾を囲い込んで、横領しているって噂になるくらいにはな」

「でも」

「だから、気にするな。仕事はしなくても良い。まあ、その。ゆっくりと休みな」


乙女は、暖かい言葉を掛けられて、遂に泣いてしまう。

乙女は、漸く気付く。店主の気遣いに。

乙女は、店主に感謝をする。

そして、久しぶりに、笑顔でお礼を言う。

涙を浮かべた、眩しい笑顔で。


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