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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
六章 運命の邂逅
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百三十話 追憶③

とある冒険者ギルドで、大勢の人たちが騒いでいた。

この建物は大きく、酒場も兼ねている。

まだ昼なのに、酒を飲む者が居て、とても騒々しい。

殆どが男ばかりなので、大体の話題が、酒、金、女である。

そして今回は、ある女性についての話題で、盛り上がっている。


「そう言えば、最近、白髪の女がいたな」

「おう。なんでも新人らしいぜ」

「なに?それは本当か?」

「珍しいよな?女ってだけでも少ないし」

「かなり可愛かったな」

「ちょっとガキ臭えがな!」

「ガハハ、そうだわな」

「っと、噂をすれば」


その時ちょうど、乙女が建物の中に入って来た。

冒険者なのに、防具は最低限。武器は見た感じでは装備していない。

一切の寄り道もせず、受付に並ぶ乙女。

見た目的にも異端で、随分と視線を集めている。

だからこそ、噂が盛り上がる。


「おい、そういえば、聞いたか?」

「ん?何が?」

「あの子は噂だと、Eランクらしい。だが、ヘイトタイガーを狩ったらしいぞ?」

「何!?あんな子が?」

「なんでも、魔法で一撃だとか」

「どうせ嘘だろ?」

「さあな」


コソコソと噂をする男達。

乙女には聞こえている。

乙女は、それらを無視して、依頼を見繕って貰っていた。

すると、背の低いお婆さんが、乙女の元にやってきた。


「おい、ギルドマスターだ」

「珍しいな。腰が悪いんじゃなかったか?」

「あのババア、性格悪いんだよな」

「おう、俺もいびられた」

「まあ、御愁傷様だな」


どうやら、ギルドマスターらしい。

杖でツンツンされたから振り向くと、本当に背が低い。

私の身長は、大体160cm位だが、やや見下ろしている。


「何か?」

「おやおや?私が何者か理解して、その反応かい?」

「マスターでしょ?偉い人だよね」


不気味に笑う、老婆。

見た目の割に、中々鋭い目付き。

とても、悪い人に思える。


「ヒッヒッヒ。ああ、そうさ」

「ふーん」

「なおも態度は変わらんか。大物よの」

「あ、どうも」

「褒めとらんわい」


なんだ、褒められた訳じゃないのか。

ならどうでも良いや。

だって、あれでしょ?

ただのいちゃもんつけにきただけ。


「あっそ」

「うーむ。一つ、聞きたい事がある」

「何?」


疑う様な目付きの老婆。少し不快。

でもまあ、一応、目上の人だから、最低限は応じよう。


「お主、ヘイトタイガーを倒したらしいね」

「なにそれ」

「知らずに倒したのか」


ひょっとして、あの擦りつけられた魔物かな?

一昨日の話だね。

危うく、人間も巻き込む所だったけど、正直イライラしてて、どんなだったか覚えてないや。

あ、でも魔物なら、奪っとくべきだったか。

だって、倒したの私だし。

あんなゴミ共に、恨まれたって変わんないだろうし。


危険な事を考える乙女。ふと、返事をしていない事を思い出して、一応返答する。


「邪魔だから倒したかも」

「そうかい。そりゃ結構。助かるよ」

「助けてはないけど?」

「お主は、仲間を助けたんだ。胸を張りな」


あれ?褒められてるのかな。

実は、良い人なの?

大阪のおばちゃん的な?


困惑する乙女に、話しを続ける老婆。


「それでね、色々聞いたのさ。ああ、安心しておくれ。礼も言わないガキには、説教してやったよ」

「ああ、うん。どうでも良いや」

「大人だね」

「それで?それだけなの?」


私にとっては、凄く興味の無い話題だ。

会話を切るつもりで、私が言うと、老婆は逃がしてはくれなかった。


「勿論違うさ。あんたの実力が知りたい。試験の結果が良ければ、昇格させてやる。どうだい?試験をやるかい?」


どうやら、試験を受けられるらしい。

正直、今の仕事は、稼ぎが余り良くない。

充分受ける意味がある。

そうと決まれば、即決だね。


「わかった。受ける」

「良い返事だね。内容は聞かなくて良いのかい?」

「あ」

「面白い子だね」

「むう」

「まあ、簡単さ。アタシと模擬戦をするのが試験さ」

「は!?あんたと?あ、いやマスターさんと?」


思わず、素が出る乙女。

流石に、老婆と戦うのは気が引ける。

しかし、心配を他所に老婆は言う。


「要らぬ心配さ。全力で来な」

「え、でも」

「アタシも昔は冒険者さ。これでも有名人だったのさ」

「そうなの?」

「魔法も使って良い。嫌なら辞めるが、どうかね?」

「まあ、それなら。やる」

「決まりだね」


早速、表に出て、お互いが睨み合う。


まずは、先手を取るのが正しい。

しかし、乙女は、一撃で倒してしまうと申し訳ないと思い、先手を譲る事にした。


だが、それが隙を生む。


およそ、老婆とは思えぬ速度で肉薄して来る。

距離にして、10m。

杖を振りかぶり、殴られた。

しかし、何も無い場所で杖は止まる。

予め、障壁を発動しておいて良かった。

油断はしたものの、初撃は防いだ。


「驚いた。ただのお婆ちゃんじゃ無いね」

「こっちこそ驚きだよ。まさか、防がれるとは。魔法かい?」

「うん。まあね」

「そうかい。ならあんたの攻撃だ。見せておくれ」


乙女は、そう言われて、ある魔法を選択する。

それは、一昨日閃いた魔法だ。

だが、とても危険な魔法で、範囲がかなり広い。

でも、折角の試験だし、と思い発動する。

イメージを固める為に、声に出しながら。


「アイスダスト」


言葉と共に、強烈な冷気で周囲を冷やす。

その魔法は、名前の通り、氷の小さな結晶が舞い散る。

効果は、周囲を冷やすだけでは無い。

小さな粒子で、近くのモノを切り刻む。

目に見えない傷を、刻み込み、敵を凍らせながら、重傷を負わせる。

無慈悲な魔法。

明確な敵意を持って、老婆をにらめば、老婆は怯んでしまった。


「もう良い。わかった」


マスターがそう言ったので、魔法を解く。

一応、誰も傷付けてはいない。

ただの脅しのつもりだ。少なくとも、見た目的には派手だから、アピールには良いと思った。


「結果は追って伝える。少なくとも昇格は確定だ」


そう言って、笑う老婆。

少し、意外だった。怖い人かなと思ったから。

少しだけ、老婆に対して、認識を改める乙女。


結果、乙女は、Cランクへと昇格するのだった。

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