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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
六章 運命の邂逅
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百二十九話 追憶②

あの、告白を受けた次の日。

男性は、連日訪れた。


そろそろ、面倒に感じてきた。

自ずと、対応がおざなりになった。そんな時。


怒られた。


確かに、不誠実だったかもしれない。

でも、必ず応じなければならないの?

そう思ったら、怒りが湧いて来た。


唐突に、感情が爆発した。


魔法が発動してしまい、その人は、二度と来なくなった。

気分は、少し晴れた。

その時から、感情が冷え切ってしまった。


人は減った。お客さんが減った。

しかし、私に、求婚する者は増えた。

もう、どうでも良くなった。

魔法を使っても、気分は晴れにくくなった。

そして、冒険者の仕事で、鬱憤を晴らす事にした。

そんな折。噂話を耳にした。


魔法が使える美人だとか。

手篭めにしたいだとか。

貴族の、誰々の噂になってるだとか。



もう良いよ。

誰も私を見てくれない。

美人だからとか、魔法が使えるとか。

あの子とは、大違いだ。

あの子は、愛想が良くなかった。

でも、あの子の方が綺麗に見える。

あの子の瞳は、私を映してくれていた。


本当にイライラする。

何もかもが、楽しくない。



乙女は歩く。ギルドに向かって。


霜を纏い、不快な視線に晒されながら。



ギルドに辿り着いた乙女は、受付に話し掛ける。


「ねえ?仕事、何かある?」

「えーと、その。フユさんですね。Eランクの依頼でしたら、森林内の、草食動物の狩りがあります」

「ふーん。じゃ、それ」

「わかりました。受理しておきます」


返事もせず、颯爽と立ち去る。

あまり、人と話したい気分じゃない。

依頼の目的地も把握している。特段、聞く事は無い。

だから、最大限に早く。

そして、目的の獲物を狩っていた時である。

静かな森の中で、騒音が聞こえ始める。


不快感を抱いて、音の方を向く。

すると、数人が逃げて来た。魔物を引き連れて。

大きな虎の様な生き物に、追われているみたいだ。

勘弁して欲しい。

わざわざ、その人達は、こっちに来ている。


「おーい!逃げろ!!」

「は?」

「魔物だ!死にたくなかったら走れ!」


その人達は、口々に注意を促す。

だが、その言葉を聞いた乙女は、考える。


何を言っているのだろう。

逃げるなら、あっちに行け。

わざわざ、こっちに来る必要なんて無い。

まさか、なすりつけるつもりか?

そうか。そう言う事か。

あー、イライラする。


乙女は察した。

勘違いではあるが。


怒りを露わにした乙女は、魔法を発動する。

大きな氷の塊を、一応、人間は狙わずに、魔物に向かって射出する。


魔法は、的である虎を貫通しない。

しかし、その的を押し潰しながら、大木にめりこむ。

木は衝撃に耐えられず、鈍く軋む音を立てながら、ゆっくりと倒れてしまう。


その振動と、音が消えてから、森の中に静寂が帰って来た。

そして、少しの間が空く。

だが、見るからに不機嫌な乙女に、男性達は、恐る恐る話し掛ける。

それに対して、不快感を隠さず、応じる乙女。


「あ、その、ありがとう」

「何故こっちに来た?」

「え?」

「え?じゃない。逃げるなら、わざわざこっちに来なくても良かった」

「それは、その」

「私に、擦りつけようとした」

「ち、違う!そんなつもりでは無かった」


どうやら、違ったらしい。

でも、証拠が無いだけで、なんとでも言える。

これ以上、話すのは無駄か。


「なら、もうどうでもいい。消えて」


私が、そう言ったら、後ろに居た人が、怒って会話に参加する。


「な!お前!生意気だぞ!」

「よせ!」

「大体、こいつは、Eランクの新人だぞ!?先輩に向かって、その口の利き方はおかしいだろ!?」

「だから何?」

「お前!」

「助かったのは事実だ。そもそも、俺達より強いんだから、文句は言えない」

「へん!こんな奴、居なくても倒せてたけどな」


負け惜しみを言っている、後ろに居た人。

そいつの、言葉により、さらに怒りが溜まった。


滅茶苦茶殴りたい。

氷の魔法を放ってもいいかな?

私、悪く無いよね?


怒りは振り切って、魔力が漏れてしまう乙女。

周囲の温度は冷え始め、終いには、空気中の水分が凍り始めて、擬似的な雪が降る。

キラキラと輝き、周囲は白色に染まる。

ここまでなってから、漸く、恐れを成したらしい。

その、男性達は慌て始める。

超常現象を見て、誰がやったのかは、一目瞭然。

今、男達は、力の差を理解した。


「あ、すまない!俺達が悪かった!」

「どうでも良い。早く失せろ」

「ヒィ!」


恐怖に駆られた男性達は、逃げ出す。

これがきっかけで、乙女を指す名が生まれた。


「銀嶺の乙女」


その様は、氷の女王。

吹雪の中で咲く、霜の如き美しき薔薇。

冷たく、雪を纏い、何者も寄せ付けない。


とても危うい、輝きを放つ乙女。

人々を魅了するのは間違いない。

しかし、乙女を魅了する者は誰もいない。

色々な意味で、不安定な乙女。

能力は、加速度的に成長している。だが、精神状態は悪化している。

治療出来るのは、女神だけ。

乙女にとっての、女神だけである。



仕事を終えた乙女は、部屋へと帰って来た。

すると、店主さんが居たので、挨拶はしておく。

この人だけは、唯一、お世話になっている人だ。

あまり、会話をする事は無いが、珍しく話し掛けられた。

なんだろうかと思えば、謝られた。

謝罪を受けて、すんでの所で、止まれた。

何か、超えてはならないラインの手前で。


お陰様で、ストレスを受け流せる様になった。

怒りを消す方法は無いが、耐えられる。

私は、この時初めて、無視を使いこなせるようになった。


乙女は、日々成長する。

ただ、ひたすら強くなるだけ。

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