百二十八話 追憶①
少し前の話。
乙女が、お肉屋さんで、働いていた時である。
丁度最近、冒険者の登録を済ませた。
日々、己の能力を調べたり、仕事を覚え始めていた。
そんな感じの、やる気に燃えていた時期。
数人のお客さんが、店内に居て、接客をしていた。
そんな時。
最近よく見かける人。
時々、見られてるかな?と思っていた人。
見られてたって言う、予想は当たったのだろうね。
告白された。
好きですって。
まあ、今まで、何回か経験はある。
長くは続かなかったけど。
付き合ってから、すぐに消滅してしまう。
よく知らないで、付き合ったからだと思う。
断ろう。
どうせ、続かない。
断れば、引き下がってくれる。
今まで、そうだったから。
この人は、悪くない。
だから、愛想良く断ろう。
告白された事は、素直に嬉しいから。
乙女は、男性に笑顔で、断りを入れる。
「ごめんなさい。でも、ありがとう。嬉しかったよ」
「だ、駄目か?」
「うん。その、あなたは、悪くないの。それに、私は、あなたをよく知らないから」
「う、ぐ」
断られたのが、ショックだったのだろう。
逃げる様に、帰ってしまった。
この場は少し、静かになってしまった。
空気は、少し暗い。
仕事中だが、仕方がない。
なので、乙女は、思考に移る。
私は、自慢では無いけど、昔から愛想が良かったと思う。
よく知らない人にも、話し掛けて、仲良くなるのが得意だった。
初対面は、多分、誰よりも印象が良かった様に思う。
でも、いや、違う。
私は、自分のペースでしか、人付き合いが出来ないんだ。
だから、本当に仲の良い友達は、いなかった。
なんとなく、嘘は苦手だった。
陰口を言う人が、苦手だった。
だから、嫌われてしまった。
でも、仕方ない。
私は、嘘を吐きたく無かった。
あの子は、真っ直ぐだった。
私は、話すばかりだった。
それを、嫌な顔もせず、ひたすら聞いてくれた。
今まで出会った人の中で、誰よりも気の合う友達。
これが、本当の友達と言う物なのだろうか。
私が、高校一年生の時。
最初のテストを受けて、あの子と、点数の見せ合いっこをした。
あの子は、とても頭が良かった。
お世辞にも、私の通っていた高校は、頭が良い所では無い。
英語と、数学は結構。と言うか、とても苦手だった。
なのに何故、あの子は、この学校に来たのか。
私は、その子に疑問を感じて、質問をしてみた。
「ねえねえ?なんで、この学校に入学したの?」
「え?」
「5教科平均、90点超えてるのに」
「ああ、まあ。大した事じゃないよ。体が、昔から弱いから。近場にしたの」
「え?あ、そうなんだ。ごめん」
「んーん。気にしてないよ」
その子はとても無表情。
本当に怒ってないのだろうか?
まあ、言葉通り、受け取るしか無い。
2人で話していると、クラスの人が、私達の答案用紙を覗いた。
私は、恥ずかしくて隠したけど、あの子のテストは見られた。
「え!?嘘。凄い。英語と社会科100点じゃん!」
「あ、うん」
「あれ?アイちゃんは?」
「あ、え?私?私は、その」
私は、慌てて隠した。
あの子には見せたけど。
ちょっと、比べられるのは悲しい。
だから、笑って誤魔化す。
「ね、ねえ!それよりさ。次のテストの時に、一緒に勉強したいんだけど」
勉強を教えて貰おうと、私は、提案した。
凄く、自己中心的な提案だ。
あの子には、何のメリットもない。
言った後、誤魔化す為とは言え、少し後悔した。
ほら、あの子も、目を何度も瞬きしてる。
あー、やってしまったな。
私が後悔していると、あの子は口を開く。
「うん。いいよ」
意外にも、断られなかった。
その時。
何故かは知らないが、気がついた。
表情に変化は無かったのに、あの子は、笑った様な気がした。
何故。笑ったのだろうか?
気のせい?
いや、でも確かに、笑ったと思う。
でも、普通は嫌がると思う。
わからなかった。その時は。
心が通じ合っていれば、会話が無くとも、意思の疎通が図れると言う。
何かで聞いたことがある。
あぁ、本当の友達とは、こう言うことを言うんだ。
あの子は、あまり話さない。
でも、嘘を吐かない。
あの子は、あまり笑わない。
でも、笑わない訳ではない。
誰も気付かない。
気付いたのは、私だけ。
誰よりも優しい。
そんな子だった。
それに比べて、私は、何だろう。
いつも、自分の事ばかり。
そう、いつも、悪いのは私。
あの子は、言っていた。
あの子の家で、勉強会をした時だ。
私達は、あの子の部屋のテーブルで、勉強をしていた。
その時に、あの子は、唐突に喋り出した。
「私は、昔から体が弱いの。だから、友達は今までいなかった。でも、今はメイちゃんがいるから、勉強が楽しいよ」
顔は笑ってはいない。
でも、雰囲気的に笑ってる気がする。
最近、少しだけ、理解出来る様になってきた。
「え!?あ、そ、そうかな?」
「うん」
改まって、友達と言われても、照れる。
うん。私も楽しいよ。
だって、今まで無理をしていたんだよ。
友達では無い、何かとの、表面だけの付き合い。
私は知った。今までの友達は、偽物だって。
今までの笑顔は、偽物だったんだ。
「よく入院してたから。退屈で本を読んだり、勉強するしか無かったから」
「そ、そうなんだ」
「だから、気にしないで。教えるのは楽しいから」
「うん。みーちゃんは優しいね」
「そうかな。まあ、勉強を教えるのは楽しいから」
「ううん。違うよ」
私は、きっと、本物の笑顔で笑っていた。
偽物じゃない。
それだけは言える。
優しいって言ったのは、そっちじゃない。
どこか抜けてる親友。
でも、そんなところが、大好きなんだよ。
乙女は、黄金の記憶を辿る。
何かあれば、ふとした拍子に、思い出す。
忘れられない、あの子との記憶。
辛い過去も、楽しい思い出も、どちらも大切なのだ。
乙女の、生きる意味は、ここにしか無いのだから。
どうでも良い事になりますが
乙女と少女は、どちらとも″おとめ″と入力すれば、予測変換で出てきます。
そう言う理由で、五章のタイトルの伏線を回収しときますです。