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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
六章 運命の邂逅
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百二十八話 追憶①

少し前の話。


乙女が、お肉屋さんで、働いていた時である。

丁度最近、冒険者の登録を済ませた。

日々、己の能力を調べたり、仕事を覚え始めていた。

そんな感じの、やる気に燃えていた時期。

数人のお客さんが、店内に居て、接客をしていた。


そんな時。

最近よく見かける人。

時々、見られてるかな?と思っていた人。

見られてたって言う、予想は当たったのだろうね。


告白された。

好きですって。


まあ、今まで、何回か経験はある。

長くは続かなかったけど。

付き合ってから、すぐに消滅してしまう。

よく知らないで、付き合ったからだと思う。



断ろう。

どうせ、続かない。

断れば、引き下がってくれる。

今まで、そうだったから。


この人は、悪くない。

だから、愛想良く断ろう。

告白された事は、素直に嬉しいから。



乙女は、男性に笑顔で、断りを入れる。


「ごめんなさい。でも、ありがとう。嬉しかったよ」

「だ、駄目か?」

「うん。その、あなたは、悪くないの。それに、私は、あなたをよく知らないから」

「う、ぐ」


断られたのが、ショックだったのだろう。

逃げる様に、帰ってしまった。

この場は少し、静かになってしまった。



空気は、少し暗い。

仕事中だが、仕方がない。

なので、乙女は、思考に移る。




私は、自慢では無いけど、昔から愛想が良かったと思う。

よく知らない人にも、話し掛けて、仲良くなるのが得意だった。

初対面は、多分、誰よりも印象が良かった様に思う。


でも、いや、違う。

私は、自分のペースでしか、人付き合いが出来ないんだ。

だから、本当に仲の良い友達は、いなかった。


なんとなく、嘘は苦手だった。

陰口を言う人が、苦手だった。

だから、嫌われてしまった。

でも、仕方ない。

私は、嘘を吐きたく無かった。


あの子は、真っ直ぐだった。

私は、話すばかりだった。

それを、嫌な顔もせず、ひたすら聞いてくれた。

今まで出会った人の中で、誰よりも気の合う友達。

これが、本当の友達と言う物なのだろうか。





私が、高校一年生の時。

最初のテストを受けて、あの子と、点数の見せ合いっこをした。

あの子は、とても頭が良かった。

お世辞にも、私の通っていた高校は、頭が良い所では無い。

英語と、数学は結構。と言うか、とても苦手だった。


なのに何故、あの子は、この学校に来たのか。

私は、その子に疑問を感じて、質問をしてみた。


「ねえねえ?なんで、この学校に入学したの?」

「え?」

「5教科平均、90点超えてるのに」

「ああ、まあ。大した事じゃないよ。体が、昔から弱いから。近場にしたの」

「え?あ、そうなんだ。ごめん」

「んーん。気にしてないよ」


その子はとても無表情。

本当に怒ってないのだろうか?

まあ、言葉通り、受け取るしか無い。


2人で話していると、クラスの人が、私達の答案用紙を覗いた。

私は、恥ずかしくて隠したけど、あの子のテストは見られた。


「え!?嘘。凄い。英語と社会科100点じゃん!」

「あ、うん」

「あれ?アイちゃんは?」

「あ、え?私?私は、その」


私は、慌てて隠した。

あの子には見せたけど。

ちょっと、比べられるのは悲しい。

だから、笑って誤魔化す。


「ね、ねえ!それよりさ。次のテストの時に、一緒に勉強したいんだけど」


勉強を教えて貰おうと、私は、提案した。

凄く、自己中心的な提案だ。

あの子には、何のメリットもない。

言った後、誤魔化す為とは言え、少し後悔した。

ほら、あの子も、目を何度も瞬きしてる。

あー、やってしまったな。



私が後悔していると、あの子は口を開く。


「うん。いいよ」


意外にも、断られなかった。


その時。


何故かは知らないが、気がついた。

表情に変化は無かったのに、あの子は、笑った様な気がした。


何故。笑ったのだろうか?

気のせい?

いや、でも確かに、笑ったと思う。

でも、普通は嫌がると思う。


わからなかった。その時は。




心が通じ合っていれば、会話が無くとも、意思の疎通が図れると言う。

何かで聞いたことがある。

あぁ、本当の友達とは、こう言うことを言うんだ。


あの子は、あまり話さない。

でも、嘘を吐かない。

あの子は、あまり笑わない。

でも、笑わない訳ではない。


誰も気付かない。

気付いたのは、私だけ。

誰よりも優しい。


そんな子だった。


それに比べて、私は、何だろう。

いつも、自分の事ばかり。

そう、いつも、悪いのは私。





あの子は、言っていた。

あの子の家で、勉強会をした時だ。


私達は、あの子の部屋のテーブルで、勉強をしていた。

その時に、あの子は、唐突に喋り出した。


「私は、昔から体が弱いの。だから、友達は今までいなかった。でも、今はメイちゃんがいるから、勉強が楽しいよ」


顔は笑ってはいない。

でも、雰囲気的に笑ってる気がする。

最近、少しだけ、理解出来る様になってきた。


「え!?あ、そ、そうかな?」

「うん」


改まって、友達と言われても、照れる。

うん。私も楽しいよ。


だって、今まで無理をしていたんだよ。

友達では無い、何かとの、表面だけの付き合い。

私は知った。今までの友達は、偽物だって。

今までの笑顔は、偽物だったんだ。


「よく入院してたから。退屈で本を読んだり、勉強するしか無かったから」

「そ、そうなんだ」

「だから、気にしないで。教えるのは楽しいから」

「うん。みーちゃんは優しいね」

「そうかな。まあ、勉強を教えるのは楽しいから」

「ううん。違うよ」


私は、きっと、本物の笑顔で笑っていた。

偽物じゃない。

それだけは言える。


優しいって言ったのは、そっちじゃない。

どこか抜けてる親友。

でも、そんなところが、大好きなんだよ。



乙女は、黄金の記憶を辿る。

何かあれば、ふとした拍子に、思い出す。

忘れられない、あの子との記憶。

辛い過去も、楽しい思い出も、どちらも大切なのだ。

乙女の、生きる意味は、ここにしか無いのだから。

どうでも良い事になりますが


乙女と少女は、どちらとも″おとめ″と入力すれば、予測変換で出てきます。


そう言う理由で、五章のタイトルの伏線を回収しときますです。

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