百二十七話 決意
第六章開始です。
予定では、黒龍の少女は出て来ない筈です。
今章では、銀嶺の乙女が、主観になります。
広場の椅子に座り、ただ1人、佇む女性が居た。
その女性は、長い銀髪を下げ、とても美しい容姿である。
青い瞳は宝石の様で、その瞳が見つめる先には、小さな球体と、方位磁石の様な物が、手の平の上に乗っている。
その女性は、それらを片付けてから立ち上がる。
思考が纏まっていないのだろうか?
フラフラと歩き出す。
その様は幽霊の様に。乙女は帰路につく。
乙女は、肉屋の自室に帰って来た。
道具をくれた、男性に、お礼を言おうとしたが、気付いた時には去っていた。
それ自体は、もう、どうしようも無いので、一応貰った?宝具に、魔力を込める。
すると、透明な球は、白く染まる。
透明度は無くなり、まさに、雪の玉の様。
変化を確認した後、乙女は理解する。
おそらくだが、この球から魔法を発動出来る。
強いかどうかは、分からない。
しかし、この球は自由に操作できる。
空を飛ばす事が可能。
氷魔法の様に、遠距離から発射も出来る。
手足の如く扱えて、魔力消費も減っている気がする。
これらの事を理解出来た。
そして、乙女は、少し考え始める。
武器と言って良いかはわからない。
私にとって、武器は剣とか、杖ってイメージだったし。
でも、広い範囲で考えれば、これはきっと武器だ。
例えば、敵に接触させてから、凍結させる事も可能。私は近付く必要は無い。
敵を凍らす為には、近付かなくてはならなかった。
後は、全方面に、障壁を出してから、その球から攻撃をする。
無敵の盾があるから、こちらは一方的に攻撃が可能だ。
正直言って、これは強い。
盾ありきだけど、攻撃の幅を広げてくれる。
いわば、手が一本増えた様なものだね。
乙女は、その球を隠してから、包囲磁石の様な物に、視線を移す。
黒龍か。敵だよね。分からないけど、疑わしきは倒さないと。
それか、あの子を探す方法を考えないと。
まあ、取り敢えず、名前でも付けようか?
レーダーみたいな物だし、ドラゴン、それは駄目か。安直だよね。
球体の方は白玉にしよう。
黒龍だから、うーん。レーダーの方はクロマルとか?
適当過ぎるかもね。
私が名付けたら、どうしても可愛い系になってしまうね。
まあいっか。これで決まり。
道具に名前なんて、要らないとも思うけどね。
うん。今後の方針は、クロマルを使って黒龍を探して、目標は討伐。
それと並行して、あの子を探す。
そのどちらとも、情報収集が必須と。
あーでも。女神を探せる道具を頼むべきだったかな?
いや、私は多分女神だから、その道具が、役立たない可能性がある。
何にせよ、まずは、お金か。
白玉を使って、狩りをしながら、お金稼ぎかな。
まあ、結局やる事は今までと一緒か。
そうと決まれば。まあ、明日からにしよう。
やるべき事は多いけど、出来る事は少ない。
焦っても仕方ないよね。
前の世界よりも、圧倒的に不便だし。
ゆっくり、堅実に。
あの子に、教えてもらったんだ。
あの子は、無事だろうか?
乙女は思考に耽る。
寝転がって、退屈そうに。
そして、気が付けば、睡眠の世界へと潜る。
目覚めた乙女は、仕事の手伝いを開始する。
肉屋の店主と共に、乙女は動物の死骸を、解体して行く。
お互いに無口で、ただ、淡々とこなす。
早朝の仕事を終えれば、次は接客だ。
お店を開けて、お客さんが来るのを待つ。
接客は店主さんと、日々交代で行なっている。
今日は、当番の日だ。
のんびりと待ちながら、乙女は、思考する。
来るお客さんは、私の所為で、少し減ってしまった。
1人の男性から始まり、それから大勢が押し掛けて来た。
思わず、魔法を使ってしまった。
店主さんは、私を、庇ってくれた。
癖に、なってしまった。魔法で対処をするのが。
本当は良くなかった。間違い無く。
それについて、凄く申し訳なく思った。
でも、店主さんは、私に言ってくれた。
この事は特に、気にしていないと。
とてもありがたい。
こんな私を、雇ってくれたんだ。
この恩は、返さないといけない。
貴族とやらが来た時は、どうしようかと思った。
今までの人達よりも、よっぽど強引に、まさに、人攫いの如く。
多分、対応は失敗だった。
今までの人達と、同じ様に、魔法を使った。
護衛だろうか?それらに、私は囲まれた。
死にたくなかった。
ふふ。今更。可笑しいよね。
生き延びる為に、護衛の人達を倒した。
倒せてしまった。
そして、その貴族は、恐れて逃げていった。
あの時は、なんとも言えない感情だった。
無意識に、周りに、吹雪を作ってしまったから。
それからは、男性客が減ってしまった。
一部の優しい人は、商品を買いに来てくれる。
だが、肉屋のメインの客層は、女性客ではあったものの、割合が大きく変化した。
私は、少し落ち込んだ。
でも、主婦の人や、お婆さんなどが来てくれて、口々に私を、慰めてくれた。
この人達のお陰で、私は、笑顔で仕事が出来るんだ。
乙女は、人々に感謝をする。
苦悩によって、性格が捻れても、不思議では無かった。
悪意に呑まれかけ、暗く沈んでしまった。
しかし、そこから掬い上げてくれた者も居た。
なんとか、繋ぎ止められた。
悪い人もいれば、良い人もいたのだ。
乙女は、決意をする。何かを睨みながら。
必ず、油断をしない。
何があっても守ってみせる。
私の全てを懸けてでも。
悩みを払拭する為に、乙女は働く。
ただ、必死に。
何かに追われるかの様に。
幽鬼の如く。
今章のタイトルは決まっています。
ですが、隠します。
予想は、ついてそうな気もしますけどね。