百二十五話 軍事
ある日の事。
現在は昼である。
少女は軍議に参加している。
今回は、文字通りの軍議である。
竜聖国は、西方の国との仲が、非常に悪い。
そして、今回の議会の議題は、それについてである。
前回と同様、リアーナ王妃様が喋っているので、耳を傾ける。
「それでは、この度、レングラム王国に、宣戦布告を仕掛けようと思います。陛下の決定でありますが、疑問や否定等、ありましたら、何なりと発言を許可します」
殆どの人は、周りを見回したりして、様子を窺っている。
しかし、王の決定ならばと、逆らう者は、居なさそうな雰囲気。
私も、少しだけ調べた。
我らが、龍神様を敵と見做し、正義を主張しているらしい。
それは、恐らく建前だが、時折、小競り合いが発生している。
私達の、国としては厄介極まり無いが、毎度の事で鬱陶しいので、少しでも攻撃して黙らせたいのだろう。
竜聖国に住む全ての人間は、黒龍様を敬い、敵対者は、国の敵と判断する。
だからこそ、否定意見は無い。
およそ、全員が頷いている。
そして、話は進み、次の議題になる。
正確には、それの延長線である。
「否定が無いので、次に移ります。では、此度の戦の総責任者の任命です。イヴ様。総司令官の任、ご了承頂けますでしょうか?」
リアーナ王妃様が私を見つめている。
イヴ様?って私の名前だよね。
え?私?え?
そんなまさか。
‥‥‥嘘ですよね?
私は、動揺してしまう。
全員の視線が集められ、困惑も混ざっている気もする。
辺りは静かであり、私も、固まっている。
そして、静寂を切り裂く、王妃様の声。
「イヴ様?」
「はえ?」
思わず、変な声が出た。
それはそうだよ。
初陣で、総司令官て何よ?
兵士についての勉強も、まだ出来ていない。
そもそも、信頼されてないと思うし。
は!?
それよりも早く返事しなきゃ!
拒否なんて、出来る訳ないもんね。
はあ。
「はい。謹んでお受け致します!」
「ええ。宜しくお願い致します」
決定してしまったよ。
確かに、仕事は必要だと思ってたよ?
でも、いきなりこんな大役。荷が重いよ。
ラーナちゃんも知ってたんだろうか?
少女は、そう思い、王女様を見る。
なんと王女様は、とても笑顔である。
あぁ、知ってたんだね。
なんで止めてくれなかったんだろう。
うぅ、胃が痛い。
結局、その内容が少女にとって、とても重すぎて、以降の内容は頭に入っていない。
実際、それ以上の話題は無く、役職の決定を、追って決定しただけである。
少女は悩み、屋敷へと帰る。
次の日を迎え、少女は出掛けている。
まず、各部下への交流を図らなければならない。
出陣は1週間後なので、それまでには、様々な勉強をしておかねばならない。
そして、それが最も手っ取り早いのが、現役の人に聞く事である。
交流を兼ねた、勉強会みたいなものである。
そして、今日会うのは、軍団長である。
私の、1つ下の役職になる。
とは言え、情報を調べた結果、相当長い期間を、軍団長として務めているらしい。
とても緊張する。
私みたいな、子供でかつ、戦争経験の無い者に、優しいとは思えない。
出来るだけ、怖くない人でお願いします。
少女は祈る。神に。
実質、自分自身に。
そして、約束の場所に着けば、1人の鎧を着ている人が居た。
そこは、騎士達の宿舎で、外で待ってくれている。
恐らく、この人だ。
少女は、丁寧に挨拶をする。
すると、少女はある事を思い出す。
とても、綺麗な敬礼をする男性。
とても見覚えがある。
「これは、イヴ公爵様」
そう、面白おじさんである。
あの、お偉いさん。本当に偉い人だったんだね。
「あ、えっと」
「これは失礼。名前を名乗っておりませんでした。レイエンです。改めて、宜しくお願い致します」
「宜しくお願いします」
私が、頭を下げれば、慌てて止めるレイエンさん。
「あぁ公爵様!頭を下げるなどと」
「その、これからも迷惑掛けると思うし」
事前に謝っておこう。
ミスしない筈が無いから。
しかし、素直に受け取ってくれない、レイエンさん。
「そ、そんな!何があろうとも、力の限りお助け致しますので、頭を下げるのはお辞め下さい」
「役職とか関係無く、ミスとかあったら言ってね」
「で、ですが。いえ、わかりました」
よし、これで最悪は、事前に教えてくれる筈。
戦争で失敗したら、不味いもんね。
人の命が懸かってる訳だし。
と言うか、出来るなら任せたいんだけどね。
‥‥‥駄目、だよね。はあ。
上の者が働かないのは駄目だよね。
そうだ。騎士さん達と交流もしておこう。
幸い、宿舎に来たんだし、皆んなにも頑張って欲しいもんね。
あ、でも勝手にウロウロするのは邪魔だよね。
許可貰えるかな?
「ねえ?」
「は、いかが致しましたか?」
「私騎士の人達とお話がしたいの。駄目かな?」
私が、そう言えばすごく悩む、レイエンさん。
「う、問題はありませんが。その」
「じゃあ、お願い」
「わ、わかりました」
許可を貰ったので、宿舎の中を案内してもらう。
すれ違った騎士さん達には、挨拶をして出来るだけ、愛想良く振る舞う。
一部の人達には、何故か、天使ちゃんと呼ばれてしまう。
その時の会話は面白かった。
とてもフランクで、新鮮だった。
懐かしかったような気もするけど。
「あ!天使ちゃん!こんにちわ!」
「あ、えっと、こんにちわ。よろしくお願いします」
「見学かい?」
「そんなところです」
「是非ゆっくり、見てってくれよな!」
「ええ。お邪魔します」
「そんな、邪魔だなんてとんでもない」
「いえ、頑張って下さいね」
「おうよ!んじゃまたね!」
とても、明るい男性だった。
私もそれを、分けて貰った。
しかし、レイエンさんはとても難しそうな表情をしている。
少女は、その表情を見ていない。
だが、もし見ていても理解は出来ない。
ある意味、幸せな少女なのであった。