百二十四話 格闘訓練
初めて参加した議会より一週間が経過した。
季節は完全に春となり小鳥の囀りが聞こえる。
今日はやる事がないので、一日中特訓をする予定にしている。
どうにも私は、身体を動かす事が好きみたいなのだ。
書類仕事は好きになれないらしい。
なので、オルトワさんと格闘訓練を行なっている。
オルトワさんも、私が頼めば訓練の相手をしてくれるみたいなので、とても助かっている。
いくら私からのお願いだとは言え、基本的には暇ではないはず。それなのに急のお願いでも応じてくれるのだ。
まあ、嫌がられてはいないと思う。でも、毎日は迷惑かとも思った。
しかし訓練中に、時折笑っている気がするので、大丈夫な気もするけど。
ある程度運動して、休憩を挟む。
リスタさんが、飲み物などを用意してくれているので有り難く頂く事にする。
そして私が休んでいると、リスタさんが話し掛けて来る。
「いやー、お嬢様は凄いんですね」
そう言われて、私は少し照れながら否定を述べようとした。
しかしそれより早く、リスタさんがオルトワさんの手のひらで頭を叩かれてしまう。
こう、スパンて。
「痛いです!」
「当然です!あなたは、いつもいつもお嬢様に失礼な事ばかり言って!」
「ああ、いいよ!?気にして無いから。オルトワさんも怒らないであげて」
「そうですよ!メイド長は厳し過ぎます!」
リスタさんが文句を述べれば、一瞬空気が固まってから、オルトワさんが怒ってしまう。
そう、まさに、ピキッて音が聞こえた気がする。
「リスタさん?お嬢様が大変、お優しいだけです。他の貴族様が、このように優しいと思っていますか?」
「え、あ、いやその」
「良いですか?イヴ様が、お許し下さるから私は、あまり注意をしません。イヴ様の仰る事が全てだからです。しかし、だからこそイヴ様の気持ち一つで、あなたが解雇される可能性もあるのです」
「あ、あ、ですが、その」
「優しい相手だからと言って、何でも許される訳ではありません。その事をしっかりと理解しなさい」
「は、はい」
凄くしょぼくれてしまう、リスタさん。
まあ、私は特に気になってないし怒ってはいない。
なのだけども、少し可哀想だがメイドには、メイドの心構えがあるのだろう。
私が口を挟むべきでは無い気もする。
それのせいか、少し静かになってしまったが、とても珍しい事が起こってしまう。
それは、オルトワさんからの言葉だった。
「ですが私は、あなたの努力は認めます。日々、頑張っているのは理解しています。誰にでも人懐っこいと言うのは、成る程長所です。しかし、礼儀を欠くのは直しなさい」
そう、珍しく褒めている。
まあ最後に説教があるのもオルトワさんらしいが。
しかし、お陰様で空気は改善された気がする。オルトワさんはあまり褒めないから、余計に効果が高い。
流石はオルトワさん。とても有能だね。
私は結局、何も言えなかったが、訓練を再開する。
リスタさんが落ち込んでいるかとも思ったが、大丈夫な様だ。
多分、オルトワさんに褒められたのが珍しかったのだろう。少し驚いた表情が印象的で、固まってしまってる。
そんな、余計な事を考えて訓練をしていると、お腹に一発貰ってしまった。
「うぐっ」
「また、油断していますね。気を散らしては駄目ですよ?」
「むう。でも、なんだかんだで優しいんだね」
私は、オルトワさんを少し誤解していた。
そう、今の一撃も痛くない。
躱せない一撃は、非常に弱めに撃って来ている。
恐らく、当たる瞬間に少し引いて、衝撃を弱くしているのだろうと思う。
ただの厳しい人だと思ってた。けど、そうではないらしい。
しかし、今の一言で、オルトワさんは眉間に皺を寄せてしまった。
私の言葉を煽りだと思ったのだろう。
そして、言い放つ。
「お嬢様?私が、手加減をするから油断しているのならば、本気を出す事を考えねばなりませんね」
「え!?」
「訓練ですし、お嬢様に傷をつける訳には、いかないと思っておりました」
「う、うん」
「仕方が、ありませんね」
オルトワさんは、そう言って手加減が無くなってしまった。
前言撤回。
やっぱり、ただの厳しい人だった。
なんとか痛いのは貰わなかったが、少し擦りむいてしまった。
実際には、メイド長は敢えて、躱せる様に調整しているのだが。
その事に気付かない少女。
とは言っても、本来少女に油断さえ無ければ、クリーンヒットを貰う事はない。
そして、夕方に訓練を終えてから今現在は、治療中である。
オルトワさんに怪我の手当てをして貰っている。
「お嬢様。怪我の治りが早いですね」
「ん?そう?かな」
「ええ。若さ、ですかね?」
オルトワさんのジョークだろうか?
私とオルトワさんは、一回り程度しか離れていない。
十分、オルトワさんは若い。
そう言えば、リスタさんも若い。
私とオルトワさんの間くらいかな。確か、それくらい。聞いた覚えがあるような無いような。
まあ、よくわからないので、曖昧に返事をする。
「どうだろう?」
「もう、瘡蓋になっています。これならば、手当の必要も無いですね」
オルトワさんがそう言って、救急箱を片付ける。
ん?いくら、怪我の治りが早いにしても、たった数刻でそうはならない気がする。
私ってこんなに怪我の治りが早かったかな?
いや、そうだったかもしれないけど、何か違和感を感じる。
これも、記憶が無い弊害なのかな?
少女は悩む。それはどちらの記憶なのか。
それすらも、解らぬまま。
一応、二行目は”さえずり”と読みます。
あまり見ないので、書いています。
まあ、本当はあまり見ない漢字は、使わない方が良いのですけどね。
読める方には、鬱陶しい文章でしたね。
m(*_ _)m