百二十三話 議会
昼まで談笑を楽しんだ少女は、王女様と共に王城に向かう。
今日、初めてやる仕事がある為だ。
軍議に参加する様に。と御達しを受けた。
とても大事な仕事である。
しかし、ラーナちゃん曰く
「軍議とは名ばかりの物です。今回は、イヴ様を周囲へ紹介するのが目的で、今後についての話をするみたいですよ」
らしい。軽目の会議の様な物だと言う事だ。
参加する者は侯爵以上、もしくは王様に指名された者となっている。
私もその対象なので、今回から参加する。
事前に出掛ける準備はして貰っていたので、王女様と一緒に馬車に乗り込む。
私は、お供としてオルトワさんを連れて行く。
1人でも良いと思ったのだが、どうにもそれはダメらしい。
私は何をするのにも、共の者を付けなければならないらしいのだ。
目的地の王城に到着して、大会議室へと向かうらしい。
とても贅沢?な、王女様に案内して頂いて、部屋に入れば、殆どは揃っているのか席は埋まっている。
入室と同時に、全ての視線は私達に注がれる。
物凄く緊張してしまうが、王女様は堂々としているので、私もそれを見習う。
空いている席は王様の隣と、さらにその隣だけである。
王様の隣の片方は、王妃様が座っているので恐らく、ラーナちゃんを王様と私で挟む様な形で座るのだ。
予想は当たっていて、ラーナちゃんが隣に座る様にと、目が言っている。
私が椅子に座れば、周囲が騒ついて私の噂を話している。
やれ、あの者は誰だとか。
イヴです。
まだまだ子供だとか。
うるさい。小さいって言いたいのか?
可愛らしいだとか。
照れるからやめて。聞こえてます。
罵詈雑言?を無視していると、王様が話し始める。
「各々気になるのだろう。諸侯には追って説明するが、取り敢えず、議会を執り行なおうと思う」
王様が淡々と言葉を言えば、全体は一斉に静かになる。
それを確認してから、王様が話を続ける。
「では、いつも通り。リアーナよ。進行役に任命する。良いな?」
「はい、陛下。それでは皆様。これより私、リアーナが議会の進行役を務めさせて頂きます。改めまして、発言権は陛下によって与えられます。意見等、ありましたら手をあげて下さい」
王妃様が議会のルールを説明してくれている。
これに対して文句を言う人は居ない。
王妃様が一つ頷いてから、議会が開始する。
「まずは、ご紹介です。さて、この度より議会に参加して頂くことになりました。イヴ様。どうぞ、自己紹介をお願いします」
どうやら、まずは私の事かららしい。
緊張しているが、奮起する。
残念ながら、舌は理想通りに動く事は無いのだが。
「ご、ごしゅ」
ご紹介に賜りました。と言おうと思っていた。
相変わらず人前で話すのは苦手らしい。
思いっきり。しかも、最初で躓いてしまった。
少女は一瞬で頬を染め上げ、半泣きになる。
結局。
「い、イヴです。よろしく、お願い、します」
それだけしか言えなかった。
今日に至るまでの毎日は、貴族の何たるか等、言葉の言い回しとかを勉強した。
その、努力が生きる事は無かった。
少女の頭の中で、やってしまったと言う後悔が暴れ回っている。
しかし、王妃様がそれを見てフォローをしてくれる。
「えー、イヴ様は公爵になります。永らく、リベリオン家の当主が不在でした。しかし、この度お戻り頂いたので、今日は参加したと言う事になっています」
少女は黙ってしまうが、王妃様の話を聞いて、周囲の人達は、またもや騒つく。
それは、仕方ない事だ。
今まで、その公爵家は隠されていた。
それがある日、急に生まれた様な物だ。
しかも、小さな女の子が当主なのだ。
当然、疑惑は生まれる。
しかし、王様が頷いているので細かく追求する者はいない。
雑談はあっという間に無くなってしまい、声が聞こえなくなってから、王妃様が議会を再開する。
「紹介は以上になります。次は法についてになります。この国に黒龍様が居られる事は、周知している事でしょう。そして、黒龍様を、この国の龍神とすると言った法案を提案したいと思います」
否定の者は居ない。
話を続ける王妃様。
「この国を興した時より、今この時まで黒龍様を皆が崇めていました。ですが、あの方はただの龍ではありません。他国の文化から学んだ事で、龍ではなく、龍神として扱うべきだと判断しました」
王妃様が言い切れば、頷く者達。
この国では、黒龍は絶大な存在感を発揮している。
崇め、奉られ、いわば狂信的に、まさに国の神として扱われていた。
寧ろ、今まで何故この案が出なかったのか、と言う者ばかりである。
反対では無く逆に、賛成一色に染まった。
否定が無かったので、この法は可決される。
議会を行っても、ほとんど否定意見が出る事は無い。
黒龍に関わる法律ならば、尚更だろう。
この異常な空気に、呑み込まれる少女。
正体不明の既視感を感じるが、思い出せないので放置する。
それはさておき、今後もまた議会は行われるだろう。
今回の失敗を踏まえて、次回は失敗しない様にする。
そう、心に決めて、会議の内容を聴くことに徹するのだった。