百二十二話 暖気
冬も終わりかけの頃。
雪は溶け、草花は芽吹き、春を運ぶ風が吹く。
黒髪の少女と、金の巫女が仲直りをして3日。
あれ以来、毎日ラーナちゃんが遊びに来ている。
竜巫女の仕事を終えてから、昼まで私の家でお話をして帰るのが、定番となっている。
勿論、王女様は暇では無い。私も同様だ。
仕事や勉強がある筈。
しかし、忙しくとも王女様を相手するのは、実質仕事である。
私事は置いておいて、王女様との雑談は、最優先の仕事なのだ。
それに、なんだかんだで楽しい。
今日は竜巫女の仕事が無かったので、ラーナちゃんは来ないかと思っていたのだが、今日も今日とて、ラーナちゃんが訪ねて来た。
なんと、連続記録は更新中である。
「イヴ様!」
元気に私の名前を呼びながら、執務室へと入ってくる王女様。
遅れながら、オルトワさんが来て、ラーナちゃんの後ろに立っている。
そして申し訳なさそうに、目で謝っている。
オルトワさんは悪くないので、私が怒る事はない。
そもそも、王女様を止められる筈は無いのだ。
側から見れば、傍若無人に見えるかもしれない。
元気一杯。ムードメーカーな所が、ラーナちゃんの良い所だ。
うん。今日も元気そうだね。
「いらっしゃい」
私が挨拶をすれば、ラーナちゃんは嬉しそうに、私を連れ出す。
「さあさあ、本日もお話しをしましょう」
私を引っ張って、応接室へと連れて行ってくれる王女様。
昔は随分丁寧な人だったのだが、あの事件以来、随分と仲良くなって、お互いに我慢をする事は無くなった。
今もこうして、私を連れ出す。
毎日の様に、ラーナちゃんが来るので、常にお茶会は用意されている。
気の利くオルトワさんが、毎日セッティングしてくれているのだ。
2人共が揃って、席に座ればお茶会が始まる。
「イヴ様?聞いた話になりますが、この度より、軍議に参加されるとか?」
「うん。王様からの命令だね」
「ふふ。私も居ますからご安心下さいな」
「そうなんだ?」
「ま、まあ、とは言ってもまだ、半年程しか経験はありませんが。陛下より、次期女王として、勉強の為にと言う事で参加しています」
成る程。流石はラーナちゃん。頑張り屋さんだし、将来の王様か。
言われてみれば、そうだよね。
ラーナちゃんが王様か。ちょっと格好良いかも。
「ラーナちゃんなら、いい王様になれると思う。改めてよろしくね」
「は、はい。こちらこそ」
姿勢を正してから、返事をするラーナちゃん。
アレ?なんで、そんなに改まっちゃったの?
まあ、いつも通りのラーナちゃんだね。
そう言えば、私は王様に言われた事がある。
それを思い出す。
「あなた様の未来の為に、今後、軍議に出て頂きます。斜に構える事無く、なんなりと意見を披露して下さい」
なんて言われちゃったね。
私に対して、新人だが頑張って下さいって事かな。
なんだかんだで、随分と見守ってくれてるんだろうな。王様は。
お世話になりっぱなしだよね。
だって、この仕事も、エルードさんが無理言って貰って来たらしいし。
まあ、頑張ろう。ラーナちゃんも居るし。
なんとかなる筈。うん!
良い空気が回り始め、新たなる仕事に対して、自分なりに喝を入れる。
仲直りが出来た事で、凄く前向きに考えられる様になった。
そして、2人の話題は変化して、次は魔法について話し始める。
「そうそう、イヴ様?私最近魔法が使える様になったのです!」
「え?あ、うん」
私が微妙な反応をすれば、頬を膨らませるラーナちゃん。
だって、ペンダントで魔法が使えるから、今更だと思ってしまった。
しかし、私は気付いた。相手が嬉しそうに話しているのだから、この反応は良くないのかも。
私は慌てて、励まそうと口を開く。
しかし、それはラーナちゃんに遮られてしまう。
「違います!その、水の魔法が使える様になりまして」
「え?水?」
ペンダントの効果では無いらしい。新たに使える様になったと言う事だろう。
「その、今までいくら試しても、駄目だったんです。それが、つい昨日試したら、その、使える様になってて」
「凄い。ラーナちゃん」
「ペンダントの効果かと思い、外してみましたが、魔法が使えました。ですが、ペンダント無しで魔法を使うと、すぐに魔力が無くなって」
「うん」
「つい、はしゃぎ過ぎまして。気絶してしまいました」
「え!?大丈夫なの?」
「身体には問題無しです。魔力の使い過ぎだろうと言う事らしいです」
凄く照れながら、嬉しそうにしている。
顔を真っ赤に染めながら、とても綺麗な笑顔だ。
とても嬉しかったのだろう。
そうだ、こう言う時に言ってあげる言葉がある。
「おめでとう。ラーナちゃん。私も負けないからね」
「う、イヴ様が本気を出すと負けてしまうので、手心を加えて下さると、有り難いです」
私は少しの負け惜しみも混ぜながら、純粋にラーナちゃんを祝う。
良いライバルでもあり、良い友でもある。
ラーナちゃんも笑いながら冗談を言っている。
とても幸せな時間。
2人は雑談をしながら、昼まで笑い合うのだった。
さて、ラーナ様は魔法が使える様になりました。
あのペンダントの力によって、ラーナ様の魔力核が強化された結果です。
あとは、魔力を使い続ける事で成長します。
まだまだ、ペンダント無しでは弱く、持久力も無いですけどね。
この世界の魔法は才能に依存していますが、飛び抜けている者の魔力を浴びる事で、才能が開花する事があるみたいですよ。