百二十一話 嵐の後の虹
屋敷へと帰った黒髪の少女は、日々の日課を始める。
随分と長く、王城に居たので、昼を過ぎている。
食欲も無いので、仕事をしていると、オルトワさんが食事を持って来た。
「お嬢様。食事を置いておきます」
「ん。ごめん。サボっちゃった」
「いえ、たまにはそう言う日があっても良いですよ」
サボった事に対しては怒られないらしい。
エルードさんはどうだろうか?あの人も忙しい筈だから。聞いてみようか。
「エルードさんは?」
「魔法の本を借りに行きましたよ。王家に」
「え?なんで?」
「お嬢様?魔法が使える様になったのでしょう?」
「あ、そっか。知ってるんだね」
そう、魔法。確かにエルードさんには見られてる。ついでにリスタさんにも。
魔法か。ラーナちゃんには申し訳ない事したな。
私が落ち込んでいってると、オルトワさんは話し続ける。
「魔法を使える様になった訳ですし、訓練の種類を増やしていけますからね」
「うん。まあ、程々にお願い」
「わかりました。それよりも、明日はいかが致しますか?」
「明日?」
「竜巫女様の所に行くのですよね?王妃様からそう聞きましたよ?」
「え!?なんで?」
「いえ、基本的に私は、お嬢様のそばに居ます。追い掛けましたが、王妃様に大丈夫と言われて、帰されました」
「嘘?」
「流石に、城内に黙って入れる訳ではありませんが」
「見てたって事?」
「はい」
全て見ていたらしい。と言うよりも、常に私のそばに居るらしい。
気配を消してとか、そう言うヤツだろうか。
今まで、気付かなかった。
つまり、私の失態を知っているらしい。
「しかし王女様が、あの様な魔法を使えるとは」
「その、どうしよう」
「ん?何がですか?」
「ラーナちゃんに謝りたくて」
「何故です?」
どうやらあの芝居に気付いている訳では無いらしい。
私は細かく説明をする。
「な、成る程。それはまたなんとも」
「どうしよう。ラーナちゃんに嫌われちゃった。なんて言って謝れば」
「そこはもう、素直に悪かったと思った所を謝るしか」
「許してくれるかな?」
「王女様は、お嬢様の事が大好きですから大丈夫ですよ?」
「本当に?」
「はい」
大丈夫だと、太鼓判を押された。
私はその後、ひたすら訓練や勉強をした。
何かに打ち込んで無いと苦しくて、その日はその後疲れて泥の様に眠った。
次の日。
迷惑にならない様に、出来るだけ早くの朝に、王城へと向かう。
建物内に入れば、メイドさんに案内されて、とある部屋へと向かう。
毎度お馴染みの応接室である。
扉を開けて貰って中に入れば、王妃様と王女様が居た。
「ようこそ。イヴ様」
「ど、どうぞ。イヴ様」
王女様の対面の席を、案内される。
王女様の緊張が、私に感染り、返事も返せずに私は座る。
先程のメイドさんは、足早にこの部屋を去り、非常に重苦しい空気となる。
この場はメイドにとっては、酷な空間だろう。
あぁ、ラーナちゃんはやっぱり怒ってるよね。
ウジウジするのはダメ。謝るんだ。
話し始めたら、勢いでなんとかなる!多分。
黒髪の少女は、そう考えて、謝る。
「「ごめんなさい!」」
金の巫女と黒髪の少女の声は重なり、同時に謝る。
ピタッと空気が固まって、すぐさま金の巫女が主導権を握る。
「あ、ああ!いえ!私が悪いんです。イヴ様にあの様な、私が、ウッ、グス。ごめんなさい」
謝りながら泣き始める金の巫女。
片方が泣きじゃくれば、黒髪の少女も同様に、泣いて謝る。
「私の方こそ。ごめんなさい。ラーナちゃん、に、謝り、たくて」
「違います。私は嫉妬をしたんです。イヴ様が意地悪をしたんだって、思っちゃいました」
「うん。ごめん」
「そんなつもりじゃ無かったんですよね。本当に、私は」
「いいの。私が、悪いんだもん」
「イヴ様は悪くありません!」
「ラーナちゃんだって!」
「「あ、」」
2人はまたもや、ハモってしまう。
よく似た者同士なのだ。
そして上目遣いを使いながら、金の巫女は言う。目線を上下に動かして、黒髪の少女をチラチラと見ながら。
「その、私はイヴ様の事が、その、大好きです。なのでその、許してくれますか?」
「え、あ、う」
顔を真っ赤に染めながら、黒髪の少女は動揺する。
そして、1つ頷いて答える。
「私も、その、好き。許して欲しい」
それを聞いた金の巫女は、笑顔を咲かせて、黒髪の少女に抱きつく。
このまま、抱き合うかと思えば、唐突に金の巫女は離れる。
何事かと、黒髪の少女は疑問を浮かべれば、金の巫女は話し始める。
「イヴ様。これをお返し致します」
蒼玉のペンダントを差し出す、金の巫女。
それを見て、少女は考えてしまう。
要らない?‥‥‥そっか。
少し、悲しいな。
そして黒髪の少女が、チラリと金の巫女に視線を走らせると、名残惜しそうに見ている。
なので、一応確認してみる。
「要らないの?」
思わず、冷たい声音で言ってしまう。
「い、い、‥‥‥はい。私には」
と言いつつも、名残惜しそうに視線が動いている。なので私は閃く。
きっと今度は上手く行くと思う。
ペンダントを受け取って、私は言う。
「ラーナちゃん。あっち向いて。と少し屈んで」
「え?あ、はい」
私はそっと、後ろから抱きついて、ラーナちゃんの首に掛けてあげる。
驚いているだろう。ラーナちゃんにトドメを刺す為に、耳元で囁く。
「貰ってくれないと泣いちゃうもん。私の気持ち、受け取ってくれるでしょ?」
しかし、泣いてしまうのは金の巫女だった。
スンスンと泣き始めて、段々と涙の粒が大きくなり、床に落ちて行く。
甘美な光景を眺める王妃様。
その表情は暖かな眼差しで、娘達を見守るのだった。
仲直り出来ましたね。
当然の事ですが、あのペンダントはとんでもない代物です。
蒼神のペンダントと言い、所謂神器です。
魔力がない者でも使用可能で、効果はイヴの祈りと同じですね。
イヴが装備すれば、効果範囲拡大。
他人が装備すれば、単体。
とまあ、差はありますが、それでも十分ですね。
余談ですけど、あのナイフも神器です。
さて、何処にいるのやら?ですがね。