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黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
五章 対なる者
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百十九話 歪曲の眼差し

ある日の事。


いつも通り教会へ行き、仕事の準備をしていた。

竜巫女様の悩み相談が始まるまでに、ほんの少しだけ時間がある。

なので、私はラーナちゃんに聞いて貰いたくて、つい自慢をする。


「あのね。ラーナちゃん」

「ん?どうかしましたか」

「私、魔法が使える様になったの」

「そ、そうなのですか?」


驚きながらも、少し反応は小さい。



アレ?思ってた反応と違う。

もっとこう、驚かれるのかと思ってた。


「イヴ様の魔法。大爆発を起こすとかでしょうか?それとも」


金の巫女はブツブツと独り言を言っている。

そして、その声が黒髪の少女に届く。


「いや!?無理だよ?」

「はえ?」

「流石に、魔法で爆発は無理だよ?」

「あ、声に出てましたか」

「え、まあ」


私がそう言えば、乾いた様に笑うラーナちゃん。


「あははは。はぁ。まあ、イヴ様が魔法を使えるのは当然ですね。それに比べて私は」



落ち込んでしまう竜巫女様。どうやら、ラーナちゃんは魔法が使えないらしい。そして、それがコンプレックスだったようだ。

それを無神経に触ってしまい、自慢してしまった私。

なんとかしてラーナちゃんを元気付けたい。

とは言え励まされるのは、余計惨めになるだけだ。


私は何も言えずに、気まずい空気のまま仕事が始まる。

しかし、流石は竜巫女様で、落ち込む様子も見せず、人々の悩みを笑いながら聞いてあげている。



本当に、ラーナちゃんは凄い。

とても羨ましく思う。沢山の人々に尊敬されていて、信頼されている。


ならば、私には何がある?


やっと、魔法が使える様になった。それでもまだ、努力は足りない。

少しでもラーナちゃんに追い付きたい。

優しくて、明るい。まさに天使様。

私はラーナちゃんの力になりたいのだ。



互いが互いを羨む関係。自分に無い、何かを求める。


潜む影は忍び寄る。

何事も無いかと思い、仕事をしている最中の事である。


人が飛び込んで来た。


言葉の綾だが、担架に乗せられ、凄い勢いで運ばれて来た。

その人は血が付着しており、かなりの怪我をしているのが見て取れる。


教会は、怪我の応急処置もしている。

怪我人が運び込まれたのは、必然と言える。

すぐさま広い場所に寝かせてから、騎士達が手当てを開始する。



非常に痛そうで、私は思わず近寄る。


「イヴ様!お下がりください」


当然、騎士さんには下がる様に言われてしまう。

でも、私には出来る事がある。


「大丈夫だよ」


私はそう言って、祈りを捧げる。


黒髪の少女の瞳と、胸元が光り輝く。

青色の光は、怪我をしている男性にまとわり付き、傷痕が塞がれる。



無我夢中で魔法を発動したけれど、まさかこれ程の物とは思わなかった。


呻いていた男性は、驚きながらも全身を触って、感覚を確かめている。

そして、思い出したかの様に慌てて口を開いてから、男性はお礼を述べる。


「あ!ありがとうございます」

「ううん。気にしないで」


一応お礼を受け取りながら、ある事を閃く。



そう、それは私の手柄を、竜巫女様の物にする事だ。

こうする事で、竜巫女様の素晴らしさをアピール出来る。

そして、あわよくばラーナちゃんに褒められたい。いつもお世話になっていて、やっと返せられるかもしれない。



私は高らかに、宣言する。


「この力は竜巫女様の加護である!」


辺りは静けさに支配され、ほんの少し間を開けてから歓声が上がる。

人々は竜巫女様を讃え、奇跡だと口々にはしゃぐ。

私はそれに一押しをする。


「奇跡の宝具をお返し致します」


私はそう言って、蒼玉のペンダントを取り出す。

そして頭を下げて、ラーナちゃんにペンダントを手渡す。

ラーナちゃんは顔を引き攣らせている。

私はその表情を見ていなかった。


声を震わせながら、口を開く竜巫女様。


「あ、あ、そう、ですわね」


私は首に掛けてあげようとしたが、首を振って断るラーナちゃん。一応受け取ってはくれた。


そして、竜巫女様は何かを誤魔化す様に口を開く。


「皆さん。今日はこれで終わりとします。怪我人の対応は任せます。良いですか?」


竜巫女様にしては珍しい、中止を宣言する。後の事は、護衛の騎士に任せて、慌てて帰ってしまった。

あまりの急変に、私はラーナちゃんを追い掛ける。

ラーナちゃんに異変を感じたからだ。



やっと、追いつけたのは城内。


私はラーナちゃんを呼び止める。


「ラーナちゃん!」

「あ、イヴ様?」


振り返ったラーナちゃんは涙を流している。

何事かと問い掛ける。


「どうしたの?」


私が問えば、悲しそうな表情のラーナちゃん。


「あんまりです。イヴ様」

「え!?」

「私は竜巫女の仕事を誇りに思っていました。この仕事で、沢山の信頼を得ることが出来ました。それを、一瞬で、私から、奪うなんて」


嗚咽混じりで、喋る竜巫女様。

私は弁明をする。


「そ、そんな」

「笑いに来たのでしょう?私が魔法を使えないから。酷い、です」

「違う、そんなつもりじゃ」


私は、慌てて宥めようとする。

しかし、耐えられなかったのか、感情が爆発する竜巫女様。


「じゃあ、何だって言うんですか!?」

「私、その」

「もういいです!私なんて」


そう言って、竜巫女様は駆け出す。



私はただ、褒められたかった。

竜巫女様に認められたかったのだ。

結果はただ、大切な人を傷付けてしまっただけ。



結局、今度は追いかけることも出来ずに、私はその場で固まってしまうのだった。


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