百十八話 何気ないきっかけ
昼食を取ってから、今度は仕事に取り掛かる。
日々の日課なので、コツコツと進めた結果、それ程多くはない。
エルードさんに見て貰いながら、書類を片付ける。
仕事が終われば、今度は勉強だ。
政治関係や、この国の歴史。軍事や他国の情報等、果てには魔法の勉強もある。
魔法が使えるかどうかは、関係無い。知る事に意味が有り、対策を勉強するのだ。
そして、勉強には実務も含まれる。
実際に魔法の練習を行った。
残念な事に、私は魔法の才能が無いらしい。
その事で、すごく励まされたが、余計に惨めになってしまった。
アレは苦い思い出だ。
魔法が使えないならと、ひたすらに勉強をした。この街にあると言う、冒険者ギルドなる物に行って、魔法についての本も買った。
意味は理解出来るのに、一切魔法が発動しないのだ。
諦めはついたが、負けず嫌いの私は火がついてしまった。
今では、誰にも気付かれない様に、コソコソと魔法を勉強している。
実際には気付かれているが、勉強の原動力になるならば、と知らぬふりをされているだけである。
そして、やるべき事が終われば、エルードさんはどこかへと行く。
恐らく、エルードさんは他の仕事があるのだろう。
折角なので、魔法の練習をしよう。
そう思い、本を開いて読み始める。
「なになに?火魔法のコツ?これで貴方も脱初心者?」
ムカッ!なによ。魔法なんてどうせ役に立たないもん。
こんな物よりも、身体を動かした方がいいし。
脳内で愚痴りながら、オルトワさんに褒められた事を思い出す。
それは、格闘訓練の時の記憶だ。
「お嬢様。大変運動神経が良いですね」
「そう?」
「こんな短期間でしっかりと上達しています。私も教え甲斐があります」
「えへへ」
褒められて、つい姿勢を崩せば、掌底が鳩尾に入る。
「隙あり」
「んぐ」
「油断はダメです。戦闘中に気を抜いてはなりませんよ。お嬢様」
よく考えれば、褒められてはいるが注意もされている。
訓練中は厳しいオルトワさん。油断すると、すぐに負けてしまう。
私は弱いのだ。
だから今も勉強してる。
まあ、魔法の勉強は役に立たないかもだけど。
場所は変わって王城の中。
黒髪少女の部下である老人が、王様と面会をしている。
「陛下。お変わりありませんか」
「うむ。ご苦労。イヴ公爵はどうだ?」
「日々頑張っております。常々、陛下に恩を返したいと言っています」
「う、んむ。そうか」
苦虫を噛み潰したような表情の王様。
その理由が理解出来る者はいない。
一瞬、間を開けてから、老人は話題を変える。
王様の好まない話題だったと、老人が判断したからだ。
「陛下。先日お願いをしていた件はどうなりましたか?」
「ん?ああ。ギルドか。情報遮断をしているから問題無い」
「ありがとうございます。冒険者ギルドは取り壊す訳にも行きませんか?」
「いや。こちらの駒として使える。ギルド長は国寄りの者を選出したからな」
「成る程。陛下のお考えですか?」
「実は、リアーナに相談したのだ。そして、出てきた案だ」
「得心しました。ではもう一つ良いですか?」
「ん?なんだ?」
王様が問えば、老人は願いを言う。
「イヴお嬢様を軍議に参加させて頂きたいのです」
「むう」
「難しいでしょうか」
「そうだな」
「お嬢様は非常に頭が良いです。経験を積ませれば、必ずや国家の繁栄に貢献出来るでしょう」
「しかし」
「お願い致します」
「わかった。わかった。検討しておこう」
深々と頭を下げる老人。老人が退場すれば、裏から女性が出て来る。
「聞いていたか?リアーナ」
「ええ、陛下。宜しいのではないでしょうか?」
「そうか?だが、これ以上の負担は」
「イヴ様が望むならば、良いと思いますが」
「うむ」
王と王妃様は会話を続ける。1人の少女の話題を延々と。
魔法の勉強をしている少女は、亜人と言う項目を見つける。
そこには、獣人族の事とか、エルフやドワーフ等。
人間とは違う種族についても書かれていた。
そして、多様な種族の得意とする、魔法の名前が載っていた。
そして、獣人族の得意とする魔法が書かれていたので、思わず言葉にしてしまう。
「肉体強化?」
少女がそう言えば、右腕に黒い六角形の模様が、複数浮かび上がる。
「え!?何?」
状況が飲み込めず、慌てる少女。
「まさか?」
疑問を述べて、近くのコップを握ってみる。
軽く握ったつもりだが、コップは大きな音を立てて破片が飛び散る。
破片が肌に刺さる事は無かった。
しかし、そんなことよりも、魔法が気になってページを捲る。
そこには、様々な魔法の名前がある。まさかと思い、片っ端から宣言する。
「治癒」
幾つか言葉を言った後の事。一つの単語に反応して、少女のペンダントが光り輝く。
室内が青く照らされ、非常に眩しい。
そして間が悪く、メイドが入室してしまった。
「お嬢様!今の音は‥‥‥え!?」
「あ!?リスタさん?」
部屋に入って来たメイドは慌てている。
そしてそれが伝播して、少女も慌ててしまう。
輝きを消す方法も分からず、ついでに破片が飛び散っている状況。てんてこ舞いの2人。
結局この状況は、老人が戻るまで解決しないのだった。
どの国にもギルドは存在します。
しかし、竜聖国にギルドが出来たのは、ここ数年の話です。
他国の文化を受け入れ、設立されましたが、そもそも黒龍は魔物だと言われていました。
なので、ギルドの存在意義は疑問視されています。
外国との連携を取る為に存在しますが、竜聖国のそれは、思考がかなり偏った施設です。