百十六話 神出鬼没の芸術家
春の昼頃。
現在、乙女は室内に居る。冒険者達の集まる建物の中で、乙女は受付と話している。
「ねえ?情報を買いたいんだけど」
「わかりました。では、奥の会議室に行ってください。職員が対応しますので、少々お待ち下さい」
受付の指示を聞いて、言われた通りに会議室へと向かう。
何故、会議室へと行くのか。
それは情報の重要度に依るが、機密保持の為、隔離して説明される事となる。
他にも、価値のある情報ならば、それを他者に知られない様にする意味もある。
会議室で座って待っていれば、男性がやって来た。
そして、対面に座った男性が話し始める。
「さて?情報でしたかね。質問を投げかけて下さい。物によって金額を指定します。お支払い頂けましたら、その質問に答えます」
どうやら、答えれるかどうかはわからないが、物の価値次第で金額が変わるらしい。
お金はあまり無いので、それは助かる。
まあ、ちょっとだけ、アレを買ったの後悔してるかも。
肌触りは良いけどね。
「じゃあ、まず女神様についてかな」
「ふむ。では、取り敢えず公開可能な部分を説明します」
男性は少し溜めて話し始める。
「女神様は、旧テメリア王国に居たと言われておりました。銀髪碧眼で非常に美しく、とてもお優しい方だったと言われています」
「ふーん」
「そう言えばフユさんも、銀髪碧眼ですね」
「珍しいの?」
「これほど美しい白色は、中々居ないと思いますね」
まあ多分だけど、私は女神様のコピーみたいなものかな?
随分似てるって、今言われたけど、娘的なものなのだろうね。
「うん。ありがとう。他には?」
「テメリア王国が、アルティア帝国に滅ぼされてしまいました。その際に、亡くなられたと言う事です」
「そっか」
「アルティア帝国の黒龍が、テメリア王国首都を壊滅させました。そしてそれに乗じて、国は分割されましたね」
黒龍と言うのは強いらしい。女神と黒龍は敵同士なのだろう。
あの子は女神様の娘らしいから、黒龍は私の敵と言う訳だ。
女神様は負けてしまったけど、何としてでも私の手で倒さないと。あの子を守る為にも。
まあ、何にせよ黒龍の情報かな?
「じゃあ、黒龍の情報」
「女神様については、もう良いのですか?」
「うん」
「そうですか。残念です。ここから有料だったので」
「まあ、お金に余裕があったら聞くかも」
「わかりました。では黒龍についてですが、まず前提をお話しします」
そう言って語り出したのは、黒龍の危険度についてである。
危険度は、最高レベルである。
結果として、単体で街を滅ぼしている。なので魔物としては最強らしく、女神様をも殺した事から、接触は禁忌とされている。
戦った者の安全が、保証出来ないからでもある。
また、黒龍は竜聖国の守り神として祀られている。
アルティア帝国に協力した経緯は謎に包まれているが、黒龍は竜聖国に住んでいると、噂をされていた。
そして、2ヶ月程前に竜聖国の国内で、戦争が発生した。
竜聖国の西側の国、レングラム王国が戦争を仕掛けたのだ。
竜聖国は国境を侵略されたが、一瞬でレングラムの兵達を跳ね返したらしい。
噂に過ぎないが、レングラム兵は黒龍を見たと言っていたらしい。
憶測でしか無い。だが情報を得ようにも、竜聖国には冒険者ギルドが存在しない。
なので、真偽を問えないので、この情報は無料である。
元々、黒龍は竜聖国と関係が深いと言われていた。
恐らく正しいのだろう。殆どの人間は、そう判断した。
情報を聞いた乙女は、やるべき事を決定する。
無料分の情報を、全て頭の中に入れてから退席する。
街中を歩いていると、視線を感じて立ち止まる。視線は基本、常に感じるが、明らかに感情の籠った視線である。
それの発信源を探すと、大人の男性が居た。
その人の視線は悪意では無い。
何事かと思い見つめると、こちらに近付いて来る。
目の前に来た男性が挨拶をしてくる。
「こんにちわ」
「どうも」
「女神様ですかな?」
「ん?どう言う意味?」
「おお。これは失礼を。私は旅の芸術家です。良ければお話でもどうですか?」
「ナンパ?間に合ってます」
「いえいえ。少しだけで良いのです。ですがここでは何ですので」
そう言った男性をよく見ると、目が開いていない。
しかし、確かに私を見ている。
不安だが悪い人では無いと言う、自分の直感を信じて付いて行く。
広場の椅子に2人が座って会話が開始する。
「不審だと思っているでしょうから、簡単に説明を。私は人の魂を見ることが出来るのですよ。あなた様は恐らく、女神様の娘ですね?」
「んー?まあ、そんなとこ。話はそれだけ?」
「ここで会ったのも何かの縁です。何か欲しい物はありますか?元錬金術師ですから、ある程度は作れますよ」
「へえ?何でもいける?」
「そうですね」
「じゃあ、黒龍の魔力を探知する道具は?」
「ありますよ」
「でき、え!?あるの?」
「これですね」
男性は懐からコンパスの様な物を差し出す。
適当に回しても、針は一箇所を指し続ける。
多分その方向に、黒龍は居る。
こんな物が作れるのならば、私の武器代わりに何か作れないだろうか?
「武器とかは?」
「可能ですな。あなたの母にもお渡ししましたからな」
「え!?知り合いなの?」
「素晴らしい方でしたな。大変美しい方でした。あなたの様な綺麗な魂をしていましたから」
「えっと?ありがとう」
「では、これを」
そう言って、男性が差し出したのは、透明な球体である。
「あなたの魔力を吸わせる事で、武器になります。魔力が多い者専用の宝具です」
言うべき事は、言ったのだろうか。男性はスッと立ち上がる。
そして足早に去る芸術家。
乙女は貰った物の、お礼を言う事が出来なかった。
実に自由な人である。
まさかこんなに素早くどこかへ行くとは思わなかった。
乙女はポカンとしたまま、道具を握りしめるのだった。
さて、一旦ここで乙女の話は区切ります。
また黒髪少女の話に戻ります。
余談ですが、リスパイムで依頼を幾つか受ける必要がありました。
しかし少女は、それを忘れてドラゴンリードに滞在しております。
ギルドから見れば、仕事を放棄したので、またもや評価に響いています。
そして残念な事に、かの3人組も巻き込まれました。
かの3人組は、今は何をしているんでしょうね。