百十五話 世界の違い③
朝。夜も未だ明けぬ早朝。
肉屋で働く物達が居た。店主と乙女である。
店主には言うまでも無いが、非常に手際が良い。
そして、乙女は一応仕事に慣れており、サクサクと仕事をこなしている所である。
昨日血抜きをした、素材を解体している。
本来であれば、今行っている工程も、昨日のうちに済ませておきたい物だ。
だが、乙女の冷却能力により、随分と余裕を持って仕事が出来るようになった。
冷蔵庫のような物が無い訳でも無く、そう言った機能が存在しないかと言うと、そうではない。
実は魔石を上手く使えば、乙女の能力の擬似効果は作れる。
だが、あくまで擬似効果であり、氷点下は作れない。それに比べれば、乙女の魔法は零度を簡単に作れる。
だからこそ、貴重だと言わざるを得ない。
店主は乙女の魔法に助けられており、非常に感謝をしている。
しかし、店主はシャイなので、乙女に感謝を言う事は無いだろうが。
逆に乙女の方も、生活の殆どを助けて貰っているので、乙女も感謝をしている。
お互いが感謝をしていても、中々お礼は言い出せない。
時折、気付かれないように相手に視線を走らせるが、目が合うのを避ける為、すぐに目線を外してしまう。そうすれば、なんとも気まずい空気となってしまう。
店主側から仕事を教える事が、ほぼ無くなってしまったので、現在は実質終始無言である。
微妙な空気に包まれているが、険悪では無い。客観的に一目でそれが理解できる為、問題は無い。一応。
朝の手伝いを終えて、乙女はお出掛け中である。時間は結構経っており、10時過ぎと言った頃合いだ。
さて、お出掛けの目的と言うのは、ズバリ武器探しである。
乙女は魔法を使えるが、念の為持っておいても損はない。
お金に余裕は無いが、下見がてら、適当な物を買えたら買おうかなと考えている。
武器屋に到着したので、乙女は商品を眺める。
この間みたいな、べらぼうな高級品ばかりでは無い。ただの剣ならば、鉄貨で買えるくらいの物がある。
まあ、それらは乱雑に置かれており、自由に持ってみたりして良いらしい。
なので、乙女は鉄の剣を掴んで、持ち上げた。
非力な乙女の腕は、プルプルと震えているが、一応持てるみたいだ。片手剣の様な物を持てば良いのに、わざわざバスターソード持ち上げる乙女。
実に見栄っ張りである。
乙女は呼吸を荒げながら、その大剣を元の位置に戻す。
そして、身の程を弁えたのか、ショートソードを手に取る。
そしてこれなら問題無いのか、適当に振ったりしている。
幸い客は少ないので、危なくは無いが、素振りは控えるべきだろう。
乙女が1人納得している所に、お店の店員が話し掛ける。
「いらっしゃい。買うのかい?」
「うーん。何か斬ってみたい」
「そうか。その前に良い物があるんだが」
「ん?良い物?」
乙女が問えば、棚の中から不思議な機械の様な物出てくる。
「これ何だと思う?」
「何かを測る機械かな?」
「おう。武器適応検査機って言う道具だ。かなり貴重な魔道具だな」
「へえ?」
ドヤ顔の店員と、よく分かってない乙女。
そもそも、「魔道具って何?」状態である。
乙女の疑問は放置で、店員が手招きをする。
乙女はそれに応えて、近くに行くと、店員が話し始める。
「取り敢えず、使いたい武器はあるか?」
「うーん。剣とかかなあ?」
「よし。なら、剣のカートリッジを入れてと」
「どうするの?」
「こいつは武器の適性を調べる道具でな。まあ、物は試しよ。触ってみな」
店主はそう言って、手のマークが描かれたパッドを指差す。
それを見た乙女は、手を当てる。
すると‥‥‥何も起こらない。
いかにもメーターの針が動きそうなのに。
訳もわからず、乙女は笑顔で首を傾げる。
それを見た店員も、何故かそれを真似して微妙な空気が流れる。
「ん?おかしいな。反応が無い」
「どゆこと?」
「まさか、全く剣の才能が無いのか?」
「は!?急に何よ!失礼な!」
乙女は、急な侮辱に反論する。
しかし、店員は困惑しながらも、剣を指差して言う。
「その、ちょっとな?剣を持って振りかぶって見てくれないか?」
「んん?なんでよ?」
「機械の故障かもしれないから」
「そ、そう?ま、まあ機械の故障なら仕方ないかもね」
乙女はそう言って剣を拾い、上段に構える。
すると、急に手が痺れを催したのか、持っていた剣を落としてしまう。
「え?」
「装備は時に持ち手を選ぶと言う。その、なんだ?使える物調べるか?」
気まずそうに問いかける店員。しかし納得のいかない乙女。負け惜しみを言う。
「良いもん!剣なんて使う気無かったし!」
「そうだよな。たまたまだよな」
気の毒そうに励ます店員。プリプリと怒る乙女。上手くいかない事があると、すぐ怒るのは、乙女の悪い癖である。
そして、次々とカートリッジを挿し替えて、適性のある武器を調べる。
そう、次々と、挿し替えて、である。
そして残念ながら、反応する物は無かった。
つまり乙女の武器適性は無しである。
絶望する乙女。
なけなしのお金を握り、意気揚々と来店した。
しかし、プライドは粉々に砕かれた。
杖も駄目。細剣も駄目。ついでに装備できない防具も結構ある。
才能が無いと言われ、傷付く乙女。
そもそも武器を求めたのは、格好良さそうだったからである。
子供の頃に見た、女の子なら誰でも一度は真似する、あの有名な女児向けの魔法少女。
魔法のある世界だから、魔法少女に少しだけ憧れた。
現実は、非情だ。
ひょんな事から、乙女は自分の才能を知る事になる。
魔法はほかの人よりも圧倒的に優れている。
しかし、不可能な事は多く、それが納得出来ない乙女。
乙女は理想を追い求め続けてしまう。
出来なければ後悔。さらに、不退転の心。
だが、それこそが乙女を苛む負の感情である。それに気付く者は居ない。
力を持つ者だけが得る、孤独に抗う乙女。
結局何も買えずに、乙女は借り部屋へと帰るのだった。
氷魔法は水魔法の変異した物です。
乙女は水魔法は使えませんけどね。
乙女に装備できる武器はありません。
特殊な装備は除きますが。
と言う事で、人の理を超えた者は、非常に尖った性能になります。黒龍も女神もこれだけは、例外はありません。