百九話 信頼
ある日の朝。
大きなテーブルを囲み、1つの家族が会話をしながら、食事をしている。
皆、綺麗な金髪で、見るからに偉い人だと分かる。
その根拠とは、立派な格好をしており、非常に丁寧な様相で食事をしている。
そして、娘が父に向かって質問をする。
「陛下。イヴ、いえ、黒龍様について質問があります」
「ん?どうした?ラーナ」
「黒龍様に依頼した内容を、お聞きしたいのです」
その言葉を聞き、思い当たる記憶を浮かべて訊ねる。
「少し前の話かな?」
「はい」
そう言って、説明を開始する王様。
数日前。
黒髪の小さな少女が、大人に向かって話し掛ける。
「で?頼みたい事って?」
それに応じる王様。
「はい。西方の国境で、小競り合いが発生しているのです」
「叩いて来いって事?」
「ま、間違いではありませんが、手段はお任せします。但し、竜聖国に黒龍ありと、知らしめて頂きたいのです」
王様がそう言えば、少し悩む少女。
「情報は?それだけ?」
「国境の情報伝達には時間が掛かるので、そうですね。現場指揮官には、貴女様の情報を隠しますので、必要とあらば接触して下さい」
「ん。理解した。どうやってやるの?」
「王家の印を押した手紙を用意します。指揮官にこれを出せば、融通してくれる様にしておきます」
「わかった。アレだね?脅せば良いんだね」
「ま、まあ、そうですな」
王様は会話の内容を包み隠さず説明する。
そして、それを黙って聴く娘達。
話を聞いた王妃様が、娘に質問をする。
「ラーナちゃん?何故その様な事を訊くのかしら?」
「はい。先日、イヴ様にお会いしてきました。元気そうでした」
「まあ?無事で何よりですわね」
「ですが、記憶が無いみたいでした」
娘がそう言えば、驚く王様と王妃様。
「え!?」
「な、なんだと!?」
そして、娘は追い討ちを掛ける。
「自身のことも、理解が出来ておりませんでした。黒龍の自覚を失っていました」
冷静に告げる娘と、とても狼狽える大人の2人。
「な、何という事だ」
「良くないですね」
「はい、お母様。黒龍様を戦わせる訳にはいきません。原因だと断定は出来ませんが、少なくとも今のイヴ様は、年相応の少女です」
「そうですね。様子をしっかり見た方が良いでしょうね」
王様そっちのけで、話を進める女性陣。
色々な対策法を練り上げて行く。
非常事態ではあるが、頼れる物が無いからこその、成長の兆しとも言える。
自力で歩む事を選べば、後は踏みだすだけ。
幸か不幸かは分からないが。
その日の昼。
お城の敷地の前に立っている少女が居た。
後ろにはメイドが控えており、不安そうな表情でお城を見つめている。
黒髪の少女である。
今日は面会の約束を取り付け、仕事を貰えないかを聞きに来た。
王様にお世話になっており、日に日に恩、もとい負債が貯まっている。
何とかしなくてはと、意気込んでも出来る事が少ない。
なので、命令を受けに来た。
精神的にも、何もやってないよりも、小さな仕事をしていた方が、マシだと思う。
面倒くさがりの癖に、変なとこ生真面目な少女である。
かくして、トントン拍子で王様との面会になる。
しかし、
「どういう事ですか!?」
大きな声で、王様に質問をする少女。
そして、それに答える王様。
「あー、いや、十分だと思っている」
王様が申し訳無さそうに、少女に告げる。
納得いかない、と言うよりは、罪悪感とも言うべき感情に、突き動かされる少女は反論する。
「で、ですが!私は何もしていません。せめて何かお仕事を下さい!」
つい、礼儀を忘れる少女。しかし、その事を咎めないどころか、渋々折れる様に宣言する。
「わ、わかった。ラーナと共に、竜巫女の仕事を与える。細かい事は竜巫女に質問してください。お願いします」
口調がおかしくなってしまう王様。そしてどさくさに紛れて、娘へと匙投げをする。
何ともまあ、王様である。
仕事を与えられて、途端に明るい表情になる少女。
その様とは反対に、胃を痛める王様。
そして、少女は竜巫女様の元へと向かう。
余談だが、少女の去った後、王様がとある女性に叱られてしまうのだが、少女には関係のない事だ。
金の巫女の元へと、辿り着いた黒髪の少女は話し掛ける。
「ラーナちゃん」
「こ、イヴ様!?」
急な来客に、慌てふためく金の巫女。しかし、慌てたのは一瞬で、すぐに落ち着く。
「ごきげんよう。イヴ様」
「ラーナちゃんにお願いがあって」
挨拶を省略して、話し掛ける黒髪の少女。
だが、それに怒る事は無く、むしろ嬉しそうに訊ねる金の巫女。
「私に、ですか!?な、何なりと言って下さいな」
「うん。竜巫女様の仕事をやりたいんだけど」
「え!?そ、それは、イヴ様と一緒にと言う事ですか!?」
「え、あ、はい。嫌、ですか?」
おずおずと、黒髪の少女が問えば、悩む金の巫女。悩みながら、ブツブツと独り言を喋っている。
「巫女としての仕事を、黒龍様直々に見て頂けるのは嬉しいのですが。あーでも、恥ずかしいですわね。かと言ってイヴ様のお願いを断るのも。うーん」
完全に1人の世界に入る金の巫女。
そして、不安そうに再度訊ねる、黒髪の少女。
「あの?」
声を聞いて正気?に戻る。そして返事をする。
「は!?あ、その。こ、こちらこそ、不束者ですが、宜しくお願い致します」
返事を聞いて、喜ぶ黒髪の少女。
真っ赤になってしまった金の巫女。返答にも色々と、突っ込み処がある。
すれ違いながらも、お互いへの信頼なのか、歪んだ道は良い方向へと進む。
何はともあれ、少女は仕事を得るのだった。
さて、これから暫くは銀嶺の乙女の話に移ります。
時折黒龍、と言った感じになります。