百六話 様々な仕事②
夜。
テーブルを囲んで、4人で食事中である。最初は少女1人で食べる予定であった。
しかし
「皆で食べよう。わざわざ、別々に食べる必要もないでしょ?」
と言う、当主の決定でメイド含め、全員が揃って食事中である。
そして口を開く、当主であるお嬢様。
「ねえ?エルードさんは、何故ここに仕えてるの?」
その言葉を聞いた老人は間髪入れずに答える。
「はい。私は陛下よりの命令で、教育係として、こちらに仕えております。主に、軍務や政務、他に魔法の知識などが得意です」
「成る程。じゃあ分からないことは訊いても良いの?」
「はい。勿論ですとも。幾らでも頼って下さい」
それを聞いて、少女は話す対象を変える。
「じゃあ、オルトワさんは、なにが得意なの?」
「はい。私は主に、護衛として雇われています。本業はメイドでありますが、私も陛下より、貴女様に仕える命を受け、ここに居ます」
「成る程」
「お望みとあらば、格闘術の教練も可能です」
「手が空いたら、教えて貰おうかな?」
「畏まりました」
メイド長との会話は終えて、次にもう1人のメイドさん。つまりは、リスタさんに質問をする。
「リスタさんは?」
「は、はい!わ、私はメイド長の面接を受けてここに居ます」
「へえ?リスタさんは、後から雇われたんだね」
そこに、オルトワさんが会話に混ざる。
「はい、私が雇いました。もし、気に入らなければ、お申し付け下さい。クビにしますので」
「く、クビ!?そ、そんな」
「あー、いや?別にそんな事はないよ」
「もし、不手際がありましたら言って下さい」
「ま、まあ、わかった。それよりさ雇った基準は?」
「はい。陛下より、雇う者は厳選する様に言われています。何よりも難題なのは、当家を知らない者、と言う条件を付けられました。条件に相応しいのはこの者だけでした」
ん?条件と言うのは、王様の指示かな?
「それも、王様の命令?」
「はい。その通りです。正確には、この国について詳しくない者を雇う様に、と言われています」
「ふーん?まあ、本当に何かがあるんだろうね」
王様の親切なのか?それとも。
よく分からないが、命令とあれば何も言える事は無い。
黙って頷き、食事を続ける。
食事も、終わり頃に差し掛かった頃合いに、オルトワさんが私に話し掛ける。
「お嬢様。明日、来客の予定があります」
「ふーん?誰?」
「はい。竜巫女様です」
「あれ?昨日も会ったけど?」
「はい。是非、行きますと、仰られていました」
「わかった」
ラーナちゃんか。ひょっとして暇なのかな?
そんな事を考えながら、食事を終える。
すると、オルトワさんから提案が飛んで来る。
「それでは、お風呂にしますか?」
「え?あるの?」
「ありますね。王家並みの設備ですから。準備は出来てますよ」
「そ、そう。じゃあ、入るよ」
この家、どれだけお金かかってるんだろう?本当に、御先祖様?は何をしたのか気になる。もしくは、私。
「では、お背中流します」
ん?何を言った今。背中を流すって?え?
いや、1人で入りたいよ。よし、断ろう。
「いいよ。1人で入るから」
「いえ!貴女様のお身体を、洗って差し上げるのも仕事です」
「恥ずかしいからいいよ」
「いいえ!駄目です!」
何が駄目なのか?アレか!?貴族のなんたらか?断れないのか?断れないんだね。はぁ。
「じゃあ、頼むよ」
「承知しました」
結局断れず、お風呂へと、メイドを引き連れ向かう。
そして、ごしごしされた。
とてもくすぐったかった。
たえられず、にげようとした。が、すぐにつかまり、また、ごしごしされた。
メイドさんはつよかった。
湯船に浸かっている少女。気持ち良さそうに1人で入浴している。メイドさんは脱衣所へと下がり、時折声を飛ばしている。
「長湯は駄目ですよ」
「むう、わかってる」
少女は、むくれながら応答する。仕方が無いのだ。お世話をされるのが、嫌なお年頃なのだから。
お風呂から上がり、そのまま寝床へと向かう。
そして、当然の事であるが、メイドさんが付いて来る。
もう、何も言う事なくベッドに入る。とてもフカフカで、心地良い。
これも、さぞお高いんだろうなと思いながら堪能する。
そして寝転がれば、私は今日の1日を振り返る。
私は、私に成りきれていたのだろうか?
不審に思われなかっただろうか?
皆は、私の昔を知っているのだろうか?
不安に思い、私はオルトワさんに尋ねる。
「ねえ?今日の私、変じゃ無い?」
「はい?急にどうかしましたか?」
「いや、やっぱりなんでも無い」
不審に思われてない。なら大丈夫だろう。
そう思っていると、オルトワさんが話す。
「少し、寂しそうに感じます。何か、あったのですか?」
私の中にある不安。それをつい、私は溢してしまう。
「うん。記憶?が無くて」
私がそう言えば、驚くオルトワさん。
「そう、でしたか」
「不安なんだ。どうしたら良いのか。何か、大切な物を忘れたんじゃ無いかって」
私がそう言えば、そっと、私の手を握るオルトワさん。そして言う。
「不安でしたら、幾らでも頼って下さい。その為に、私が居ますから」
オルトワさんの言葉で少し、私の気が晴れる。
でも少しだけ、まだ足りない。
「ねえ?私が寝るまで、私を抱きしめてくれない?」
私がそう言って、布団を上げる。
こうして、一人分のスペースを作れば、動揺するメイドさん。
「そ、それは!?その、仕事がありますし」
ふーん?私の側に居るよりも、大切な仕事があるんだ?
少女が不満を募らせ、睨めば観念するメイドさん。
こうして2人抱きあって、寝てしまう。
結局、メイドさんは朝迄、仕事を忘れて、寝落ちしてしまうのだった。
オルトワさんは、バトルの出来るメイドさんです。
エルードさんとオルトワさんは、元々王家に仕えていた、有能さんです。
王様が、黒龍の部下として、信頼できる者を寄越したわけですね。
そして、リスタさんはオルトワさんが、メイド1人は辛いと言う事で、雇った人です。