表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
四章 竜聖国
102/292

百一話 お返し

静けさに包まれた拠点に、佇む黒髪の少女。ここにいた兵士は全て去ってしまった。黙っていた少女は、独り言を始める。


「愚かな人間。折角、私が見逃してやろうと言ったのに。クロに言われていなければ、命を奪っていた所だ」


冷たい空気を纏い、淡々と言葉を述べる。抑揚は無く、無機質な口調である。


そして、その場に現れる白髪の男。怒りを露わにして、少女に怒声をぶつける。


「やってくれたな。何者だ。貴様は」


声を聞いて振り返る少女。少女の瞳は冷徹な怒りを浮かべている。少女は男を睨みながら口を開く。


「やっと、来たか。少しだけ、感謝をしている」


少女は微笑を浮かべる。急な変化に戸惑う男は、問い掛ける。


「ならば、何故邪魔をする?」


問われた少女は再度目付きを鋭くする。笑顔は消えて、怒りへと染まっている。口を動かして言葉を発する。


「貴様が生きて居ては、私の妹に危害が及ぶかもしれない。だから今、ここで貴様を殺してやろう」


怒りを当てられ、困惑する男。理由を問う。


「本当にそれだけか?それだけならば、怒りの理由が理解出来ないのだが?」



少女は仇敵に憎悪を込めて言う。


「貴様は我の大切な者を奪った。さあ、この世から消える覚悟は出来たか?」


何かを思い出した様な男。臨戦態勢に移りながら喋る。


「貴様!黒龍か!?」





少女は言葉に反応する前に、土を蹴って加速する。


まるで瞬間移動。あっ、という間に距離をゼロにして、男の顔を殴る。


男は動くことも出来ず、幾度と無く地面を跳ね転げる。

有り得ない光景である。

少女の細腕で、体重差が何倍もある男を捩じ伏せている。


そして結果に納得行かないのか、頭を捻りながら喋る。


「なんだ?しぶといな」


少女がそう言えば土煙の中から男は飛び出す。憤怒に呑まれ、顔は歪んでいる。喉が潰れているのか、男は枯れた声で怒鳴り声を上げる。


「忌々しき黒龍が!何故、幾度と無く、私の邪魔をする!?」


その言葉を聞いた少女は、会話に興じる。


「貴様が、私の親の仇だからだ」

「なんだと?まさか黒龍は死んだのか?」

「そうだ。だから貴様を殺しに来た」


少女の告げた答えに歓喜する男。天を仰ぎ、高らかに笑いながら言葉を話す。


「フハハ!それは良い。奴は強すぎた。だが、貴様は一度破壊に成功している。そうだ、貴様さえ居なければ」


そう言って男は呪いを発動する。


男の放った禍々しい悪意は、少女に喰らい付く。鋭く尖った影の様な模様が、少女へと突き刺さる。そして男は勝利を確信する。



男は瞬きをした。そして次の瞬間、目の前が急に暗くなる。


浮遊感と共に激痛を感じ、殴られたのだと理解する。またもや、数えられぬ程の回数を土と触れ合う。


「効く訳が無いだろうが。あの時の私とは違う。そしてその不快な物を、私の大切な妹に向けるな。消されたいのか?」


呪いの効果を得られず、誰にでも無く問う。


「何故だ!?」

「貴様が格下だからだ。ゴミ以下の魔人風情が。己が部を弁えよ」


冷徹な視線で睨む少女。そうすればより怒る魔人。歯を擦り合わせ呼吸を荒げる。


「おのれ!許せん。そうだ。その目だ。貴様らが私を見る、その目が気に入らないのだ!」

「そうだな。私も赦さぬ。父は甘かった。だが私は容赦などせぬ」


睨み合って、お互いが殴り合う。小柄な方が、殆ど一方的に、大人を殴りつける。小柄な方は擦り傷を負ったりするも、すぐに修復している。




かなりの時間が経ち、戦いに飽きてきたのか、距離を置いた少女は喋り始める。


「こんな殴り合いに価値など無い。これは私の腹いせだ。さて?魔人。私達魔物には弱点がある。何か知っているか?」

「なに?」

「魔力核と言う物があって、それが壊れると死ぬのだが、知っていたか?」

「だからなんだ!?」


問い掛けに答える少女の冷たい声。


「もう、終わりにしよう。全てを」

「ま、まさか!?」


魔人は、逃げ出そうとする。だが、遅かった。少女の異常とも言える、速度でもって近寄られてしまう。魔人は最後、声を聞き取る。


「さようなら」



全てを飲み込む無が広がる。


無は周囲の魔力を根こそぎ奪い、魔人は灰と化す。そこに立っているのは少女だけ。そして何事もなかったかの様に、風は灰を何処かへと運んで行く。






ほんの少し前。


心の中で少女達は会話をしている。


《そして、お願いがあります》

『珍しいね。どうしたの?』

《大した事ではありません。体の権限を貸して欲しいのです》

『え?どうして?』

《貴女は油断してしまう可能性がありますから》

『ま、まあ確かにそうかもだけど』

《必ずアイツを倒したら返します》

『信用していいの?』

《ええ。必ず返します》

『ううん。違う。無理しないでね?』

《っ、!はい。勿論です。絶対に》

『そっか。わかった』






1人になった少女は、フラフラと迷う様に歩き、近くの木にもたれて座る。涙を流し始め、顔を手で覆う。少女は吐き出す様に、言葉を紡ぐ。



「ごめんなさい。私は貴女を裏切りました。貴女が目覚めた時には泣きますか?」



誰も答える者はいない。優しげに、だが淡々として続ける。



「貴女はあんなにも愛されています。だから、貴女は大丈夫」



手で防げなかった雫は、太腿に溢れ、地面を濡らす。勢いは増して止められない。



「貴女から、私を消します。抵抗しないで」



苦しみながら、選択をする。そして、




「貴女から貰った、愛を返します」



乾いた風が涙を攫う。戦いは終わった。吹き荒ぶ孤独の風は冷たい。



独り、少女は永く眠るのだった。

今話で第四章終了です。


そして非常に申し訳ないのですが、多分更新を停止して、恐らく不定期になります。


情報整理や、推敲し直したいのでと言う建前です。あとは文字数増やしたりとか。目指せ4000以上!


実際の所は、ストックを溜めたいのでと言う理由ですね。


本当に申し訳ないです。



ひょっとしたらSSとかを、外伝に投稿するかもしれませんが、あまり期待せず待って頂きたく思います。


最後になりましたが読んでくれた読者様、感謝しています。

m(*_ _)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ