表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍の少女  作者: 羽つき蜥蜴
四章 竜聖国
101/292

百話 役目

遥か上空に舞う、1人の少女。先日与えられた任務を果たす為、翼を駆使して目的地へ向かう。場所は竜聖国西部。目標は国境付近の敵指揮官。どうするかは任されており、私の予定では黒龍化して脅すのが今回の任務である。


物資の輸送隊を道標に、前線へと到着する。

気配を可能な限り消して拠点に潜り込む。


私は現在、仮面を装備している。

毎度お馴染みの、不審者を訝しむ様な視線に晒されている。それらを無視して、私は豪華な天幕へと向かう。


当然警戒されているので、複数の騎士に取り囲まれる。

一応味方なんだけどね。と思いながら立ち止まる。そして騎士さんは叫ぶ。


「怪しい奴め!貴様、何者だ!?」

「うーん。味方?」

「こんな変な格好をした味方がいるか!」


騒ぎを聞きつけたのか、お偉いさんらしき人が近くに来て口を開く。


「なんの騒ぎだ!」

「は!将軍閣下。怪しい者が居たので取調べをしておりました!」

「それは何処にいる?」

「あの者です!」


説明をしながら、騎士は剣の鋒を私に向けてきた。丁度良い所に話が通じそうな、人が出て来たので手紙を差し出す。すると近くの騎士が警戒する様に、私から手紙を奪い取る。その手紙をお偉いさんが受け取った瞬間、お偉いさんの表情が変わる。

私と手紙を、交互に見比べながら震えている。そして小さな刃物を取り出して手紙の封を開ける。


お偉いさんの様子がおかしい。手紙を血走った目で見つめ、先程よりも震えている。まさにガタガタと言う音が似合う。なんと書かれているのだろうか?


手紙を読み切り、内容を理解している途中なのだと思う。フリーズしてしまった。私を含めた周りの騎士も、同様に判断に困っている。取り敢えずお偉いさんの再起待ちである。

そして再起動したお偉いさんが口を動かす。


「‥‥‥とけ」

「は!え、今なんと?」


よく聴こえなかったであろう、騎士さんが訊き直す。だが、返答はお叱りの言葉である。


「その方の包囲を解け!このお方はイヴ公爵様に有らせられるぞ!」

「え?」

「早くせよ!首を飛ばされたいか!?」

「すみません!」


私の前で、コントを始める騎士さん達とお偉いさん。一斉に整列してしまう。


‥‥‥随分訓練されているんだね。


顔を青く染め上げた、お偉いさんが私の前に来て謝罪する。


「も、申し訳ございません。貴方様を公爵様と存じ上げず、多大な御無礼を」


とても震えているお偉いさん。見事なお辞儀で、根っからの軍人である。私にとって礼儀なんてどうでもいい。私はやるべき事があるのだから。


敵の情報を得る為に私は、お偉いさんに訊ねる。


「敵の拠点の位置は?」

「は、はい。西の方角にあります。それがどうかしましたか?」

「ちょっとね。お帰り願うだけ」

「は?え?ですが敵もそう簡単に引くとは思えませんが」

「大丈夫。敵さんも喜んで帰ってくれる筈」

「は、はあ」


このお偉いさん、信じてないな?まあどうでも良いけどね。邪魔さえしなければ文句は無いから。まあ、私の任務は簡単だよ。私が敵の目の前まで行ってから、黒龍になる。結果、敵は恐れて帰る。完璧な作戦だ。うん。アイちゃんもそう言ってる。


アレ?本当にそれで良いの?本当に??いつもの冗談だよ?‥‥‥まあアイちゃんがそう言うなら。え?何?黒龍を恐れるのは、当然だって?まあ、そうなのかも?


作戦は決まってしまった。半分、いや、殆ど冗談だった。なのに完璧な作戦らしい。私は思考を止めた。私はお偉いさんに断りを入れてから、歩いて敵拠点へと向かう。



敵地に到着した私は、現在観察中である。


私が敵指揮官を視界に捉えれば、得体の知れない感情が芽生える。


何故か怒りが湧き立つ。ジリジリと身を焦す様な暗い感情が蠢き、肌が粟立つ。自分でも不思議な感覚に困惑する。


冷静になる為、呼吸に意識を向ける。そして私に語り掛ける、灼熱の如き憎悪の声に耳を傾ける。


《クロ。あの者を逃がしてはなりません》

『どうして?』

《まさか生きているとは思わなかった。アレは、父と母の仇です》


アイちゃんから聞かされた真実を呑み込む。スッと心は冷えて、思考が加速する。そして、姉の声以外聴こえなくなる。


『そう。どうするの?』

《倒しましょう。奴を生かしていて、良い事は有りません》

『勝てるの?』

《勝ちます。なんとしても》

『うん』

《そして、お願いがあります》

『珍しいね。どうしたの?』

《▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️▪️》

『そっか。わかった』


私はそう言って拠点の中心に飛び込む。


周囲は騒つき、黒髪の少女はそれらを無視して高らかに宣言する。


「私はここの指揮官を倒しに来た!命が惜しくば去る事を許可する。だが、歯向かう者には容赦はしない!」


少女の声を聞くものは居ない。周囲の兵士達は、少女を取り囲む。他勢に無勢であり、戦力差は歴然である様に思えた。


しかし、有り得ないことが起こる。


少女はナイフすら抜いていない。だが少女は、騎士が繰り出す全ての剣戟を躱す。そして、少しだけ。ほんの少し手に魔力を込めて、兵士を叩けば吹っ飛ぶ。


少女の周りだけ、重力が歪んでいるのかもしれない。そんな事を考えてしまう程、簡単に人は飛んで行く。


異常事態。兵士の1人はそう考える。倒れた仲間の元へ駆け付ければ、死んではいない。だが、骨が折れていて重傷である。犠牲者は30を超えてしまっている。


そして遂には逃げ出す者もいる。1人が逃げれば、後を追う様にもう1人。

2人逃げれば後は総崩れ。


兵士は気付けば足が勝手に動き出す。人を人と思っていないであろう、冷たい瞳。とても綺麗な赤色だった。破滅的な輝きを放ち、まるで心の底に爪痕を刻まれた様な。


少女は気絶している兵士を持って運ぶ。邪魔にならない所に集めて、放置する。仕方のない事だろう。逃げれば良かったのだから。逃げる機会は与えられた。そして、少女は攻撃してきた者にしか反撃していない。しかも死なない様に、戦力を奪うだけに留めている。


本来の少女であれば考えられない、一連の行動である。だが慈悲はあった。そして黒龍の少女は、仇敵の元へと歩いて行くのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ