プロローグ 生まれる前の記憶
ふと、目が覚め身体を起こしてから、辺りを見回すと見覚えのない光景に驚く。
何故なら周り一面灰色の壁に囲まれていたからである。
「あれ?ここは・・・どこ?」
私は、自分の記憶を頼りに、最後に何をしていたかを考える。
「あー多分死んじゃったのかな?」
そう思えば、私の、今の状況に納得出来る。
そして、再び思考の海に沈みこむ。
私は死んでしまった。なのに此処に居るのは、きっとこの空間が死後の世界だからだろう。
ん?それとも死んだのが夢だとか?
いや、それはない。あれ?死んだのなら肉体は?と思い下を向く。
「‥‥‥‥ない」
胸が、では無く身体が。胸は元々無いが、少しくらいはあった筈。自身の状態に困惑していれば、私の耳は音を拾う。
「目が覚めましたか?」
綺麗で、穏やかさを感じる声が聞こえてきた。そちらの方へ視線を向けると、長髪の美しい女性が居たので、質問してみることにした。
「此処は?」
「とある空間とでもお答えしましょうか」
「何故、私は此処にいるの?」
「私があなたをこの世界に招いたからです」
「ここは死後の世界なの?」
「いいえ、違います。しかし、貴女は確かにお亡くなりになっていますよ」
と言うことはつまりこの人?は神とかそう言う系の何かなのかな?逆らったらまずそう。
「貴女の考えている通りです」
あっ‥‥考え読める系の神様だわ。
私が、余計な事を考えていると女神様の口が動く。
「そろそろ、私の話を聞いて貰っても良いですか?」
「あっハイ。どうぞ、お願いします」
「貴女にお願いがあります。ある世界へ転生して頂き、世界を発展させて欲しいのです」
私は、それを聞き考え始める。
まずは、私へのメリットと私へお願いする理由はなぜなのかを。
メリットは生き返ることであり、リスクはいくらかあるだろうということ。
そんなに美味い話は無い筈だ。
そして、女神様が私に頼む理由はわからない。なので訊ねてみる。
「何故私に頼むの?」
「貴女はとても綺麗な魂をしているからです。また私の代わりが務まる者でないと、駄目だからです」
微妙に答えになって無い。信用して良いのかも判らない。
「‥‥‥拒否権は?」
「ありますよ?でもお願いします」
あー、これ断れないやつだー。うん。察した。
でもまあ、生き返らさせてくれるだけでも、有り難いのかもしれないな。
「具体的にはどうやって導くの?」
「貴女の好きにして頂いていいですよ?貴女が、ここから出たら、私は何も出来ませんから」
「私に、そんな事を教えていいの?滅茶苦茶にする事だって考えるかもよ?」
「やはり貴女は綺麗な心の持ち主ですね。悪いことをする人は、そんな事をわざわざ言いませんよ」
人を信じすぎでしょこの人‥‥‥神だったわ。
頼ってくれているのだろうか?でも、自慢じゃ無いけど私に才能なんて無い。だから愚痴の様な何かが口から溢れる。
「私は人を導くほどの、大した能力はないけど?」
私は、生まれてから16歳迄、その殆どを、病気で寝て過ごしていた。やる事がなく本を読んだり、勉強したりと色々やってみた。だが家族に負担ばかりかけて生きて、果てに死んでしまった。病気が治ったら、家族の為に、人の為に、頑張ろうと決めていたのに。
「貴女の為に、泣いているとある家族がいました。その人たちの願いと、貴女の願いを叶えます。そして貴女に幾らかの能力を与えますから、頑張って欲しいのです。その上で可能なら、私の願いを叶えて下さい。私の悲願である、人々の幸せと言う願いを」
そっか。お母さんたちは私のために泣いてくれてたんだ。そう思うとなんだか目が熱いや。
「うん、わかった」
断れないだろうから。
「はい、ではお願いしますね。それと何か質問とかはありますか?答えられる範囲で答えますよ?」
「それなら私にどんな能力が備わるの?」
「神と龍ですね。あとは魔力とか」
「うわ、なんか凄そう。というより魔力?」
「はい、そうですよ?魔法が使える世界です。ただし、その所為で文明がなかなか発展していないのですよ」
「どんな魔法があるの?」
「火水風土の四属性、それと肉体強化。あとはその他という分類で、6種類と言うのが常識として存在します」
「じゃあ記憶は残したまま転生できるの?」
「殆どを封印される事になります」
「そっか」
気になったのはこんな所かな?他に何かあったっけ?いや、もういいかな?
「もう大丈夫ですか?」
「うん」
「では、いってらっしゃい」
女神様が、見送りの言葉を言えば、辺りが白く輝き始める。周りの景色は段々と光に塗り潰されて、輝きと共に、私の意識も、薄く遠のいていく。その時の声は聞こえぬまま。
「私の愛しい娘よ」