そのに 落ちた所に山と馬
前回のあらすじ女神に蹴り落とされて真っ逆さまに落ちた。
どごんというドデカい音をたてて落ちたくせにあんまり痛くなかった、女神の加護的なあれなのだろうか。それにしても一服ぐらいさせてくれたらいいのに、ケチな女神だ。そう思いながら柊煙は鞄から煙草をひとつ取りだして火をつけた。
「これからどうすっかな……自由度が高いと何すればいいかわかんねぇな。」
落ちた山道のど真ん中で胡座をかいて一服していると遠くの方から馬の走る音が聞こえてきた。懐かしい、友達に誘われて即座にハマってスった競馬を思い出すようだった。
「……ーすけ……さーい!」
人の声が聞こえてくる、というか近づいてくる。それもすごい勢いで近づいてきている、だんだんハッキリと。
「たーすけーてくださーい!」
なんと可愛らしい女の子が興奮した馬に乗ったまま走ってくるではないか。助けなければ……?あれ?あの子男の子じゃない?
「だずげでぇえぇえああぁ」
いやなんか普通に可哀想だな、助けるか。柊煙は口からふうっと煙を吹くと煙はまるで生き物のように動き出した。よし、いける。そう心の中で叫んで柊煙は煙で馬を掴んだ。そして動けぬようにした馬の顔を両手で優しく包み込みどうどうと宥めた。それで馬は落ち着いたが乗っていた男の子の方はというと暴れ馬で酔ったらしくそれはそれは元気よく吐いていた。まるで自分の元勤め先の入社祝いの飲み会の新入社員のようで柊煙も会社を思い出し少し吐きかけたが耐えた。
「少年、大丈夫か?」
柊煙がそういうと少年は持っていた水で口をゆすぎ、少し掠れた声でありがとうございますと言った。叫びすぎたのだろうか、少年は酷くやつれていた。いや酷くやつれているのは吐いたからか。手を差し出すと少年は手を掴み立ち上がり自己紹介を始めた。
「すみません、ありがとうございます。僕の名前はアルトです、お礼になにかしたいんですが……。」
一瞬、柊煙の頭に膝枕が浮かんできたがさすがに新たな扉を開きそうだったのでやめることにした。とりあえずここはどこで少年はどこから来て何故ああなったかを聞くことにした。少年はきょとんとしてなぜそんなことも知らないのかというような顔をしてこちらを見てきたがちゃんと疑問には答えてくれた。そして分かったことが三つある。ここはトルトトル・トライグル王国領最北端の町外れの名もなき山のてっぺんであるということ、近くに町はひとつしかなく少年はそこから来たということ、そして俺が落ちた時に響いたドデカい音で馬がびっくりして暴れだしたということ。蹴り落とされてなければこうはなっていなかったかと思うとなんだか少し申し訳ない気持ちになってきた。
「他になにか聞きたいこととかありますか?」
聞きたいこと、聞きたいこと?全く浮かばない、こういう時人は何を問うのだろうか。
「え、あー……趣味は……?」
ダメだお見合いみたいになってしまった、アルトくんすごい不思議そうな顔をしてるしやばい。そんなことを考えていると焦って煙草を落としてしまい雑草が燃えだした。
「あっやべぇ。」
その瞬間俺は自分のポケットというポケットを叩いたが自分の手元に水がないことを思い出して余計にパニックになってしまった。
「《水鉄砲》」
アルトくんがそう叫ぶとその指先から水が飛び出し火を消した。すごい、流石魔法の世界だとキラキラした目でアルトくんを見るとアルトくんはさっきよりもっと不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
「なんで魔法使わなかったの?おじさん魔法使いでしょ?」
おじさんという言葉に少しばかりのショックを受けつつ女神が言っていたことを俺は思い出した。この世界には魔法への適正というものがあって固有魔法やパッシブ魔法を除いては生まれてきて決められた魔法しか使えないということだ。魔法使いは基本的に火、水、土、風の四属性、もしくはひとつ欠けた三属性が使える者が多く、そうでないものは自在に決められ作り出せる固有魔法などでは身体を強化したり武器を生み出したり肉体で戦うような傾向になるということ。
「あー……おじさんこんな固有魔法だけど四属性は火しか使えないんだ。」
はいまたキョトン顔きました。なんか可愛く思えてきたけれど問題はそこじゃない、思ったより俺のようなやつはガチで特異だということがアルトくんの表情でわかった。もうひとつの貰った魔法もこの子からするとおかしなものだろう。
「え、じゃあもしかして火属性だけ凄く魔法が強いってこと?」
アルトくンがもう一度自分の中の違和感を取り除くために質問をしてきた。だが俺は首を横に振った。俺の火属性はせいぜいが少しものを燃やす程度だ。人体に使っても炙る程度にしかならないだろう。おじさんが変なだけだよと言うとアルトくんは納得した。それからは質問攻めだった。名前、他の固有魔法、どこから来たのかということやその他諸々気になることを非常に細かく。当然どこから来たのかなんて事は誤魔化したがよほどの辺境なのだろう。俺が冒険者だというだけでアルトくんはとても興奮し様々なことを聞いてきた。だが当然の如くこの場所以外この世界の土地は知らない訳で適当にぼかして俺は答えた。
「ナグモさん、寝るとこないなら良かったら僕のお家おいでよ。」
なんという天使、あの女神より天使だ。そう思いながらしばらく話を続けながらアルトくんの家を目指した。とりあえず眠る場所だけは確保できそうで良かったと安堵しながら俺は息を切らしながら山道を歩いた。
[name]南雲 柊煙
[age]28
[Profession]異世界転移者
[divine protection]《????》《????》
[Unique magic]《煙操作》《????》
[Remarks]ニコチン中毒