第四話:城に忍び込む
城の衛兵をうまく撒いたところで、
「お前のせいで城に忍び込めなくなったじゃねーか!」とオーケが文句を言うが、もうアストリッドは冷静さを失っている。
「うるさいわね! こうなったら魔法で中にはいる」
「え! お前、魔法使いなのかよ」
「そうよ」
「だったら、最初から魔法で入ればいいじゃないか」
「勝手に入ったら泥棒になるじゃない。けど、もういいわ。多分、正面から頼んでも入れてくれないだろうし」
「じゃあ、俺たちも連れて行け」
「いやよ」
「あ、そうかい。じゃあ、大声を上げて邪魔してやるぜ」とオーケは笑う。
「くそー」とアストリッドが悔しがった。
「仕方ないわね、じゃあ、三人で忍び込むわよ」
「ちょっと待って、僕は関係ないよ」とレオが焦っているが、
「まあまあ、一緒に行こうぜ、親友だろ。それに面白そうじゃないか」とオーケがまた笑う。
オーケはアストリッドに向かって言った。
「一応自己紹介しとくか、俺はオーケだ、このでかいのはレオ」
「あたしはアストリッド」
魔法豆辞典をパラパラとめくるアストリッドを、オーケが胡散臭げに見ている。
「何やってんだよ」
「移動魔法を探しているの」
「いちいち辞典を見なきゃ魔法を使えないのかよ」
「私は偉大な魔王使い、スヴァンテ・アベニウスの孫なのよ」と誇らしげにアストリッドは言った。
「それはすごい、小さい頃から修行したんだ」とレオが言うと、アストリッドはちょっと恥ずかし気な顔をする。
「魔法の勉強は、一週間前から……まだ見習い」
「何だ、そりゃ! 素人同然じゃねーか、大丈夫なのかよ」とオーケが素っとん狂な声を出した。
「だって、十五歳になるまで魔法を使うのは禁止って、お爺様がおっしゃるんだもん。ちゃんと学校に通って、最低の一般常識を身につけてからじゃなきゃだめだって。何も知らない子供が魔法を使うと危険だから」
アストリッドの話を聞いて、確かにそうだなあ、今は詐欺師とか悪態つかれているスヴァンテ・アベニウスだが、やはりまともな人なんだろうなとレオは思った。
「こいつにまかせて大丈夫かよ」とオーケがレオにささやく。
うーん、確かにまずいかもとレオも同感だった。
「どこに入るつもりだよ」とオーケがアストリッドに聞くと、
「城の裏手の目立たないところよ。場所をイメージするの」
「どうやって想像すんだよ」とオーケが、さらに胡散臭げにアストリッドを見るが、
「一度、お爺様のお付きでお城の中に入ったことがあるんだ」とアストリッドはまた誇らしげな顔をする。
「ムーブ!」とアストリッドが呪文を唱えた。
光に包まれた三人が一瞬で消える。
城の中へ移動したが、なぜか正門に立っている門番の頭上に落っこちてしまった。
「うわ!」
アストリッドたちの下敷きになって、門番はぶっ倒れている。
「おい、尻を打ったぞ」とオーケがわめく。
正門周辺にいた人たちが突然現れた三人組にびっくりしているが、門番はというと三人に押しつぶされて気絶しているようだ。
「何でもありませーん」とアストリッドたちは、そのまま急いで、城の中に入って城壁を沿って走る。
城内に庭園があったので、とりあえず三人はそこに生えている樹木の陰に隠れることにした。
「お前、何考えてんだよ! 正門に移動したら意味ねーじゃん」と門番の上に落ちた時、打った尻をさすりながらオーケが非難するが、
「だって、まだ見習いなんだからしょうがないでしょ! 人間失敗はつきものよ!」とアストリッドが開き直る。
「おかげでやばいことになったぞ。あんな騒ぎを起こして、これじゃあ、すぐに捕まっちまうよ。おまけに尻も痛い、謝れ! そばかすブス!」
「いやよ、赤毛チビ!」
「何だとー!」
「やるかー!」
庭園でまた掴み合いのケンカをする二人。
「おいおい、城の衛兵に気づかれちゃうよ」とレオがまたオロオロしている。
そこに若い女性が声をかけてきた。
「あの、どちら様でしょうか」