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第十話:盗賊に襲われる

 大勢のブラッド・バットに囲まれた三人。

 少しづつモンスターが近づいてくる。


「このたき火だけじゃあ、無理だ。アストリッド、魔法で火を出せないか!」とレオが叫ぶ。

「まかせて」とアストリッドが魔法豆辞典をめくる。


「おい、モンスターと一緒に俺たちも火達磨にはするなよ」とオーケが火のついた木の枝でブラッド・バットを威嚇しながら心配そうに言った。

「わかってるわよ! えーと、火を出す魔法はどこだ」とアストリッドは焦っているのか、なかなか目当てのページが見つからない。

「大丈夫かなあ」

 レオとオーケが恐る恐るアストリッドの行動を見ている。


「あった、これだ!」とアストリッドが呪文を唱えた。

「ファイアー!」と大きな声で怒鳴る。


 何も起きない。

 しらけた空気が流れる。


「おい、どうすんだよ、そばかすブス! じゃない、アストリッド!」とオーケが怒鳴るが、

「えーと、どうしよう」アストリッドも困惑している。

 身構えていたブラッド・バットたちも何となく居心地悪そうにしている。


 その時、突然何も無い空間から大量の水が出現した。

 まるで洪水のようだ。

「ヒエー!」と三人とも悲鳴をあげながら、ブラッド・バットと一緒に流されていく。


「ぼ、僕、泳げないんだよ!」レオが大声をあげた。

 そんなレオを水に沈まないように助けながらオーケはアストリッドに文句を言っている。

「おい、アストリッド! 何考えてんだ、お前は! 水出してどうすんだ!」

「だって、見習いなんだからしょうがないでしょ!」


 そのまま押し流されて、森の外まで出てしまう。

 ブラッド・バットたちはほうほうのていで森へさっさと逃げていった。


「ふう、怪我の功名ね。あっと言う間に森から出たわ」

「功名じゃねーよ、お姫様から貰った荷物がほとんど全部どっかへ消えちまったじゃねーか、俺もナイフを失くしちゃったよ。武器も無しでどーすんだ、このそばかす……、じゃない、アストリッド!」

「武器を失くしたって、あ、レオ、ドラゴンキラーの剣は」

「大丈夫、持ってるよ」とレオが剣を見せる。

「よかったあ」

「よくねーよ、こんなずぶ濡れになって……あれ、濡れてない」とオーケが自分の服を触って驚いている。

「僕も全然濡れてない」

 レオも同様のようだ。


「すごいでしょ、魔法は」

 アストリッドは、一応、自分の魔法が役に立ってご機嫌だ。

「さあ、先に行きましょう」と森の外の草原を歩きだす。


 オーケは機嫌よく先頭を切って歩いていくアストリッドを見てレオに言う。

「まあ、すごいけどよお、俺たちヘタしたら溺れ死んでたんだぞ。つーか、あいつの魔法、なにが起きるわからなくて、モンスターより怖いぞ」

 

 

 森から草原に出ると遠くの方に小さい丘が見える。

「あれがニコモール山よ」とアストリッドが指さすが、

 その丘を見ながらレオが呟いた。

「なんて言うか、やっぱりそのなんとか大王がいるとは思えないけどなあ」


 そこへ、「おい、お前ら」と突然、呼び掛けられる。

 汚い冒険服を着て、腰に剣を差した男たち三人組が現れた。

「見るからに盗賊って風情だな」オーケがその男たちを睨みつける。


「な、何の用だ」とレオがドラゴンキラーの剣を構えるが、へっぴり腰だ。

「なんだ、その構え方は。お前、剣を使ったことないだろ」と盗賊の一人が馬鹿にする。

「くそ、ナイフさえ失くさなきゃ、まだ何とかなったのに」とオーケが悔しがった。


「さえない連中だな。金を出せば命だけは許してやるぞ」

 盗賊のボスらしき人物が脅してくるが、

「金なんて、さっき全部失くしちまったよ! 何にも持ってねーよ!」とオーケが怒鳴り散らす。


「しょうがねーな。男どもはぶっ殺して、女は奴隷にでもして売り飛ばすか」

「ボス、こんなブサイク、売り物にならないですぜ」

 盗賊たちがアストリッドを指さしてゲラゲラと大笑いする。


 なんだとー!

 頭にきたアストリッドが超強力な攻撃魔法でこいつら叩きのめしてやると、魔法豆辞典で探していると、遠くから馬のいななきが聞こえてきた。

 誰かが馬に乗って、草原を走って来る。

 よく見ると弓を持ってこっちを狙っている。

 

 シュッ!

 馬に乗ったまま、次々と弓矢をつがう。

「ウギャ!」

 盗賊たち三人の腕に次々と突き刺さった。


 その人物は馬を近くで止めて、「この人たちから離れなさい! でなければ次は命をいただきますよ!」と叫ぶ。

「やばい、逃げろ!」と盗賊たちは腕を押さえて退散していった。


 馬上の人物が馬から降りて近づいてくる。

「どなたか知りませんが助けてくれてありがとうございます」

 アストリッドが頭を下げると、

「お怪我はありませんか、皆さん」その人物が顔を隠していた黒い布を取った。

「セシリア姫!」


 セシリアが微笑みながら言った。

「実は私も一度は冒険というものがしたくて、城を抜け出して参りました」

「えー!」と三人はびっくりしている。


 その反応に、「私がいたら邪魔でしょうか」とちょっと心配そうな顔をセシリアがする。

「いえいえ、全然、大歓迎です。仲間は多い方がいいし。それにしても、姫様、弓技凄いですね」

 アストリッドに褒められて、

「私、弓には自信があるんですよ」とセシリアが得意げな顔をしている。

「けど、よくお城から出られましたね」

「裏口から出る時カール叔父様に見つかったんですが、逆にもう一頭連れてけと言われました。応援してるよって」と離れた場所にいる馬を指さす。


「馬を一頭連れてきましたが、みなさん馬を操れますか」

「俺は出来るよ」とオーケが答えた。

 レオとアストリッドは馬に乗れない。

 必然的に、セシリア姫の方にはレオ、もう一頭の馬にはオーケとアストリッドが乗ることになった。


 セシリア姫の後ろにレオが乗る。

「腰に手を回してくれませんか」

「え、かまいませんか」とレオがキョドッている。

「かまいません。でないと馬から振り落とされますよ」とセシリアがニッコリと笑う。


「チェ!、俺も姫様と乗りたかったなあ」とオーケがブツブツ言っている。

「あたしで悪かったわねえ」

「まあ、とにかく乗れよ」


 オーケに引っ張り上げられてアストリッドは馬に乗った。

 思ったより地面から高くて怖い。

 馬ってけっこう高いんだ。

 アストリッドは高いところが苦手である。ちょっとビクビクしていると、

「おい、大丈夫か?」とオーケに聞かれるが、

「全然平気」と強がった。


「あの山の麓が目的地ですよね」とセシリアが指さして、ニコモール山に向けて颯爽と馬を走らせる。


「お前も落馬しないようにしっかり捕まってろよ」とオーケがアストリッドに言った。

「わかってるわよ」

 オーケが急に馬を飛ばす。

「ひ!」馬なんて初めて乗るので、アストリッドはオーケの背中にしっかり抱きついた。

「おい、大丈夫か」とまたオーケに聞かれるが、

「平気よ!」とまた強がる。


 ニコモール山直前にスポルガ川があり、昨日の大雨のせいか、だいぶ増水している。

 細い橋が見えた。

 川の水で橋が流されそうな感じになっているのにアストリッドは気づいた。先に走って行ったセシリアたちが馬から降りて、橋を恐る恐る渡っているのが見える。


 それを見てアストリッドがオーケに、

「あたしたちも馬から降りようか」と聞くが、

「大丈夫だよ、このまま渡れるよ」


 橋は増水した川の水でいまにも浸かりそうだ。渡っている間、思わずオーケにしがみつきながら目を瞑ってしまった。

 しかし、オーケはそのまま細い橋をなんなく渡る。


「あんた、馬の操縦うまいのね」と感心したようにアストリッドが言うと、

「こんなの、たいしたことないよ」とオーケは平然としている。


 オーケの奴、ちょっとかっこいいなとアストリッドは思った。

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