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第一話:王国の軍隊が壊滅する

 ナロード王国政府に、ドラゴン退治のためベルーダ山に派遣された軍隊が壊滅したとの急報が届いたのは昨夜である。


 数週間前、王国政府に対してドラゴン使いのバルタザールと名乗る者から脅迫状が届いた。

『金貨百万枚を用意しろ! さもなければベルーダドラゴンで首都を破壊する』と。いたずらかと放っておいたら北方のベルーダ山にドラゴンが出現、山の麓にあるベルーダ村が襲われて、大勢の村人が餌食となった。驚いた政府は、大魔法使いと呼ばれ尊敬されているスヴァンテ・アベニウスにドラゴン退治の指揮を依頼し、軍隊を派遣したのであった。


 そして、今朝、ドラゴンに反撃されて壊滅した軍隊の生き残りが王都に戻って来た。

 冷たい大雨が降っている。

 大勢の市民が見守る中、疲労で倒れる者、負傷して他の兵士に肩を借りて何とか歩いている者など敗残兵たちは皆半死半生の状態だ。

 指揮官であるスヴァンテ・アベニウスも杖をつきながらヨロヨロと歩いている。


 スヴァンテが崩れ落ちるように路上に倒れた。

 着ていた魔法使いのローブも水溜りで泥まみれになる。

 しかし、誰も助けようとする者はいない。

 中には、「役立たず!」とスヴァンテを罵りながらその場を通り過ぎる兵士もいる。


 そこへ、一人の少女がスヴァンテに駆け寄った。

 スヴァンテの孫娘で見習い魔法使いのアストリッドだ。


「お爺様、大丈夫ですか」とアストリッドが泥だらけのスヴァンテの上半身を起こして気づかうが、

「……アストリッドよ……すまん、わしではあのドラゴンは倒せなかった……」とスヴァンテは意識を失いそうになる。


 慌ててアストリッドはスヴァンテを支え、苦しそうな祖父の背中をさする。

「しっかりして、お爺様」

 スヴァンテは息も絶え絶えにしながらアストリッドに話しかけた。

「……ドラゴンキラーの剣だ……」

「え? 今、何とおっしゃいましたか?」

「王都の城に、あのドラゴンを倒せる秘密の剣がある……柄の部分に五芒星のマークが付いている剣だ。アストリッドよ、頼む。その剣を探してドラゴンを倒すんだ……」

 そう言って、スヴァンテは意識を失った。


「お爺様、気をしっかり!」

 アストリッドがスヴァンテを励ましていると、中年の男が近づいてきた。

 その男はスヴァンテをにらみつけながら罵った。

「どこが大魔法使いなんだ、見掛け倒しめ!」

「そんなひどいこと言うな!」とアストリッドが抗議すると、

「ふん、その爺さんのせいでボロ負けだ」と捨て台詞を吐いて、男は大雨の中を去って行った。


 家の軒先などで雨を防ぎながら、敗残兵たちを見物している群衆の中に背の高い少年がいる。

 鍛冶屋のレオだ。

 レオはボロボロの姿の兵隊たちを見ながら、正直、兵士なんかにならなくて良かったと思った。

 気の弱い自分ならドラゴンの姿を見ただけで、足がすくんで全く動けないまま、踏みつぶされてぺしゃんこにされて死んだんじゃないだろうか。

 大人しく鍛冶屋をやっている方がいい。


 そう考えていると背後から、

「レオ!」と呼びかけられた。

 振り返ると、友人のオーケがいた。

 髪の毛は赤毛で小柄な少年だ。


 自称質屋で、他にも廃品引き取りやら、いろいろやっているらしいが実際は何の仕事をして生計を立てているのか、レオもよく知らない。

 たぶん、法律に触れる事もしているのだろう。

 しかし、幼馴染で気が合うので友人関係は続けている。


「ちょっと、相談事があるんだけどさ」と声をかけられて、何だろうとレオが近づくとオーケが周囲を気にしながらヒソヒソ声で話しかけてきた。

「ドラゴンに負けて王国の軍隊は壊滅、政府は混乱状態だ。城の中に入って宝物を取り返そうぜ」

「取り返すって何のことだよ。何も取られてないだろ」とレオがびっくりしていると、

「貴族の連中は普段えらそうに俺たちから高い税金を取って優雅に暮らしているんだから、多少は返してもらうってことさ」とオーケはいたずらっ子のような目つきをしている。


「いやだよ、泥棒なんて。捕まったら大変だ」とレオは顔をしかめる。

「お前は背が高い。うどの大木だけどな。城の塀を越える時だけ手伝ってくれればいい」

「うどの大木はないだろ」

「俺様は背が低いが、その事を全然気にしてないぜ。その方がすばしっこく動けるし、目立たないしな」


「今日は仕事があるからだめだよ」とレオが断ると、

「じゃあ、明日の朝にしよう、よろしくな」とオーケがレオの背中をドスンと叩く。

「強引な奴だなあ、ところで城を出る時はどうするんだよ」

「正門から堂々と出るよ」とオーケは笑った。

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