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第7話 七大魔獣

「よし、行くか」

 

 ジオウの異能は【王者(グラビタム)】。重力を自在に操り敵を押し潰したり、自身の周りに超重力の障壁を作って攻撃を防いだりとこの世界でも最強格の異能だ。その異能で自身に掛かる重力を減らし空中を移動することだってできる。

 

「確かここら辺に……あ?」

 

 もうすぐバルバトスの住処に差し掛かるというところで翼竜型の魔獣の群れと遭遇する。剛魔などの上位個体もちらほら見える。

 

「おかしい……普通はこんな居ないはずだが、七大魔獣(へプタビースト)になにかあったのか?」


 基本、魔獣の異常発生は七大魔獣(へプタビースト)の欠落を示す。

 

「この辺はバルバトスが睨みをきかせてるから翼竜型なんていないはずだが……急ぐか」

 

 異能を駆使して魔獣の群れを殲滅しつつ全速力でキュアラインがあるバルバトスの住処へ向かう。

 

 

 

 

 § 第7話 七大魔獣(へプタビースト) §

 

 

 

 

 

 しばらくしてバルバトスの住処に足を入れる。

 

「静かすぎる……普段なら入口で精神攻撃が来るはずだが……嫌な予感がする」

 

 仄暗い洞窟を進み何かがあったのかと思案する。

 バルバトスは魔獣の身にしてジオウと戦友と呼べる仲。ジオウと戦闘して生き残った唯一の魔獣で、その実力はジオウも認めてるほど。

 

 しばらく歩くといつもバルバトスが眠ってる寝床にたどり着く。

 

「バルバト……おいっ!」

 

 そこには安らかな表情で眠っているバルバトスは居らず、代わりに全身を自らの血で染めた彼女が居た。

 

「なにがあった?」

 

 すぐにバルバトスの近くまで駆け寄り応急処置を施す。

 

(あぁ、ジオウか……恥ずかしい所を見られてしまったな)

 

 バルバトスは直接脳内に自分の意思を送り込むことで会話ができる。

 

「キュアラインは? なぜ回復しない」

 

(キュアラインは……これだけだよ)

 

 目線先のはひとつだけ残ったキュアラインがあった。

 

「バカか! 早く回復しろ!」

 

(ジオウ、慌てすぎだよ。君も知ってるだろう?キュアラインひとつだけだと回復量は期待できない。それに……うん、君の弟子が必要だろう?)

 

「なんでそれをっ……」

 

(頭の中を覗くことくらい造作もないよ)

 

「というかなんでひとつしか残ってないんだ!?」

 

(私をここまでした奴がほとんど持って行ったよ……)

  

「奴?」

 

(あぁ……魔人だよ)

 

「は? お前が魔人にやられるなんて有り得るか?」

 

(あいつはただの魔人じゃないよジオウ……あいつは自分を魔王軍幹部だと言っていた)

 

「ラゴウのっ? いやだがあいつはもう……」

 

(嘘かもしれないからあまり真に受けるな)

 

「わかった。もういい念話もやめろ……今から」

 

(キュアラインを取りに行くんだろう? いいよジオウ……私の身体のことくらいよくわかる。最期は君と話していたい)

 

「友を目の前で死なせるかよ!」

 

(ふふっ……君の口から……友なんて言葉が出るとはな……全く、昔の君に見せたいね)

 

「黙れって!」

 

(お願いだよ、ジオウ)

 

 バルバトスの目がまっすぐジオウを見据えてる。

 

「くそっ……絶対俺の前で死ぬなよ……」

 

(それは少し難しいかな)

 

「なら……」

 

(冗談だよ。さぁ、手を止めて座りなよ。今日はとてもいい天気だ)


 治療を一時中断してバルバトスの顔の近くに座りバルバトスと語り合った。

 

 

 

──「まぁあの時は俺も尖ってたからなぁ、プラトンには悪いことをした」

 

(私が謝っておくよ)

 

「あぁ、数年後にしてくれよ」

 

(おや、この傷見えてないのか)

 

「気合いで耐えろ」

 

(ものすごい無茶を言うのは変わらないな)──

 

 

 

──(ナギくんはどうなんだ? 記憶を見た限りではとても優秀そうだけど)

 

「あいつはでかくなるぞ。片腕が折れてる状態で俺の【天変地異】を防いだんだ」

 

(そう、私の【穢れと破滅】はどうかな)

 

「触れないと無理らしいからきついな、でも俺が鍛えたらお前なんか敵じゃないかもな」

 

(…………それは楽しみだ)──

 

 

 

──(ジオウはお嫁さんはいないのか?)

 

「俺みたいなやつに一生寄り添うやつなんかいねぇよ」

 

(なら隣は空いてるんだな)

 

「魔獣はごめんだ」

 

(酷いな)

 

「悪いな」

 

(…………ん? 「魔獣」はダメって……「私」は否定しないんだな)

 

「なんのことかさっぱり」──

 

 

 その時間は10分にも満たなかったが2人にはとても長く感じられた。

 友との最期の時を過ごしてついにその時が来る。

 

(それであの子が……ッ……)

 

「大丈夫か?」

 

(もち……ろん……問題な……い)

 

「お前、念話が……」

 

 念話が途切れ途切れに聞こえる。それが何を意味するかは2人ともよくわかっていた。

 

(早く……キュアライン持って……いきな。……約束や……ぶっちゃう)

 

 バルバトスの決意を前に覚悟を決めたのか、

 

「……やっぱりその約束無し。お前1人で逝かすかよ」

 

(それは……とて……心強い……)

 

「……なぁほんとにいいのか? キュアラインを取りに行けば俺なら今からでも間に合うぞ」

 

(……私は少し長く……生きすぎたから……悔いは……無い)

 

「そう……か」

 

(ただ……叶うなら……この子を……この子の未来を……私は見たかった……)

 

「この子? 誰のことだ?」

 

(……ジオウ、君さえ良ければ……この子を……)

 

「誰のことだ? おい!」

 

 既にジオウの声は届かないのか返事が無い。

 

(最期に……ひと仕事終えてから……逝こうかな)

 

 そう言って血まみれの身体を起こし、天高く見上げて喉を鳴らした。

 

 その日、ララート国を包む大きな大きな咆哮が鳴り響いた。その咆哮を過去に聴いたことがある者は誰も居ないが、どこか懐かしいと思えるような声がしたと言う。

 その咆哮を聴いた者の難病は治り、咆哮が届く場所では雑草ひとつもない不毛の大地だったのが緑の生い茂る新たな森になった。

 

 バルバトスは大きなひと仕事を終えたあと自身を立派な大樹に変えた。

 

「木に変わりゃ死んでねぇってか? 全く1本取られたぜ」

 

 大樹の根元まで歩き、指を噛んで血を数滴垂らす。

 これはジオウなりの供養の仕方だ。

 

「……時々水でもやりにくるからな。それまでは枯れんなよ」

 

 とても別れとは思えないような言葉を最期に送った。

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