第4話 出会い
ふざけんなよ……やっと倒したと思ったら大幅強化してリベンジに来たよこのクソベアー。
「早く逃げないと……」
疲労でガタガタになってる足を無理やり動かし逃げようとする。
「ウグゥアア!」
だがそれを許すほど優しい相手ではなかった。羽をはばたかせ地面を揺らす衝撃を与えながらナギの目の前に着地する。
「はっ……これ詰みでしょ」
半ば自嘲気味に笑いそう呟く。
同じ策は通じない、こっちの体力はもう空っぽなのに対して相手は怒りで元気いっぱいときた、もう嫌になる。
「ちっ、短い人生だったな」
1週間で終わりとか蝉と同じだな。しかも全部修行につかったしいいこと何一つ無い人生だった。
ごめんなぁナギ、いままでこの体で過ごしてもらったのにこんな終わり方で。
ごめんね母さん、親より先に逝くなんて親不孝な息子で、こんなふざけた終わり方で。
そういえばあの助けた人逃げきれたかな、俺のおかげで助かったならこの命も役に立ったって言えるだろ。
ニヨルから頼まれたことは結局出来なかったけど最期にいいことしたしもう悔いはないな。
力を振り絞りスっと立ち上がる。火事場の馬鹿力なのか不思議と疲労感はない。
「やべー……柄にもなく熱くなってやんの」
拳を握り最期の抵抗を見せるナギ。
「死ぬって決まってもただでは死ぬほど真っ直ぐなやつじゃないんでね。せめてお前の目ん玉くり抜いて逝ってやるさ」
まだ奥の手がある……
希望に満ちた笑顔で魔獣にそう告げる。
「グォオオオオ!」
両の腕を大きくあげて突進する魔獣、ナギは捨て身の覚悟で懐に飛び込む。
「うぉおおおおおおおお!!」
魔獣の両の腕が振り下がるそのタイミングで一気に加速して奥の手を使う。
「ここだっ! 波と──!?」
だが、魔獣はそれを知っていた。魔獣も学習する、何度も同じ手は喰らわぬと警戒して攻撃するフリをした所を狙っていた。
「なっ! フェイント!?」
そして案の定それに引っかかったナギは振るった拳が空を切り体勢を大きく崩してしまう、今度こそ無防備になったナギを魔獣の爪が襲う。
まだだっ! なにか、なにか策があるはず! 諦めるな。最後の最後までどこかに答えはあるはず。目を開けろ、絶対に閉じるな、0.刹那の時間さえ惜しい。探せ。見つけろ。
攻撃が届くまで約1秒。その間1度も魔獣から目を逸らさずなにか策は無いかと思考を巡らせた。が、無慈悲にも凶爪が届くその瞬間だった。
「異能解放、【王者】」
後ろから聞こえるその言葉と同時に、目の前の魔獣は一瞬で潰れた。
1秒も集中を切らさずその場面を見ていたナギは思考停止した。
なぜなら──
「よう少年、元気してたか?」
後ろから現れたのは先程川で釣りをしていた人物が立っていたからだ。
§ 第4話 出会い §
「え、あ、え? これってあんたが? え?」
まだ現状が理解できないのか困惑した様子で問う。
「落ち着け落ち着け、もう敵はいないからゆっくり深呼吸しろって」
「う、おっけ……」
その場に座り込んだまま大きく深呼吸して再度問う。
「えっと、これってあなたがやったのか?」
「ああ、俺の異能の能力だな」
「まじか……」
そう呟いて下を向く。圧倒的な力を前に絶望したのか、獲物を盗られ悲しんでるのか、とりあえず助かり安堵してるのか、その中のどれもナギには当てはまらない。
その時の顔がちらとその男に見える。
「ふっ、圧倒的な力を前にしたらほとんどのやつが絶望するもんだが……なるほど、お前は笑うか」
──ナギは笑っていた。
「あれ? 俺笑ってました?」
「無意識か、そんなに面白いか?」
「はっ、当たり前でしょ……」
こんなん見せられて興奮すんなって言う方が無理だ。
「お前、歳は?」
「14……」
「あと2年か……」
手を顎に置きなにか考える様子の男。
「?」
「……よし、決めた。お前うちに来い」
「え? なんのこと?」
「魔獣との戦い、魔獣の初動を落ち着いて見切り、1発で癖を見抜いた観察眼。表皮が硬く内側が柔いという敵の長所と弱点を瞬時に理解できる適応力とそれの対策を生み出す考察力」
「……」
「とても子供とは思えない抜群の戦闘センスだが、所詮子供。ここで潰すにはとても惜しい。だからうちで鍛える、後悔はさせないさ」
「ありがたい話だけど高く買いすぎだよ。そんな大層なものじゃない」
前世での暮らしだと冷静に判断出来ないとこっちがやられる世界だったから慣れてたな。
「何より最期の最後まで諦めず状況を打破しようというその精神力と未知に対する好奇心が若い頃の俺と似てるのが気に入った」
「へぇ」
あくまで俺自身を褒めるのか……裏で過ごしすぎたな、人を信じれなくなってる。
「……あんたのとこ行けば強くなれるんだな?」
この人について行けばいいことが起こりそうだし。
「ああ」
「さっきの魔獣に勝てるんだな?」
なによりも負けっぱなしってのは嫌だから。
「さっきの魔獣は魔獣の中でも特に強い剛魔と呼ばれるもので、お前が生きてるのがおかしいくらいだからお前の勝ちみたいなものだよ」
「違う、そういうこと聞いてるんじゃない」
その真っ赤な目がこの時だけ一際綺麗に輝いていて、それはまるで小さく炎が宿ってるようだった。
「くくっ、やっぱり面白いわ。質問の回答は異能が開花したら余裕。異能なくても勝てるくらいには強くなれる」
「だったらどんなことでもやってやるよ。えっと……」
「ジオウだ、ジオウ・ランガルド」
「かっこいい名前だな、よろしくなジオウさん」
「へぇ、名前を聞いても驚かないか」
「あ、有名人だったか? そこんとこ詳しくなくて……聞いてもいいか?」
「ぶっ! 有名人かだってよ……いやいい、くくっ、詳しくないか……腹痛てぇ……」
よっぽど面白かったらしく腹を抑えて笑い出すのを必死に我慢してる。
「まぁいいや、よろしくなガキ」
「ナギって名前があるよ馬鹿、よろしくジオウ」
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