第15話 【愚者】
「はじ──」
(先手必勝!)
開始コールと同時に飛び出したのはナギ。
(速っ!)
間一髪で反応し、剣で受ける。
「ナギくん、なかなかコスい真似するね」
「……簡単に防がれたんですけどね」
すかさずもうひとつの短剣で斬り返すが、それも防がれてしまう。
「もっと速くやらないとダメか」
試験官は一度距離を取り、自分の持つ武器を見る。
(……たった数回受けただけなんだけどな)
持ってる剣は大きく刃こぼれしており既にボロボロと言える状態になっていた。
(で、向こうの短剣はまだ無傷、武器の扱いになれてるね)
試験官は少し考え込む仕草をする。
「あー、ナギくん?」
「……なんですか」
「君合格」
「え、いいんすか」
「もちろん、今のやり取りで君のレベルは周りの学生を遥かに超えてるのが分かった。ただひとつお願いがある」
「お願い?」
「本気でやろうか」
空気が震えると言うのだろうか。その男がどれほどの実力を持っているのかがその瞬間にわかった。
(……雰囲気が変わった)
「こんな実力を持ってる学生なんて本気でやり合わないともったいないじゃん?」
あー、この人俺と似てるなぁ。
「……そんなのやるに決まってる」
自分の実力を確かめるって意味もあるけど、何よりこんな面白そうなことやらないわけないよね。
「ありがとう。では行くぞ」
そう言うと持ってた剣を落とし腰に掛けてた剣を抜く。
腰の剣は飾りじゃなかったのか。
「ああそうだ、ひとつ言っとくけど」
男の姿が消える。
「殺しちゃったらごめんね?」
§ 第15話 【愚者】 §
「っ!?」
後ろからの攻撃を即座に反応し短剣で受ける。
(さっきと動きのキレが違いすぎるっ……けど、なんとか反応出来るな)
「く〜、やっぱこの剣に限るね、それにしても今の反応できちゃうか」
またもや姿が消える。
(同じ手は喰らうかよっ!)
先に後ろを向き短剣を振り抜く。
が、そこには男は居なかった。
「後ろって思うよね」
振り向かなければ簡単に対処出来る場所に男は移動していた。
「くっ!」
手を回しなんとか短剣で受けるが、完全には受けきれず肩に傷を負ってしまう。
(うっ……受けてなかったら死んでたぞ……)
「ナギくん異能は使わないの?」
「……まぁまだいいかなって」
(何故か知らないが【愚者】であいつの異能が奪えねぇ……)
「ふーん、じゃあ僕もまだ良いかな」
剣を構え直す男。
(……多分一度は見ないとダメみたいな制限があるんだろう)
両手の短剣を構える。
「はっ!」
強気に前へ出る試験官、しかし先程のより遅く感じる。
(あ? こんなの普通に受ければ……)
が、剣の間合いに入った瞬間にワンテンポズラして下段の構えに移る。
(タイミングがっ、それに下段っ……間に合えっ!)
「【登竜門】」
「っっ!?」
下段にあった剣が急に軌道を変えて首の方へやってくる。
(ばっか……!)
慌てて身体を逸らし攻撃は躱せたが体勢が悪い。
「【両断】」
そのまま勢いを殺さず真下へ振り向く。
(まだだっ!!)
ナギの視線はガウェインを捉える。
(異能解放! 奪え【愚者】!! 【鮮血王】ッ!)
自身の肩の傷口から血を抽出、即席の盾を生成してなんとか難を逃れる。
「ブ、【鮮血王】!?」
男もさすがに驚きを隠せない。
「えええええ! 嘘でしょ!?」
「あいつも俺と同じ【鮮血王】なのか?」
観客席の2人もその事実に動揺が隠せない。
「あっぶねぇ……」
(なんとか【鮮血王】で耐えたけど……さすがに一度見た異能の対策をしているだろうから攻めで異能は使えない。なら……)
(【鮮血王】は応用が効くからもう少し早く使っているはず、だけどナギくんは本当に危なくなってから使ったって事はガウェインくんと違って使う度に体力の消耗が激しいのか……)
両者それぞれの武器を構え直す。
(あいつが異能を使ってきたタイミングで鳴上流をかます)
(分からない以上長期戦は不利を背負う事になるから、異能を使って早めに決着をつける)
観客も息を飲み見守るその場は闘技場とは思えない静けさだった。そして──
「はっ!」
先に動いたのはナギ、短剣による連撃を男に浴びせるが心做しかどこか焦ってるようにも見える。
「どうした? らしくない……ぞ!」
「くっ!」
上手く合わせられ短剣が2本とも折られてしまう結果に。
(っ! 【鮮血王】!)
すぐさま血で短剣を生成する。
「ほう! だけど即席の武器の強度は大したことないでしょ!」
男が言う通り【鮮血王】で作った剣は鉄にも劣る硬度だ。
「確かに正しいです、けど使い方次第で……」
短剣で斬りつけるものの容易く受けられる、が──
(【鮮血王】!)
【鮮血王】を使い、一瞬だけ液状にして滑らせた後、再度剣に戻して斬りつける。
「っ!?」
当の本人も対応が遅れて腕で受ける事になる。
「……こうなる。強度なんていらないんすよ」
「なるほどね……ではそろそろ僕も本気を出さないと失礼にあたるね」
「っ……」
さて、どんな異能が来るか……
「行くぞっ!」
男の姿が消える。
(っ! 最初に見せた高速移動! となれば!)
振り向いて短剣で攻撃しようとする。
「残念、正面だ」
「──そう来るよな!」
即座に向きを正面に向けると男の姿を捉えた。一瞬の躊躇いが勝負を分けるこの状況でナギは冷静に首めがけて一閃。
(見事、この状況で首をこんなに正確に狙えるのか)
(|討った!)
短剣を振りかざして決着が着く。
(けど)
──かに思えた。
(嘘だろ?! 残像!?)
空を斬る短剣が紅く虚しく光る中、ナギの背後を取った男は笑っていた、待っていたのだ、異能を最大限発揮できるこの瞬間を。
(想定外も想定外っ!! 来るか、異能!? 耐えてくれ俺の体!!)
男は手を翳し異能を、ナギは目の付いてない背面に全神経を集中させて【流転】の準備を。
「異能解放っ……」
(鳴上流っ……)
それらがぶつかるその瞬間──
「そこまで!!」
「「っ!」」
誰かの声が掛かりお互いの攻撃が当たる直前で止める。
「まったく……代行と聞いて嫌な予感がしたから駆けつけたんだが、来てみたらこれだよ……」
声のする方を見ると入口から白の鎧に身を包んだ女性騎士が現れた。
「あはは……バレちゃった」
「バレたじゃない……それでこの子は合格なのか?」
「愚問だね。君も見てたと思うけど【瞬歩・弍】を使ってやっと隙らしい隙を見せたんだよ? これで合格じゃなかったら全員落ちるって」
【瞬歩・弍】? あの残像のことか
「隙ねぇ……?」
うわぁ、すっごいこっち見てるー。この人は気づいてるっぽい。
「君もよくこの人の挑発に乗れたな、命知らずなのか?」
「えっ、この人……って?」
「あはは、やっぱり僕のこと知らないんだね」
このパターンはジオウでもやったからそろそろ読めるよ、俺の予想は校長とかそんくらい偉い人だと思うね。
「改めまして、ララート国騎士団団長、ウィルバート・エネル。よろしくね」
「同じく副団長、ガーネット・エネルだ」
予想を遥かに凌駕したね。騎士団長様だったとは。
「あー……処罰は?」
「違う違う! 本当に代行で来たんだよ、そしたら君強いからつい」
つい、じゃないんだわ。
「それより仕事残ってるから早く行くぞ」
「……そういうわけだから、ナギくんは合格」
副団長のガーネットさんに強制的に連れてかれるウィルバートさん……がんばれ。
「あ、ありがとうございました……」
2人とは反対の出口から出る。
「けど珍しいな、兄さんがあんなに本気になってるのは。私も魅入ってしまって止めるのが少々遅れてしまったよ」
「うん、完璧に背後取ったのに殺されかけちゃった。それと最後異能を使おうとしたけど危なかったね」
「やっぱり兄さん気づいてたんだ」
「いや、正確には解放しようと思ってやっと気づいたんだ。あ、これやばいってね。どんな技か見てみたかったなぁ」
「まさかスナーフを……?」
ふとその技の名を呟く。
「ジオウさんの? ありえないね、でもナギくんなら……いや無いか」
その話題はそこで終わり2人は残った業務を片付ける為王城へと戻った。
◇
「うっす」
「うっす、じゃねえよ! よく団長様相手に引き分けたな……」
「運が良かったんじゃない?」
「それで片付くか阿呆、それにお前の異能は俺様と同じ【鮮血王】だったのか」
あー、みんなにはそう見えたのか……言った方がいいかな……
「ここじゃちょっと人目が多いから少し出ないか?」
「これで試験も終わりだし合格祝いって事で遊びに行くか」
「俺様も行こう」
「まだ合否出てないけどね」
そう言って3人は学園を後にする。
投稿時間っていつくらいが一番読まれますかね?
今まではなんとなく0時にしてたんですけど……良ければ感想欄にでも要望の時間帯とかあれば書いてください。
★5評価お待ちしております。