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第11話 誰お前

「かかか! まさかこんな強くなるなんてな、なぁミザ!」

 

「うん、もう僕達じゃ敵わないよタシア」

 

「…………」

 

 一回り大きくなったキュナクの前に三体のゴリラ。その奥からアナスタシアが顔を覗かせる。

 

「へぇ、たったの2年でこいつら越しちまうかい」

 

「みんなのアドバイスのおかげだよタシア」

 

「ふん、言うようになったね。ほら約束の品だよ、受け取りな」

 

 頭の中に直接送り込まれたのは念話の方法だった

 

「やったー! ありがとうタシア!」

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを最大に表す。

 

「ほらここに居たってしょうがないだろう? 行きな」

 

「じゃあもう行くよ、またね!」

 

 4人を後にするキュナク。

 

「……寂しくなるな」

 

「それ言わないように努力してたんだけど?」

 

「…………」

 

「またいつもの静かな日々に戻るさ。ほらさっさと戻りな、私は寝るよ」

 

「聞こえなくてもわかるぜ、強がりは良くないよなぁ? 七大魔獣(へプタビースト)アナスタシア」

 

「そっとしておいてあげな、タシアも寂しいんだよ」

 

「……」

 

「そうだな! 聞こえねぇけど!」

 

 アナスタシアは自分の洞窟に、3匹は森へ帰っていった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ペインフォレストに大きな衝撃音が絶え間なく響く。その中心地にはごく普通の家があった。

 

「おらぁ!」

 

「くそっ……!」

 

「あっぶねえ! 結局2年間1度も俺を倒せなかったなナギ!」

 

 何度も倒されたのか土まみれの体を起こすナギ。

 

「どんな体力してんだよ……ハァ……老いを知らないのかジオウは……ハァ」

 

 上がる息を落ち着かせ何とか言葉にする。そうは言ってるが2年前よりほんの少しシワが増えたような気がする。

 

「バカ言え、俺がこんな本気で戦うのは滅多にないことなんだぞ? もっと誇れ」

 

「勝てなきゃ意味ねぇんだよ……」

 

「やっぱり変わんねぇなお前は」

 

「ん……この足音」

 

「気づいたか、向こうもやっと終わったらしいな」

 

「ああ、いきなりでっかい蛇がキュナクを預かるなんて言った時はちびるかと思った」

 

 この2年間キュナクはナギの元を離れ、アナスタシアの元で暮らしていたのだ。

 

「どこから出てくるか当ててみろナギ」

 

「おっけー」

 

 そう言って目を瞑り神経を研ぎ澄ます。

 

 この地面の僅かな振動から推測するに……

 

「…………南西」

 

 目を開けて南西の方角を見る。

 

「どうだ!……あれ? うおっ」

 

「キュア!」

 

 真後ろからキュナクが飛びついてくる。

 

「すごいな! 本当にわからなかったよ」

 

「キュン!」

 

 すごいだろ! と胸を張るキュナク。

 

「でも……」

 

「キュ?」

 

 成長したんだなってのはわかる。わかるんだけど……

 

 魔獣として少し成長したキュナク、当然身体の方も成長しているため──

 

 キュナクのモフモフが減ってしまった……

 

「くっ……」

 

「キュア?」

 

「って、念話はどうしたの?」

 

「ア……」


「あ、って……」

 

(……忘れてたよ、あはは) 

 

 頭の中にキュナクの声が響く。

 

「おお! 聞こえるよ!」

 

(うん、これでやっと言えるよ)

 

「言う?」

 

(その……あの時色々酷いことしただろ? だからずっと謝りたくてさ……)

 

 とても申し訳なさそうな声で問いかける。

 

「何そんな昔のこと気にしてんだよ」

 

(でも、僕にとっては生きていて最大の後悔になると思うんだ)

 

「お母さんが死んですぐに近づいてくるやつなんて怪しいやつしか居ないからあれくらい警戒して当然だろ? お前は悪いことをした訳じゃないからそんなクヨクヨすんな」

 

(でも……)

 

「だー! じゃあ今許した! 俺は気にしてないって言ってるんだからいつまでも引きずってる方が迷惑なんだよ、だいたい家族のミスの一つや二つ許してやれなくてどうする」

 

(ナギ……)

 

「これからもどんどん間違えろ、俺がどんどん直してくから、お前も俺が間違えた時は頼んだぞ」

 

(……うん、頑張るよ)

 

「あー、いい雰囲気のところ悪いけどそろそろ試験の時間だぞナギ」

 

「試験?」

 

「早く行かないと来年受験になるがいいのか?」

 

「受験……あっ!」

 

 そういえばヴァーミリの試験今日だったな……

 

「こっから直線距離40km程度……間に合うかな」

 

(ナギなら間に合うよ)

 

「無茶言うなよ……」

 

「いや、間に合う。お前は俺が考えたメニューをこなしたんだから脚の速さが桁違いになってるはずだからヴァーミリまでそうかからないはず」

 

「そんなに俺鍛えられたの?」

 

「走って10分だろ」

 

「無理でしょ」

 

「走ればわかる」

 

「はいはい、走ればいいんでしょ」

 

「俺もあとで向かう、あ、重り外しとけよ」

 

 それだけ言い残し家の中へ入っていった。

 

「キュナクはどうする?」

 

 手足に着けたジオウ特製の重りを外しながら聞く。

 

(少し離れたところで待ってるよ)

 

「おっけー、じゃあ行くか」

 

 ヴァーミリの方角へ体の向きを変えて走り出す。

 

「うっは! 身体かっる!」

 

(っ!? ちょ、速すぎるって!)

 

 「世界最強」のジオウと2年間修行の日々に明け暮れていたナギは常人の能力を遥かに上回っていた。その速さは他の魔獣より遥かに高い機動力を持つキュナクを余裕で上回る速さだった。

 何とかついて行こうと頑張るが依然としてナギとの差は埋まらない、それどころかどんどん開いていくばかり。

 

「お、もう森抜けたな。久しぶりだなぁ森の外に出るの」

 

(ナギ待ってえええ! 速すぎるよおお!)

 

 その念話はナギには届かなかった。

 

 

 

 § 第11話 誰お前 §

 

 

 

 家を出てから8分ほどでヴァーミリの前へ着く。

 

「意外と近かったな」

 

(ナギが速すぎるんだよ! 僕が走って追いつけないのジオウとナギくらいだよ!)

 

 周りにキュナクの姿は見当たらないが念話だけが届いてる。

 

「キュナク今どこにいるんだ?」

 

(森の入口付近だよ……ここからなら念話が届くからここでいいかなって)

 

「おっけー、退屈になったらどっか遊んできてもいいよ」

 

(大丈夫、我慢には慣れたから……)

 

 この2年の辛い修行を思い出してるのか声が暗くなる。

 

「大丈夫か……? あ、中入るから少し静かになるかも」


(はーい)

 

 キュナクとの会話に一区切りつけて中へ入ろうとすると

 

「おい、貴様どけ」

 

 男に声をかけられる。

 背丈からみて同年代、おそらく同じ受験生だろう。

 

「あ? 誰お前?」

 

「貴様ここがどこだかわかってるのか?」

 

「どこって……」

 

「あなた! ガウェイン様に無礼ですわよ!」


 隣にいた女が突っかかってくる。

 

「ここは王立ヴァーミリオン学園の入口だ。貴様のような平民には似合わん」 

 

 なるほど、歓迎されてないね。

 

「ありがと、でも俺ここ受けるからここで間違いないよ」

 

「貴様寝ぼけてるのか? 貴様が受けたところで受かる訳が無いし、万が一運がよくて受かったとしても1週間程で辞めるのがオチだ。悪いことは言わん、辞めろ」

 

「そっすか、あざっす」

 

 だるいなこいつ、さっさと受付済ませて待機しよ。

 

「聞こえなかったのか?」

 

「鬱陶しいなぁ……なに?」

 

「貴様のような冷やかしが来ると困るんだよ」

 

「冷やかしじゃないんだけどな」

 

「なら、もちろんこれも防げるよな? 【死の拳(デスブロー)】!」

 

 ガウェインと呼ばれる男が瞬きの間に距離を詰める。あまりの速さに──

 

 おっせえええ!! 嘘だろ……こんなにも違うのかよ……少し身構えた俺が損したわ。

 

 ひらりとマントのように体を翻し衝撃を受け流す。ガウェインにとってはまるで布を殴ったかのような感触だ。

 

「っと、危ないなぁ」

 

「なっ! どうやって……!」

 

「どうって……普通に避けただけ」

 

 鳴上流も使ってないからほんとになんもしてないんだけど。

 

「おい、あいつガウェインのデスブロー受けて生きてるぞ……」

 

「は? 俺にはそもそも当たってなかったように見えたけど……」

 

「どっちでもいいよ! あいつガウェインとやり合ってまだ生きてんだぞ……」

 

 えぇ、そんな受験前に目立ちたくないんだけど。

 

「なんか周り騒がしくなったけど、やるの? やるんだったら遠慮しないけど、お前くらいの実力者ならもうわかるだろ?」

 

 ──俺には勝てないって。

 

 目でそう伝える。

 

「くっ……行くぞお前!」

 

「ちょ、ガウェイン様!」

 

 早足でその場を去るが、その後ろ姿は堂々としていた。

 

「ああいうやつがこの世界だと人気者なのかな……ま、とっとと受付終わらすか」 

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