第八十二話 内情
「これから話す内容はあまり周囲に聞かれるわけにはいきませんので、あなた方も十分に注意して聞いて頂きたい」
そう言った時の表情はとても真剣で冗談を言っている風でもなく、空気が少し重たいものに変わる。
「あまり公にできない内容という事ですか・・・わかりました。二人も十分に注意するようにな」
そんな女性の真剣な様子に俺もこれまでの軽い空気を打ち消すようにして、隣にいるシロエとソフィに視線を向けると二人の首がコクリと一つ頷くのを確認する。
それを見てから改めて話を促すように女性に視線を向ける。
「それでは、といってもそれほど長い話にはならないとは思いますが。端的にいえば、現在のわが国は戦時下にあるのです」
「!?それってつまり、どこかと戦争しているという事ですか?」
いきなりとんでもない発言が出てきて流石に俺も思わずといった感じで口から疑問が出た。
シロエとソフィの二人も驚いて目を見開いている。
「ええ。そうなりますね」
「相手はもしかして・・・帝国ですか?」
だが冷静に考えれば確か帝国が世界に向けて宣戦布告したって事だし、今の世の中の情勢的に帝国以外にはあまり考えられなかったのでほぼ間違いないだろうと視線を向けるが、視線の先の女性は首を横に振った。
「いいえ、相手は帝国ではありません」
流石にこの発言には一瞬言葉を失った。帝国以外と戦争をするなど普通に考えればあり得ない話だ。
何せ帝国は世界で一番国力も軍事力もあるって話だし、その帝国が宣戦布告している最中に別の国同士が戦争など無駄に戦力を消費してしまい、百害あって一利なしといったところだろう。
「帝国じゃ・・・ない・・?じゃあ一体誰が?確かフィーリッツ王国は帝国以外の他の国とはある程度距離が離れていたと記憶しているのですが・・・」
一番近かったのが今や帝国の支配下に置かれた元ランドグルーム国で次いで帝国だったはずだ。
商人の国もある意味では近いが、あの国は島国で海を挟んでいるから仮に戦争になってもそう簡単に先端が開くこともあるまい。
そもそも商人の国が戦争を起こすなんてまずあり得ないと思うけど。戦争を起こしてもらってどちらにも武器を始めとした商品を流すから自分たちが起こしてもマイナスにしかならないだろうしな。
「大変お恥ずかしい話になりますが・・・現在わが国は・・・内戦を起こしております」
「な!?内戦ですか!?つまり自国内で争っていると!?」
ますますその状況は予測がつかず、あまりの衝撃的な内容に思わず驚きで体が後ろ向きに倒れそうになるくらいに背が反れた。
「はい、そうなります」
だがそんな俺の反応にも特に気にすることもなく、だが苦々しい表情で女性兵士は肯定して見せた。
「いったいなぜそんな事態に!?王位継承権とか、貴族の独立、民衆の蜂起とかそんなのですか?」
馬鹿な!?この帝国が全ての国に宣戦布告をしていて、その帝国の目と鼻の先にあるのに自国内で内戦を起こすなんて一体どこの馬鹿だ!?
あのオフィーリアのいる国でそんな馬鹿がいるなんて予想外にもほどがある。
「・・・・・。ジュナス殿はわが国が女性を主体とした国であるという事はご存じでしょうか?」
質問に対して答えとは少し違う回答をされたことに少し戸惑いつつも修道院で習った内容を記憶にある限りで思い出して返答をする。
「ええ、ギルバートさんからも聞いております。国のトップを始め、騎士団などもその半数以上を女性が務めているとか」
正確には男性の騎士団ももちろんあるが、圧倒的に少数派だ。
男性が兵士にならずに農民となることによって、生産性を上げることで国の豊かさを保っているとか言っていたはずだ。
確かに女性よりも力のある男が畑を耕したりした方が作業効率がいいのは解る。
全ての女性とは言わないが平均値を取れば力は男の方が高いだろうからな。
その分女性が兵士として国を守っていると言う訳だ。代々の王が女性だったからという事もあるんだろうけど。
「その通りです。ですが・・・ほんの数か月ほど前から男性陣の騎士団を中心に武装蜂起が発生しました」
「武装蜂起って・・・それって目的は何なんですか?そんなに男性の立場や地位が悪かったとでも?」
女性を主軸とした国で虐げられたりしていればその可能性もゼロじゃない・・のか?
「確かに一般の国に比べると高いとは言えませんが、決して迫害したり、奴隷のようにとはしておりません。そもそも男性の騎士団は女性の騎士団と同じだけの権限もありますので」
「では一体何を目的に?」
今の話だとわざわざ武装蜂起するほどとはとても思えないが・・何か別の事情でもあるのだろうか?そう考えて女性兵士に疑問を投げかけると返ってきた回答はさらに頭を悩ませるような回答であった。
「それが・・・あまりわかってはおりません」
眉間に皺を寄せて苦しそうな表情で答える女性兵士の回答を理解するのに少し時間がかかった。
投稿が遅れて申し訳ありません。
相変わらず中途半端な区切り方になりますが、良ければ評価、コメントなどお待ちしております。