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第七十六話 チュトラリー城壁の戦い5


奇妙なポーズをした男が再びその腕を振りぬいた。


バキィィィィン!!!


とまるでガラスが割れるような、戦場ではまず聞かないような音が鳴り響いた。


その瞬間、それまで一人の男に向かっていたはずの全ての大規模魔術が真逆に、つまりランドグルーム側に向かってきたのだ。

そこから先はまさに地獄の光景であった。


圧倒的な魔術の後に追撃を加えるべく突撃していた兵士達の大多数が、轟音と視界を埋め尽くす魔術を前に、真っ向から受けてしまい、殆どの兵が何が起きたのかすらもわからずに即死。


そして運悪く生き残ってしまった者はもはやまともに動くことすら出来ずに自らの命を死神が狩りに来るのをもがき苦しみながら待つばかりである。


それだけでなく先ほど男が振りぬいた拳の先にいるのは魔術部隊であり、当然の如くその場所には巨大な風穴があいてしまっており、生き残っている者は一人たりとも見えない。


「な・・・・なに・・が・・・・?何が起こった!!?」

「ば・・か・・な・・・これが古代のアイテムだと!?」

「出鱈目だ!!!あり得ない!!!!!」

「こんなことあり得ない!!起こりうるはずがない!!!!」

「どう・・なにが・・どう・・なって?」


といった様子で将校たちは完全に心ここにあらずの状態、だがそれは優れていた司令官や現場指揮官も同じようで


「こんな・・・このような・・ことが・・・」

「そんな馬鹿な!?あの力は魔術にすら影響するというのか!?」


と現実を見据えることが出来ないような状態であった。

だがそんな状況も長くは続かない。

続けて北門に向けて


ドドォォーーーン!!!!!!!!!!


と地面が揺れるかのような音と振動が鳴り響き、見るとそこはもうもうと土煙が立ち込めている。

この光景は少し前に見た。


そう、目の前の正面城門が破られた際の状況と全く同じなのだ。

つまり今は北門も同じ方法で破られたという事。

そしてその僅か後に更に南門からも


ドドォォーーーン!!!!!!!!!!


と三度、全く同じような状況下の出来事が起こった。


「そんな・・・あれはいったい何度使えるというのだ?いやそれよりもそんなに連続で使用可能なのであれば何故最初からそう言った使い方をしなかった!?」


司令官が必死に考えを巡らせようとしていたが、現場指揮官はそんな司令官に慌てて声をかける。


「司令官殿!!撤退を!!!すぐに本国にこの出来事を知らせねばなりません!そしてあなたを失うわけにはまいりません!!すぐにここを離れてください!!」

「馬鹿な!私はここの最高司令官だぞ!そんな人間が真っ先に逃げられるわけが!!」


そうは言うものの後ろを見ると我に返った将校たちの後ろ姿が見えた。

彼らは我先にとこちらを振り返ることすらせずに逃げ出していた。


「兵の変わりはいくらでもききます!ですが貴方のような方はそう簡単に変わりがきくわけではありません!どうか撤退を!」


その言葉を聞き、苦々しい表情をしながら重い声で指揮官に問いかける。


「貴様はどうするつもりだ!?」

「私には、兵たちを最後まで指揮する責任があります!あなたに代わり、私がこの命に代えてもあの男を倒して、後の・・将来の不安の種を・・・!」


彼らが会話できたのはそこまでであった。


何故なら彼らの周囲に一陣の風のようなものが吹いたかと思うと、先ほどから何度も聞こえたドォォーーーン!!!!という音と振動が襲い掛かってきたのだから。


残念ながら彼らにはその音も振動も聞こえてはいなかったであろうが・・・。




チュトラリー城壁より前方、帝国先兵ウルベ隊ではその様子を見て殆どの者は唖然と、いや恐怖の表情で今目の前で起きている出来事を眺めていた。


あの頑強といわれたチュトラリー城壁がたった一日、否、わずか数時間以内に崩壊したのだ。

それもわずか一人の人間と思しき男が。


誰もがそれを行った男とその男を連れてきた人物に恐怖を抱いていた。

だが連れてきた男は満足のいく表情と少しの不満げな表情を繰り返していた。


「ふーむ、連続性は悪くない様子ですねぇ、ですが少々自己判断のタイミングが遅いような気もしますねぇ。火力は問題なしと、ですが・・・」


そこまで言った時、これだけの事を行った男が大地に伏した。


それを見て周囲の兵たちはざわざわと慌て始めるが、その男を観察していた男、ウルベは特に慌てる様子もなく観察する。


「やはりあの魔剣・・いえ魔拳でしたか?あれは何とも言えませんねぇ。確かにその効果はなかなかに良いものですが、使用者の負担があまりに大きすぎますねぇ。今回の件でもおそらく魔拳本体も無傷ではなさそうですし・・・ぶつぶつ」


と色々と独り言を言っていたようだが思い出したかのように指示を出す。


「あぁ、兵士の皆さん。さっさと城壁を確保してくださいねぇ。残っている戦力など僅かしかいないでしょうから貴方たちだけでも十分でしょう」

「は・・・はっ!!!お、おい行くぞ!!」

「りょ、了解!!」


それだけ聞くと兵たちは城壁に向かって突撃していく。もはやただの残党狩り程度の事になるだろう。


「さてアミーラ。あの男を回収して我々は撤退しますか。まだまだタイタンは調整が必要ですねぇ。あの魔拳も今後タイタンに使用させるとなるとそれに見合った調整をしないと・・はぁ、何とも中途半端なオモチャを送ってくれたものですねぇ」

「はっ!ウルベ様。すぐに回収してまいります」

「これ以後の指示は・・・嗚呼そうだ、ヴァーモット卿にでもお任せしますか。いくらあの方でももう終わった戦いの処理くらいは出来るでしょう」

「はい、戦後の処理ならばむしろ元商人としての力を発揮していただけるかと」

「ではそのようにお願いしますねぇ。とはいえ、城壁を一撃・・・ですか・・・・・くっくっくっくっく、くひゃっはっはっはっはっはっは!」


戦場でウルベの笑い声が轟いた。



いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。


楽しんでいただけましたら、感想や誤字訂正、ブックマークや☆評価などして頂けますとモチベーションアップにつながり、更新のペースも上がるかと思います。

これからもどうぞよろしくお願い致します。


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