第七十二話 チュトラリー城壁の戦い1
更新が遅れてすみません。
一年前 ランドグルーム国領帝国との国境付近 チュトラリー城壁
この城壁はかつて救世の戦いの時に作られ、多くの魔物の攻撃を撃退し続け帝国を守り抜いた人類族(全ての種族の総称)最後の城壁であり、帝国の属国であった頃より使用を許可されたランドグルーム国の、いや世界で最長、最硬ともいえる長さと硬さを誇っており、北南に長く続いている。
その城壁に現在ランドグルーム国の兵士約一万人が集結して、帝国側に対して防衛を行っていた。
ほんの一月ほど前に帝国の皇帝より全世界の国に向けて宣戦布告がなされたためだ。
確かに帝国には過去にあった栄光もあるし、我が国は属国だった時代もあった。
だがそれも人類族が滅亡の危機からの立て直しのために属国となっただけに過ぎず、百年ほど以前からはもう属国というのは名ばかりで、実際にはほどんどの国が自立して国を治めている状態だった。
故に急に属国に戻るか、滅ぼされるかなどという理不尽極まりない選択肢のみで宣戦布告を行ってきた帝国に対して我が国は当然の如く抵抗を選択した。
それからわずか一月ほどたった現在、帝国軍からおそらくは威力偵察兼降伏勧告の使者としてだろう、この城壁に千人ほどの部隊がやってきたのだ。
当然ランドグルーム国側はこの部隊に対して警戒はしていたが、それほど危険視もしてはいなかった。
むしろこの部隊を囮にして、別行動している部隊が別地点から強襲をかけてくるのではないかと周囲の警戒の方を重視していたほどだった。
だが普通に考えても敵本体は数万だと思われるならば、そう簡単に来ることは出来まいとランドグルーム国は考えていた。
ランドグルーム国とて宣戦布告を行われてから即座に行動に移して一月の時間をもって、ようやく一万の部隊を城壁にいれたのだ。
こちらは城壁に兵や物資などを入れるだけでよいが、相手は補給を行いつつ数万の部隊を常に展開して移動しなければならないとなれば、そう短時間で動くことも出来ない。
おそらくは数週間、或いは数か月後に敵の本体が来るであろうと予測していた。
当然ランドグルーム国は帝国に最も隣接しているのだから、宣戦布告を受けてから準備までかなり早かったのだ。
案の定、千の部隊から書簡が届いた。
内容は無条件降伏を行い、即座に城壁を明け渡すこと、また兵たちは今後帝国の属国の部隊としてこちらの指示に従うなど、明らかにランドグルーム国側が不利になることしか書かれてはいなかった。
ランドグルーム側はこれを拒否。
それも当然であろう。
堅牢な城壁に多数の兵力、数多の食料に物資があり、更にランドグルーム国の後方には海を挟んで商人の国もある。
補給も思うがままであり、また帝国に背後をつかれるような地形でもない以上、この兵力一万が、更に本土からの増援などを考えれば最低でも半年、いや一年以上は軽く防衛できる。
その上帝国の次に狙われる可能性のあるフィーリッツ王国の参戦や、虎視眈々と国の領土を増やそうとしている南に位置する帝国に次ぐ巨大国家教国も帝国が我が国との戦線に時間をかければかけるだけ侵略を開始するだろう。
時間を稼げばそれだけでランドグルーム国に有利となる。
これだけの状況が整っていて降伏する指揮官は存在しないだろう。
書簡を無視し、増援や伏兵などを警戒していたランドグルーム国だったが、ここで帝国側の千の部隊に動きがあった。
たった一名だけがランドグルーム国の城壁中央の巨大な城門に向かって歩いて来たのだ。
「失礼します!!帝国の偵察部隊より動きがありました!一名がこちらの城門に向かってきているとの事です!」
部下が緊張しながらもこの城壁の最高司令官へ報告にやってきた。
この報告を受けた最高司令官とその側近たちは失笑をしつつ返答をする。
「たった一人でとは・・・罠の可能性はまずあり得ますまい。おそらくは先ほどのふざけた書簡の返答を求める使者では?」
「全くもってその通りでしょう。いやしかしあのような提案が通ると本気で考えておるのでしょうか?帝国の名も随分と地に落ちたものですな!」
「それも致し方ないでしょう。かの国は巨大になり過ぎました。老いた竜はいずれ朽ち逝くものですよ」
その側近たちの答えを苦笑で答え、部下に返事を返す。
「はっはっは、そうだな。その使者殿には適当に身ぐるみでも剥いで帰してやれ。流石に使者を殺すわけにはいかんからな」
いくら相手が侵略者だからと言って何でもやっていいわけではない。
むしろここで使者を殺すなんてやってしまえば、世論の一部はランドグルーム国悪しという声が上がってしまう可能性がある。
どの世の中にもアンチは存在するのだ。
或いは帝国の草がそういった情報戦を行ってくる可能性もあった。
が、しかしさすがにこれだけコケにされるような提案をされて何もせずに使者を帰せば、今度は我が国が舐められるという面倒なことも起こりえるので、せいぜいが身ぐるみを剥ぐ程度の事で侮られないようにしようとしたのである。
報告を聞く限り、帝国が出してきたであろう使者はどう見ても高位の地位にいるような見た目でも服装でもなく、体格も将と呼べるようなものでもなかった為、おそらくは殺されてもいいだろうただの下っ端の文官辺りであろうとみられていた。
「あのような下賤な下っ端を使者に送るなど我が国も舐められたものですな」
「いやいや、存外帝国は人手不足なのかもしれませんぞ?」
等と側近たちは先ほどの報告を笑いの種にしながらワインを片手に談笑を行っていた。
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