第六十七話 二度目の変異
二人の間に何とか割り込むことが出来たネームレスが自身の剣を闇に向けて振り下ろす。
「ぐっ!?ぐぅぅぅ!!!」
闇と剣が押し合い何とか拮抗しているも光の範囲が大きい。
体の一部が黒い闇にやられて傷つくも何とか堪え切る。
「はぁはぁはぁ・・・くっ!?」
何とか耐えきったが流石に足や腕の一部に傷が出来ており、そこから血液が流れだす。
だが見ればキモ魔物も疲労しているのか、すぐに動き出すことはなく肩で息をしながら悔し気にこちらを睨みつけていた。
周囲を見やると美しかった花畑や作物を育てていた畑などが吹き飛んでしまっていたが、修道院自体には被害はなかったようで何とかなった。
思った以上に苦戦したが相手ももうあまり力は残っていないのか、こちらが明らかに隙を見せてしまっているが、動こうとはしていない。
もうしばらくすればまた多少動けるようになるかもしれないが、それまでには何とか決着をつけることが出来そうだ。
ネームレスがそう考えて自身の剣を杖代わりに起き上がろうとして・・・異変が起こった。
ドクン!!!!!
「ぐっ!?これは!?」
自身の、正確にはジュナスの肉体が大きな悲鳴を上げるかのようにひと際大きく心臓が鼓動を始めると、体が言うことを聞かなくなる。
「ま・・まずい!これは!アレが目覚めようとしておる!ジュナスよ!聞こえるか!?」
そう強く自身の中に問いかけるもジュナスからの返答がない。
何故アレが?そう考えて答えに気が付いた。
先程の黒い魔力の闇が、ジュナスの肉体からネームレスの魔力を周囲に流出、霧散させてしまっているのである。
結果、アレを押さえつけるための魔力が減少したことと肉体の損傷が、アレを目覚めさせる結果になろうとしているようである。
「ぐぅぅぅ!このままではジュナスに聞いておったように、我もろとも化け物に乗っ取られるやもしれん!何とか最低限に押しとどめておかねば!」
ネームレスがそう考えて何とか耐えようとするが、やはり体は言うことを聞かず、膝をついている状態から立ち上がることが出来ない。
そして目の前の魔物がようやくといった感じで動き出し、何やら嬉しそうな表情をして近づいてきた。
「ブルゥ!ブルッフッフッフゥゥゥ!!!!」
自分の攻撃で、きっとこの生き物は傷つき動けなくなったのだと勝ち誇るかのようにゆっくりと近づいてきていた。
「(こやつの攻撃などさほど聞いておらんというのに)」
ネームレスはそう思うも自身の体の中に潜む化け物に抗う事で精いっぱいであった。
「ブルゥオオオウウウウゥゥゥゥ!!」
遂に目の前まで来たかと思うとその腕をネームレスに向けて振り下ろそうとした。
だがそこで、声と魔力が発生した。
「めが・み・・イーヴァリス・・よ・・わ・が・・しん・・みょう・・・・我が・・ごほっ!・・まりょ・・くの・・全てを・・捧げ・・界・・結び・・を・・浄と・成せ・・」
そんな声が聞こえると光の柱がギルバートを中心に立ち上っていく。
その隣を見るといつの間にかシスターマザーも傍にいて、その手に魔導書を持ってギルバートを治癒しているように見えるが、どうしても魔力の流出が止められないのかあまり効果が見られない。
光の柱が女神の結界に触れると、それが結界全体に広がって結界が光で輝き、修道院の周囲は夜にも拘らず昼のように明るくなった。
その瞬間、魔物が突如何かに吹き飛ばされたかのように弾かれて結界の外にまで追い出されてしまった。
そしてジュナスの肉体を操るネームレスはというと。
「ぐぅルルル・・・グルゥ」
明らかに人が発するような声音ではなくなり、目が正気でないように赤く光り輝いていた。
そしてその目を周囲に向けると、先ほど吹き飛ばされて苛立っていた魔物が、結界に向かって再度突撃をしていたが、どうやらギルバートが命懸けで強化したらしい結界内には入ってこられないのか、攻撃をした腕の方が逆に火傷するかのように黒い血を流しそれが煙となって霧散していく。
その魔物とジュナスだった化け物の視線が交じり合うと
「グルウゥゥゥ!!!」
と雄たけびを発すると、化け物がネームレスの剣を地面に突き刺したまま、魔物に向けて突撃した。
とてつもない速さで結界を超えて現れたジュナス(化け物状態)に何の反応も示すことが出来ず顔を殴られて再度吹き飛ぶ魔物。
「グルアアァァァァァ!!」
ジュナスが今度はそう叫ぶと、右腕のサイズが大きくなったかと思うと黒い鱗に覆われていく。
体は未だに傷だらけで血を流しているが、人間のままなのに対して、右腕のみがドラゴンの腕となっているのが酷く歪で、まさしく化け物と呼ぶに相応しい状態であった。
修道院の人間も魔物が吹き飛ばされて、ギルバートの魔力を見てから皆が外に出てきてはギルバートの周囲を囲んでいたが、今はあまりにも歪な姿となったジュナスの姿に誰もが声を発することなく体を震わせてみていた。
「ブ・・・ブル・・ブルゥォォァァ」
先程とは打って変わって、怯えたかのような声を出して及び腰になった魔物が、ジュナスだった化け物を見て逃げようとしていたがそれすら許さずに追い詰めていく。
先回りしてはその右腕で顔を掴み、投げ飛ばすと地面を転がった魔物を殴りつけていく。
「グルルウ!!グルアァァァァァ!!!!」
顔を腕を足を胸部を殴って殴って殴って、最後にその細い腹部に向けていつの間にか鱗だけでなくドラゴンの爪で切り裂きそれを最後に元盗賊頭だったカーマッセのキモ魔物は生命活動を停止した。
いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。
楽しんでいただけましたら、感想や誤字訂正、ブックマークや評価などして頂けますとモチベーションアップにつながり、更新のペースも上がるかと思います。
これからもどうぞよろしくお願い致します。