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第六十一話 人質救出作戦2


ジュナスは今し方目の前に倒れた男を見て「成程・・・」とそう感じていた。

自分より弱いと思っている相手が姿を現して且つすぐに逃げれば当然のように追ってくる。


まして相手が一応とはいえ捕らえている相手だ、逃がすわけにもいかない、かといって格下相手ならわざわざ複数で追う必要もないという事か。


一時はどうなるかと思ったがこの子は俺と違ってなかなか咄嗟の頭の回転が速いように思う。


扉から入ったと思ったら即座に反転して出てきて俺の腕を引いて通路の先まで誘導してから、小さな声で「追ってきた相手に声を出させることなく倒してください」と言われた時はどうするのかと思ったが、悪い選択肢ではないな。


追った仲間がしばらく戻ってこないとなると、不審に思って更に一人二人は釣れるかもしれない。


だがその作戦は時間が多少かかるだろう、待つつもりか?いつ下から増援が来るともわからない状況で?待つという選択肢はあまり利口には思えないな。


この子はこの後どうするつもりなのか。

さっきの扉の辺りから聞こえてきた声を聞いていた限り最低あと2人以上はいるはずだ。


そう思って彼女、アイナの方を見るとアイナは倒れた男を確認した後に、こちらを見て小声で作戦を伝えてきた。


・・・・・・・・成程な、確かにその話が本当なら上手く行くかもしれない。試す価値は十分にありそうだ。


「おら!もっとしっかり動きやがれ!」

「まぁそれなりに長いこと使っていたからな、もうまともに声も出せやしねぇんじゃねぇか?」

「しっかしあの野郎いつまで追いかけてやがんだ?」

「ウスノロなんだろ?もしくはヤリ過ぎて腰がまともに動かねぇのかもな」

「ヒャッハッハッハッハ。ちげぇねぇや」


そんな話をしていると急に足音が聞こえてきた。

いや、いくらボロボロとは言え元々砦なのだ。


普通に歩いてもそんな音は聞こえない。

よほど急いで走ってでもいない限りは。


「おい!頭が戻ったぞ!集まれとの事だ!急げ!遅れるとどうなっても知らないぞ!」


足音の持ち主はそれだけ言うと再度足音を出したまま離れていった。

その声を聞いた中の二人は慌て始める。


「頭が!?そんな馬鹿な!まだ出かけて1日程度しか経っていないぞ!?」

「わからねぇ!わからねぇがとにかく急がねぇと俺たちまでケーガナイみてぇにボコボコにされちまうかもしれねぇ!」


いうが早いか男たちはそれまでの楽しい雰囲気から一転、非常に慌てて衣服を着ていく。

どうやら女たちはそのまま放置していくようだ。


「おい!女に逃げられちゃもっとやべぇことになる!ちゃんと扉は閉めて行けよ!」


そういうと先に身なりを整えた(といっても元々大した服ではないが)男の一人が我先にと扉を開けて出て行った。


「ま・・待てよ!俺がカギを持っているからって、てめぇ先に行く気か!」


そうは言うものの、実際に扉の鍵を持っているのは自分なので、文句を言いつつも急いで衣服を着て、扉から出て鍵をかけようとしている。


扉から出ると、先を行った男の姿は見えずどうやら既にこの階層にいないように思えるほど静かだった。


「クソッ!あの野郎!俺を捨てて先に行きやがったな!クソッたれが!」


そういいつつ腰に付けていた鍵をジャラジャラと必死に取り出して、鍵と閉めようとしていると急に背後に人の気配がした。


なんだ!?と背後を見る暇もなく男の意識は暗闇に落ちていくのであった。


「うーん、こんなにうまくいくとは正直思ってなかった」


何せ聞いたことない奴からの声なのだから、もう少し怪しまれるかと思っていたんだが、そんなこともなく普通に出てきたので全然楽に行けた。


「あの男たちの頭っていうのが、以前に私たちの前に現れた時も他の奴らは私たちを放置して慌ててその男の所に行ったから、多分上手く行くんじゃないかと思ったんです」

「恐怖政治でもやっているのかな」


ぼそっと一言それだけを呟いてから男たちを退ける。

気絶させても良かったが、正直生かしておくメリットが全くなかったので、どうするかはネームレスに任せた。


俺もいい加減戦闘の時に自分で体を動かした方がいいのかなとも思うのだが、元日本人のただの一般人に剣を扱った戦闘というか殺し合いの動きなんてできるはずもない。


最近はネームレスも状況を察して、必要な時はすぐに切り替わってくれるし、頭の中で会話するのにも慣れたのでわざわざ声に出さなくてもよくなったのはよかった。


「???」


隣ではアイナがよくわからないような表情で俺の一言を聞いていたようだが、特に何か言う訳でもなく、そのまま男の腰から鍵の束を手に入れようとしている。


これがあれば中の女性の枷も外せるだろうし、他の女性たちが閉じ込められている部屋も開けられるだろう。


そうこうしている内に、アイナは中に入ろうとしているが、そこをジュナスが待ったをかけた。


「すまない、中の女性が気がかりなのはわかるから、様子を見るくらいは構わないが命の心配でもない限りは、介抱するのは他の女性たちを助け出してからにしてもらっても構わないか?流石に男の俺が介抱するのは中の女性たちには苦痛だろうし、かといって他の女性たちを俺が助け出すにしても信じて貰える自信がない」


それはそうだろう。


別にジュナスの見た目が盗賊臭いとかそういう事ではなく、彼女たちは捕まってから今日までずっと、男達にいいようにされていた上に、他に一緒にいた男たちは全て殺されているのだ。


この場所にいる男=盗賊という方程式になっていて当たり前であろう。

救助に来た。

といっても時間をかければ信じて貰えるかもしれないがそんな時間に余裕はない。


いくら今はいいとしてもまだ他にも見張りはいるだろうし、いつ他の奴らがここに登ってきたり、見張りのいない砦の入り口に気が付くとも限らない。


その点アイナが先に他の女性たちを助ければ、俺がいきなり顔を出すよりも信用されるだろうし、先ほどまで酷い目にあわされていた女性たちの介抱も手伝って貰えるだろう。


そのことを説明すると、アイナは少し辛そうな表情をしたが、確かに自分一人で介抱するよりも他の人達の力を借りた方が効率的にも時間的にもいいと思ったのか頷いてくれた。


「では先に他の女性たちの方に」


先ほどまでひどい目にあっていた女性たちの室内を確認した後に、そういい別の扉の方へ向かっていく。

すぐに移動したという事は特に命の心配がある人はいないという事か。


そして少し移動した先の扉の前でアイナが立ち止まった。ここに他の女性たちがいるという事か。

距離的には全然離れていない。


せいぜい50歩程度しか歩いていないだろうが元々それほど大きな砦と言う訳でもない。


「っと・・そうだ」


アイナが扉の鍵を開けている最中にジュナスが何か思い出したかのように魔法の袋から水の入った革袋と布、それから毛布とローブその他食料などをアイナに手渡した。


「これを。中の人達はまともな衛生状態じゃないんだろう?」


それは事前にギルバートさんとマザーが用意してくれていたものだ。

盗賊に捕まったという事、それがどうなるのかは二人ともわかっていたんだろう。


辛そうな表情をしながら渡されれば、流石に俺もそれがどういうときに必要になるのかはわかっていたので、ここぞとばかりに渡しておいた。


「俺は外で待っているからある程度落ち着いたら呼んでくれ。あまりゆっくりはできないが、軽く食べ物や飲み物も入っているから、それらを渡しておく。戦えるくらいに動ける者がそれなりにいるのなら、俺は下の階層に行って奴らを壊滅させようと思うが、万一を考えて武器も渡しておく。そこまで動くことが出来るものがいないなら俺と一緒に行動するしかないが・・・」


砦が非常に狭くて道が分岐したりしていないなら一人で下層に行って敵を通さなければいいだけなのだが、いくら小さい砦とはいえ、流石に人一人の通路しかないという事はない。


なので俺が敵と戦っている間に別のルートからこの階層に来られて、また彼女たちを人質に取られでもしたら全てが水の泡になってしまう。


だが動ける者がそれなりにいるなら、元々彼女たちはある程度戦えるタイプの人間だったはずだから、時間は稼げるだろう。


それさえしてくれれば俺もすぐに救援に向かうことも出来るだろうし、あとはこの砦に残っている敵の数にもよるけど、ボスがいないとなるとそこまでの数も残っていないだろうと思う。


とはいえのんびりは出来ない、そのボスたちがいつ帰ってくるかわからないのだ。


どこに行ったかは知らないが、俺一人なら逃げるだけならどうとでもなるが、彼女たちを連れてとなるといくら何でも難しいだろう。


理想はボスが帰ってくるまでにここを制圧してさっさと脱出することだ。

修道院にさえ戻れれば女神の結界もあるし、何とでもなるだろう。


とはいえ、夜の森を抜けなければならないのである程度体力は回復して貰わないといけないし、何人かには護衛として動いて貰わないと俺一人で全員をカバーするのはいくら何でも無理だろう。


だからこその食事と武器なんだけどな。

等と色々頭の中で考えている間にアイナが中に入っていった。

いつもご覧いただきまして、ありがとうございます。


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これからもどうぞよろしくお願い致します。


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